Rauber Kopsch Band2. 022   

 上下の歯列弓の弯曲のぐあいが違っている.上方のは楕円の半分であり,下方のは放物線である.この食いちがいは歯の向き方によって幾分少なくされている.つまり上顎の歯は斜めに唇の方あるいは頬の方に向かっており,下顎の歯の歯冠は舌の方に向かって弓状にまがっている(“歯冠の逃避”,16頁).そのために上顎の切歯は下顎の切歯の前方にこえるのであって,下歯は上歯によって1~3mmも被われるのである.これをÜberbiß(上を越える咬み合せ)という.厳格にいうと,この関係は後方の歯にもみられるのであって,そこでは上顎の歯の頬側咬頭が下顎の歯の頬面(外面)を越えて出ているのである.

 また歯冠が外側ないし後方にたがいにずれているのであって,従って1つの歯列に属する各々の歯が他の歯列の2つの歯と触れるのである(artzkorliert関節する).たがいに関節する歯が対合歯Antagonzstenとよばれ,これに主対合歯Hauptantagonzstenと副対合歯Nebenantagonistenとが区別される.その例外をなすのが下の内側切歯と上の第3大臼歯であって,これらはそれぞれ1個の対合歯しかもっていない(図12).

[図30]上顎の歯列の乳歯の咀嚼縁と咀嚼面

 2才の子供.永久歯の切歯の尖端部が歯槽のそとに見えている.

 咀嚼における上下の歯列の作用は,1つの鉗子でその両腕が前方では切断し,後方では圧しつぶすものにたとえると最も適切である.切歯は食物の塊りを噛みきり,犬歯はその塊りをしっかりと保っている.小臼歯と大臼歯は噛みきられた食物の塊りをすりつぶしたり,ちぎつたりする.そのぼあい下の歯列の歯は固定している上歯列に対して咀嚼筋のまたらきによってただ圧しつけられるのみでなく,上歯列に接しながら前方や両側方に動かされるのである.

 歯の咬耗Abnutzung der Zähne:歯冠は歯が互いの間で研ぎ合うことにより,また歯が処置する物質そのものによって次第に磨り減らされる.その咬耗の程度は咀嚼筋の強さ,食物の種類,咀嚼期間の長短などにしたがって異なる.初めには小さいが,後にだんだんと大きくなる小面Fazettenができて,ここは表面がごく平滑であり,光をつよく反射する.こういう小面の位置と大きさは個人的にはなはだしく違っている.それは歯の立っているぐあいと大きさに関係し,咀嚼運動の行なわれ方にも関係している.

d)歯の顕微鏡的構造(図3143)

 歯を構成する4つの異なる成分がある:1. ゾウゲ質,2. エナメル質(歯小皮を含む),3. セメント質,4. 歯髄,これらのなかでエナメル質が上皮牲の起源をもち,他のものは結合物質の群に属する.歯髄は血管と神経を豊富にもっている.

1. ゾウゲ質Substantia eburnea, Dentin, Zahnbein, Elfenbein(短くEburともいう).これは歯の大部分を成しているもので,ゾウゲ質組織からできている.この組織の構造については第1巻ですでに述べた.ゾウゲ細管Canaliculi dentales, Zahnkanälchenの走り方についてなお次の点を付け加えておく,この管は歯髄腔からおこって放射状に,すなわち歯髄腔の壁に対して垂直の方向にゾウゲ質の縁に向かってすすみ,その経過のあいだにたびたび分岐する.

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最終更新日13/02/04

 

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