Rauber Kopsch Band2. 126   

 水肺Wasserlungenは袋の形をした器官で,そのなかには筋の働きによってポソプのように水が送りこまれ,また送りだされる.この袋の壁にある血管が呼吸にあずかっている.空気肺Luftlungenのもっとも簡単な形はやはり血管の豊富な膜状の袋で,その袋の中では水肺で水がつとめていた役目を外界の空気が果している.この袋にはひだがあって単純な,あるいは複雑な凹凸をしめしていることがあり,そのために呼吸面が著しく大きくなっている.気管系Tracheensorstemeは昆虫やその他の節足動物にみられるもので,ひじょうに多くの枝分れをした空気の通ずる管からなっていて,その幹は体の表面のいろいろなところで外界とつづいている.管は次第に顕微鏡的な細い枝に分れ,おびただしい数になって組織を貫いて諸細胞に空気を直接に導き,その生活に必要な酸素をあたえている.つまり呼吸には体呼吸,皮膚呼吸,腸呼吸,鰓呼吸,水肺呼吸,空気肺呼吸,気管呼吸という区別がある.血管系が存在する動物では,血管系の形成が呼吸器の形によってはなはだ大きい影響を受けることが当然予期されるのである.

 血液はこの場合には栄養を司どる機能のほかに外界の空気または水とのガス交換のなかだちをしている.

 血液は呼吸器を通じて外界の空気または水と接触し,Oをとり入れてCO2を送り出し,鮮紅色の動脈血となる.動脈血は体の諸組織に導かれて,これにOをあたえCO2を受けとり,暗赤色の静脈血となる.前の方の現象が外呼吸であり,後の方のが内呼吸である.

 人間は空気肺による呼吸をおこなっている.しかしひじょうに興味があるのは胎児の発生にさいして,まず体呼吸と皮膚呼吸とが行われ,その後に完全な形の鰓弓Kiemenbögenの装置が現われるが,しかし鰓じしんも鰓呼吸も認められないのである.そのかわり胎児では胎盤呼吸Placentaratmungという特別な形の呼吸が行われる.これは局部的に高度に発達した腸呼吸とみてよいものである.肺は腸管系に由来するものであるから,肺呼吸も広義の腸呼吸に含まれるもので,腸の一部が特別な形となって呼吸作用にあずかつたものなのである.

 空気を呼吸する動物の呼吸器は広い範囲において,いま1つの重要な機能,すなわち発声Lautbildungという仕事もしている.発声器官はその発達度にいろいろの違いがあるが,薄い膜,あるいは皮膚のしわといった形をして呼吸器にくっついており,いろいろな場所(たいていは呼吸道の初まりのところに)存在している.ここで作られる音声が驚き,さそい,了解の手段として役だつのである 特に人間ではこれがよく発達していて言語の基となっている.

呼吸器系の構成要素(図223)

 呼吸器系はよく動くことのできる胸腔のなかにある左右の肺,それに気管および喉頭からなりたっている.喉頭の上口は咽頭の前壁に開いていて,咽頭を通じて口腔および左右の鼻腔とつながっている.そして口腔や鼻腔が体の表面に開く口をもっている(図84).鼻腔・口腔・咽頭を上気道と呼ぶが,これらは空気を導くほかに,なお重要な機能をもっていることを忘れてはならない.

 筋の働きで胸腔が広げられると,外気は広がりつつある肺のなかに流れこみ,肺は胸腔の壁に密接したままである.この吸気Einatmung, Inspirationの過程に続いて,呼気Ausatmung, Exspirationが起り,CO2と水蒸気に富む空気がふたたび追い出されるのである.なおまた,呼吸は一定のぐあいに,心臓への静脈血の流れに影響をあたえている.肺は胸腔において漿膜,つまり左右の胸膜のなかにあるためにその運動が容易にできるのである.

 気管・喉頭・咽頭・鼻腔は本来の呼吸器官である肺への往復路であるが,その上に喉頭は特別な発声器官となっているし,また鼻腔の壁の一部は感覚器の1つである嗅覚器となっている.

A.上気道obere Luftwege

 上気道は外鼻を含めた鼻腔・口腔・咽頭である.口腔と咽頭はすでに消化器系のところで取り扱つたから,ここでは外鼻と鼻腔について述べる. 鼻腔にある嗅覚器については感覚器のところで述べる.

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最終更新日13/02/03

 

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