Rauber Kopsch Band2. 064   

β. 咽頭をひき挙げる筋(図76, 85, 86)

1. 茎突咽頭筋M. stylopharyngicus.茎状突起でその根もとに近いところからおこって,下方かつ内側にすすみ,頭咽頭筋と舌骨咽頭筋のあいだを通って咽頭壁に入る.その線維の一部はこれらの2筋と交織し,また束をなして口蓋扁桃の外面に達するが,他の線維束は舌口蓋筋に合する.しかし最も多くの線維は甲状軟骨と喉頭蓋の縁にゆくのである.

2. 咽頭口蓋筋M. pharyngopalatinus. これは咽頭をひき挙げる筋としては大きい方のものであるが,すでに口蓋帆の筋として述べたのである(図86).

 いつもあるとは限らない咽頭挙筋の1つが咽頭耳管筋M. pharynogotubalis(図86)である.これは小さい筋で,耳管軟骨の下縁のところからおこって,後下方にすすんで咽頭の内側壁にいたり,ここで咽頭口蓋筋と合して区別がつかなくなる.

 その他にもやはり存在不定の過剰の縦走筋として,側頭骨の錐体からおこるもの(錐体咽頭筋M. petropharyngicus),あるいは後頭骨の外側部・(大後頭孔のすぐ外側のところ)からくるもの,翼突鈎の尖端からくるもの,後頭骨の底部の中央のところからくるものがある.最後に述べたものに属するのがM. azygos pharyngis s. solitarius pharyngis(咽頭不対筋あるいは咽頭孤立筋)であって,咽頭結節からおこって下方にすすみ,咽頭の後壁において扇状にひろがっている.

3. 咽頭の外膜Tunica externa

 咽頭壁の最外層であって,咽頭収縮筋を外方より被う薄い結合組織の1層であり,咽頭頬筋筋膜Fascia pharyngobucinatoriaの下部とみなすことができる.

4. 咽頭の粘膜Tunica mucosa pharyngis(図82, 84, 87)

 咽頭の粘膜は白ちやけた赤色を呈し,咽頭の上部では比較的厚くて,多数の上皮性および結合組織性の腺をもっている.上皮性のものは咽頭腺Glandulae pharyngicaeとよばれる.第2に述べた種類の腺は小胞腺の集りをなしていることと単にリンパ小節の集りにすぎないこと,あるいはいっそう単純なリンパ性組織の集りのこととがある.これらの集りの1つが卵円形の軟い板をなして咽頭円蓋にみられ,これが咽頭扁桃Tonsilla pharyngica, Rachenmandelである(図84).その側方へのつづきが咽頭陥凹の壁で耳管の後方にある.これらの場所に粘液腺もまた存在している.咽頭扁桃の領域では粘膜が口蓋扁桃におけると同じぐあいにひだをつくって落ちこんでいて,そのへこみを扁桃小窩Fossulae tonsillaresという(図87).変異として対をなさない1つの嚢状のものが円蓋の正中部にみられる.これを咽頭嚢Bursa pharyngicaという(図83).

 咽頭鼻部Pars nasalis pharyngisの上皮は線毛をもつ多列円柱上皮である.しかしその他の咽頭の諸部は重層扁平上皮で被われている.

 咽頭粘膜の神経は鼻部に対しては三叉神経の第2枝であるが,口部Pars oralisに対しては舌咽神経,喉頭部Pars laryngicaには迷走神経の上喉頭神経である.

 咽頭粘膜の血管は咽頭に分布するかなり太い血管の枝がきている.咽頭粘膜のリンパ管については脈管系を参照のこと.

 蝶形骨体の外面に接して,頭蓋咽頭管Canalis craniopharyngicusの外方への開口のところに,ここにある頭蓋底の固い線維装置のなかに包まれて,その構造から下垂体の前葉に当る1つの小さい腺がある.Civalleriによるとこれは常に存在するという.これは咽頭下垂体Hypophysis pharyngica, Raehendachhypophyseとよばれる.成人においては幅がおよそ5~6mm,厚さは0.5~1 mm,胎児では3mmの幅,新生児では4mmの幅である.顕微鏡でみると,上皮細胞索より成り,コロイド物質で充たされた少数の腺管とわずかの色素好性細胞をもっている.この器官の大きさ・形・位置ならびにそれらの細胞の量と発達度は著しく変化に富むのである.

5. 咽頭腔 Cavum pharyngis, Schlundhöhle(図82, 84, 87)

 耳管の漏斗状をした3角形の開口が下鼻道を後方に延長したところにある.ここを耳管咽頭口Ostium pharyngicum tubaeといい,この開口の前方は低いがはっきりした前唇vordere Tubenlippeによって境されている.

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最終更新日13/02/03

 

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