Rauber Kopsch Band2. 500   

叢形成の様式(図538, 539)

 腕神経叢の形成にあずかる諸神経索の結合および分離には細かい点では多くの変異が現われるとしても,その形成の様式は1つの定型的なものといえる.

 図538の模型図が示すように,まず神経叢の2根Th IとCVIIIとが多くのばあい斜角筋裂のなかで合して下神経幹Truncus caudalisをつくる.斜角筋裂から出たところで上方の2根CVとCVIとがたがいに合して上神経幹Truncus cranialisとなる.また中央の1根であるCVIIはまず中央の幹すなわち中神経幹Truncus intermediusをつくる.これら3つの幹からは2次索が次のようなぐあいにできる.それは3つの1次索がそれぞれ各1本の前枝と後枝とに分れる.それらの後枝は合してただ1本の索,すなわち背側神経束Fasciculus dorsalis(2)となる.第2の2次索である橈側神経束Fasciculus radialis(1)は両2次索の残りであるa1とa2とが合して作られる.第3の2次索である尺側神経束Fasciculus ulnaris(3)はやはり1次索の残りであるa3からできる.

 ここに述べた腕神経叢の様式は日本人でも全例の70~80%にみられる(Hirosawa, Arb. anat. lnst. Kyotoの1931)(平沢興).神経叢の形式とその枝の関係におけるヨーロッパ人と日本人の差異は全くわずかなものでしかない.

 これら3つの索は小胸筋の後方にある腋窩動脈A. axillarisの部分をその全長にわたって取り囲んでいる.(前上方にある)橈側神経束からは正中神経の半分と筋,皮神経とがおこる.(前下方を占める)尺側神経束からは正中神経の別の半分,尺側上腕皮神経と尺側前腕皮神経,尺骨神経がおこり,背側神経束からは橈骨神経と腋窩神経とが発する.

 正中神経の両根は正中神経係蹄MedianusschlingeあるいはMedianusgabelとして腋窩動脈をフォーク状にはさんでいる.

 その5つの根のそれぞれに前枝と後枝とが区別される(図539).それらの後枝は合して橈骨神経といくつかのいっそう小さい神経を形成する.前枝についてはまずIとVIIIとが合して1つの幹となり,次いでVII, VIおよびVが合する.この索の上方の部分をなす幹からは正中神経の上方の根と筋皮神経とが出るし,下方の索からは正中神経の下方め根と尺骨神経および前腕と上腕との尺側皮神経が出る.

 なおさらにつつこんだ分け方をしてこの神経叢から出るいっそう小さい枝にまでもおよばすならば,2つの大きな神経群が区別される.その2群とはそれぞれ上肢の屈側伸側とに行くものである.それは神経叢の根と枝とに後方の部分と前方の部分とがあって,これらの枝や根が運動性のものである限り,上肢帯と自由上肢の背方および腹方の筋肉を支配する.ここで体肢の“背方の神経”dorsale Nervenというのはただ局所解剖学的に見ただけの背方の領域にあるものであって,形態学的意味における背方の神経ではないということは,形態学的な背方の神経は何であるかを思い出してもらえばよいのである.本当の背方の神経は体肢には決して存在しないのである.

 Eislerによれば腕神経叢の前方の層からは次の諸神経が発する;すなわち,前胸神経・筋皮神経・正中神経・尺骨神経・尺側前腕皮神経である.これに対して後方の層には次の諸神経が属する:すなわち,肩甲背神経・長胸神経・肩甲上神経・腕窩神経および橈骨神経である.

 尺側上腕皮神経はこの両方の層から線維を受けている.体幹への短い神経はこの神経叢の形成にはあずからない.

a)腕神経叢と他との結合

1. CIVから出てCVに達する1結合枝;

2. Th IIから出てTh Iに達する1結合枝(腕神経叢の下部の根であるが,その存在は不定であり,その太さは個体的に異なる);

3. 交感神経とのかなり太い結合.これはこの神経叢の諸根が合して叢を形球するまえにそれらの根から出ている.

b)腕神経叢の枝

A. 腕神経叢から出て体幹に分布する神経

 これらは腕神経叢の諸根が椎間孔からでた直後にこれらの根からでる.これは筋に行く神経Muskelnervenであって,前斜角筋と中斜角筋との下部,頚長筋の下部および後斜角筋に分布する.

S.500   

最終更新日13/02/03

 

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