Rauber Kopsch Band2. 016   

唇面(前面)は凸,舌面(後面)は凹であり,この両面ともその中央部に歯冠の底から尖端にまで達する低い稜線をもっている.舌面にはそのほかになおすでに切歯で述べたような内外の両側縁に沿う高まりとつよく円みを呈する1個の歯冠結節(基底結節)Tuberculum dentisがある.歯根は単一で(下の犬歯ではときとして分岐している),長大であり,横の方向に押された形で,内外の両側面に縦走する溝がある.上の犬歯の方がいっそう長い根をもち(25mmにまで達する),下の犬歯の方がいっそう長い歯冠をもっている.上下の歯列を咬み合わせたとき上の犬歯は下の犬歯より外側にあって,上の歯の尖端が下の歯の外側縁に接している(図12).

[図17]左上の犬歯* 歯冠の尖端からみる.矢印は弯曲徴の方向を示す.

[図18]左下の犬歯* 半ば外側面,半ば舌面よりみる.+ 2本に分れた根をもつ左下の犬歯を外側面よりみる.

a)上の犬歯.唇面(前面)が横の方向において著しい膨らみをもつことはこの歯を尖端の方からみるとよく分る.内側と外側の切縁が接触面と合するところの角は高さが異なっており,その強さも同じでない.外側の角の方がいっそう高い所にあり(すなわち歯冠の底にいっそう近い),かつ平らであって,内側の角はいっそう低い所にあり,かつ著しく(外側切歯の方に向かって)突出している.鈍い縦の高まり(中心隆線[唇側面隆線]Mittelleiste)によって唇面が2つの3角形の部分に分れている.すなわち内側の比較的せまい部分と外側の比較的ひろい部分とである.舌面(後面)は斜方形に近い形で,ここにも中心隆線があって,これはよく発達した内外両側の辺縁隆線Randleistenといっしょに2つの3角形をした浅いへこみを境している.このへこみは歯の磨滅がすすむと浅くなり,終にはなくなる.基底結節ははなはだしく円みを呈している.つぎに内外両側の接触面は3角形をしていて,エナメル質の境界はむしろ弓状をえがいており(切歯ではかなりはっきりとV字状である),またその境界が内側の接触面では外側面におけるよりも歯冠の尖端にいっそう近い.また言い換えるとエナメル質の境界と歯根尖との距離が内側面では外側面よりもいっそう大きい(その差は1.5mmに達する).歯根はおよそ25 mmの長さがあり,側方から押された形で,内外の両側面に縦の溝がある.根の前縁は幅がひろくて,ことに歯冠の近くでは面をなしてひろがり,後縁は狭くて角だっている.歯根尖はしばしば外側にまがっている.

 上の犬歯の左右のものを見わける目標としては第1に歯冠の面の弯曲である.この弯曲はすべての歯のうち犬歯で最もつよいのである.なお左右間を区別するには歯根徴,内外両側の切縁の長さのちがい,切縁が接触面とつくる角のところが内外両側で異なること,ならびにエナメル質の境界が歯根尖や歯冠尖から隔たっている関係を注意すべきである.

b)下の犬歯.歯冠はこれを唇面からみるとやや細長い(指の)爪の形で,この爪は尖った突出部をもつように切ってあるといえる.個々の点についてみると,その歯冠には上の犬歯で述べたのと同じ性質がみられるが,ただその割りあいがちがうのである.

 しかし次に述べる特徴は格別に注意を要するのである.1. エナメル質の境界が唇面ではいつも舌面におけるより低い所すなわち歯根尖にいっそう近い所にある(その差は1.5~3mm).またこの境界が外側面では内側面よりも低い所にある.2. 歯冠が歯根の方向に立っていないで,舌の方(すなわち内方)に25~27~31°の角度で傾いている.著者(Kopsch)はこれを簡単に云い表わすために下顎の歯のKronenflucht(歯冠の逃避,舌側傾斜)とよんだのであって,この現象は下の犬歯のほか下の小臼歯と大臼歯にも存在するが,下の切歯にはこれがみられないのである.

 歯根は上の犬歯のものよりもいっそう直線的であるが比較的に短い.歯根尖のところが外側へまがることは全くない.根が側方からつよく押された形であって,内外の両側面は深い縦の溝を示すが,たいてい外側面の縦溝の方がいっそう深い.根が唇の方(前方)と舌の方(後方)のそれぞれ1本に2分していることがまれでない.

S.016   

最終更新日10/08/31

 

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