Rauber Kopsch Band2. 065   

後方の境をなす後唇hintere Tubenlippeの方が丈けが高い.そして前後のものを合せて耳管隆起Torus tubalis, Tubenwulstという.下壁には口蓋帆挙筋による粘膜の高まりがあって,挙筋隆起Torus m. levatoris, Levatorwulstとよばれる.耳管隆起から下方に向かって粘膜のひだ(咽頭耳管ヒダPlica pharyngotubalis)がのびているが,これはまもなく消えてしまう.耳管隆起の後方で粘膜がへこんで咽頭陥凹Recessus pharyngicusあるいはローゼンミューレル窩Rosenmüllersche Grubeという行きづまりの嚢をなしている.その形は全くいろいろである.この陥凹の壁は咽頭扁桃の側方への突出部によってできている.

 この扁桃の部分がよく発達しているか退縮しているか(年令がますと必ず退縮がおこる)によって,ローゼンミューレル窩の深さが実際にきまるのである.

 喉頭口の上方で各側に喉頭蓋の側縁に向かってのびる咽頭喉頭蓋ヒダPlica pharyngoepiglottica(図87)があり,これは茎突咽頭筋の一部がその内部にあってこのひだを生ずる基をなしている.喉頭の後壁が鈍い正中の高まりをなしていて,その上方に喉頭への入口すなわち喉頭口Aditus laryngisがある(図87).喉頭の後壁による高まりの外側で咽頭腔は梨状陥凹Recessus piriformisというかなり広いへこみをなしている(図87).このへこみの壁にしばしば喉頭神経ヒダPlica nervi laryngiciという高まりがみられる.

III.食道Oesophagus, Speiseröhre(図8790, 93)

 食道は喉頭の輪状軟骨の高さ,すなわち第6頚椎の高さではじまり,長さ28~30cm(日本人の食道の長さ(輪状軟骨の高さから噴門まで)は男の平均24.71cm,女の平均22.9cmである(谷口健康, 日本外科学会誌28巻1151~1174頁,1928).)の縦の管をなして下行し,下るとともに次第に脊椎から離れて,第9ないし第11胸椎の高さにいたる.ここで横隔膜の食道孔Foramen oesophagicumを通り抜けて,右後方から胃に開口する.食道の横径は1.5cmほどあって,同時にここが消化管の全部を通じて最もせまいところである.もっとも食道の中央部は嚥下運動のときに径3~3.5cmまでひろがることができる.

 ふつうの場合に食道の広さと拡張性はどこでも全く同じというわけでなく,食道の最初のところ,ついで大動脈弓のそばあるいは左の気管支の初まりの部に向いあったところ,および横隔膜を通り抜ける直ぐ上のところで,いくらかいっそう狭い場所のあることが多い(輪状軟骨峡部Ringknorpelenge,大動脈ないし気管支峡部Aorten-bzw. Bronchialenge,横隔膜峡部Zwerchfellenge).

 食道の脈管.いろいろの場所から血管が食道にやってくる.下甲状腺動脈から来るし,胸大動脈からはふつう4本ないし5本の食道動脈Aa. oesophagicaeがくる.そのほか左胃動脈や左の下横隔動脈からもやってくる.また静脈叢ができていて,それから流れでる食道静脈Vv. oesophagicaeは下甲状腺静脈,縦胸静脈,胃の冠状静脈(これは門脈に入る)に達している.食道の下部1/3のリンパ管は上胃リンパ節にいたり,中部1/3のものは気管支リンパ節および後縦隔リンパ節に,上部1/3のものは下深頚リンパ節にいたるのである.

 食道の神経は主として左右の迷走神経からきて,これらが食道神経叢Plexus oesophagicusをなしている.さらに縦隔神経叢Plexus mediastinalisからいくつかの小枝がきている.

 局所解剖:食道はまず気管と脊柱(椎前筋膜が被っている)とのあいだにあり,気管とは強固な結合組織により,脊柱とは疎な結合組織により連なっていて,最初のうちはその前方にある気管の方が幅がひろいので,食道はそのかげに全くかくれている.しかしまもなく食道は左の方に偏してきて,そのため胸腔に入る前に,食道の左縁が気管の左縁と一致するようになり,さらに下方では気管の左縁のところに見えてくる.ついで食道は左の気管麦と交叉する.この高さから下では食道はだんだんと脊柱から離れる(図89).そして胸大動脈の前方で長くひきのばされた1つのラセンをえがくのである.胸大動脈の初まりの部は食道の左側に接しているが,それより下になるとこの動脈は脊柱と食道のあいだに入りこむ.そして食道が横隔膜を通り抜けるときは食道が大動脈より左方に離れているが(図88),これは胃の噴門に移行するためである.気管分岐部より下方では食道は長い距離にわたって心膜のうしろにあり,そのさいまず食道神経叢にとりまかれるが,さらに下方になると迷走神経の前幹と後幹Truncus ventralis, dorsalis n. vagiに伴なわれている.食道はその経過のおよそ中央のところで右側で或る距離だけ右側の胸膜で被われている.頚部では甲状腺の外側葉が食道の側縁に少しの範囲ながら接している.

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最終更新日13/02/03

 

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