Rauber Kopsch Band2. 242   

 膨大部の粘膜には分枝した小さい腺がある.円柱形の上皮は多量の黄いろい色素粒子をもっている.

 精嚢腺(図318)の構造は膨大部のものに似ている.すなわち外側の結合組織の被膜と3層の平滑筋層,および淡い褐灰色をした粘膜をもっている.粘膜は網状につながった小さなひだを形成していて,そのあいだにかなり深いくぼみがある.上皮は黄いろい色素をもつ丈の低い円柱細胞からなっている.

 精嚢腺は精子の貯蔵所ではなくて,蛋白質を含む液を分泌するのである.その液のなかにはときおり精子の存在することもある.

 射精管は(図320)円柱上皮をもっている.この上皮が開口部の近くでは重層扁平上皮にかわる.筋層は外側と内側の縦走層とその間の輪走層からなりたっている.外膜はこの管の全長にわたって密な静脈叢を豊富にもっている.

 血管:精嚢腺には血管がはなはだ多い.これは上・下の直腸動脈の枝と,精管動脈および下膀胱動脈によって養われている.

 神経:結合組織の被膜のなかには密な神経叢があり,そこには大小多数の神経節がみられる.

精液Sperma(Semen), Samen

 精液は男の生殖源で,射精されたときの状態は白色がかつて粘性のつよい濃い液体でアルカリ性の反応を示し,独特の臭いがある.これは空気に触れると流動性がますようになり,本当の液体成分とそのなかに含まれている有形成分とからなっている.精液は精巣とその導管に開口する付属の諸生殖腺からの産物が合わさったものである.

 精巣は精子をつくるほかに,少量ではあるが精子を運ぶに必要な液を分泌している.この精巣でできる精液の最初の成分はやはりアルカリ性か,あるいは中性である.しかし臭いはなくて,たやすく乾燥する傾向がある.

 精嚢腺・精管の膨大部・前立腺・尿道球腺からの分泌物は精巣の分泌物が外にでるとき,それに混じるのであるが,これらが射精された精液のかなりの部分,恐らくはその大部分をしめている.射精が急にひきつづき行われると後者の割合いがいっそう多くなる.

 精液の本質的な要素は精子Spermien, Samenfädenod. Samenkörperchenである.これは以前は精虫Spermatozoenと名づけられていた.

 精子の運動はその尾部を振子様または波状に振ることによっておこる.この運動によってその軸のまわりに回転しながら1秒間に25µの速度(Adolphi)でまっすぐ前方に進む.精巣の濃い精液ではこの運動は全くないか,あるいはごくゆっくりしたものである.運動が最も速いのは射精されたばかりのときである.運動の継続する期間は周囲のいろいろな条件によって支配されるのであって,もっとも長く続くのは精液の濃度と同じか,あるいはそれに近い液のなかである.前立腺や尿道球腺の分泌物,および女の生殖器の正常な分泌物のなかでは特に活ばつである.精液を水または唾液で強く薄めると運動は短時間のうちに,あるいは即刻停止してしまう.だいたいにこの運動の生成は線毛運動Flimmerbewegungのばあいと似た条件に支配されている.それは精子が線毛細胞と近縁のものだからである.--精子は液体の流れが秒速3µ以上であるときはこれに逆らってすすむ(Adolphi, Anat. Anz., 26. Bd.,1905).

 精液にふくまれるその他の有形成分としては無色の丸い小さい小体,いわゆる精液粒子Samenkörnchen,それに脂肪粒と,生殖器のいろいろな部分から脱落した上皮細胞である.

 精巣の分泌物は精細管の中軸部,ついで精巣網に集まり,それから精巣上体の諸管,さらに長い精管に集まってくる.精嚢腺は全く精子を貯えていないし,この腺は多くの動物では欠如するのである.それゆえ精嚢腺は精子の貯臓所ではなくて分泌器官であり,その生産物は蛋白質性の液体であって,これが精巣の分泌物に混じるのである.しかし生殖能力のある健康な男の精嚢腺には常に少数の精子が存在している.

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最終更新日13/02/03

 

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