Rauber Kopsch Band2.611   

 ヒトの場合には赤道から少しはなれると,個々の線維の横断面も層板の配列も,多くの不規則性を示すのである.規則正しい線維の放射状配列が,層板の分裂や挿入や隣りあうものの融合のためにそこなわれるからである.この層の線維はRablがÜbergangsfasern(移行線維)と名づけたものであって,すでに胎生後期には核を失っている.水晶体の中軸部にある線維すなわちRablのZentralfasern(中心線維)ははなはだ不規則な形をしている.この線維は波状または鋸歯状の縁をもち,横断でみると不規則な六角形か五角形で,四角形のものさえある.核はない.

 いっそう古い記載によれば水晶体線維の縁には,表皮の有棘細胞の棘に相当するところの細かい鋸歯がある.じっさい水晶体はその発生からみて一種の表皮組織であり,その細胞は変形した表皮細胞である.水晶体線維は接合質Kittsubstanzによってたがいに結合されている.この接合質は煮たり酸につけておいたりするとゆるくなるので,こうして線維をバラバラにすることができる.生体の水晶体にはその線維のあいだに上皮内液迷路interepitheliales Saftlabyrinthがたとえ貧弱な状態であっても存在しており,栄養物がそこを通るのに役立っていることは先ずまちがいない.何となれば水晶体もまた物質代謝をなしており,栄養の補給を必要とするからである.

 固定または浸軟した水晶体の前面と後面をみると,最も単純な場合には3つの方向に光を放つ星のような像が各面に1個ずつある.これが前および後水晶体星Stella lentis anterior, posterior, vorderer und hinterer Linsensternである(図641643).各星のもつ3つの光芒は水晶体星放線Radii stellarum lentisとよばれ,たがいに120.の角度をなしている.前水晶体星は鉛直の放線を上方へ向け,後水晶体星はそれを下方へ向けている.水晶体の外方層にはなおそのほかに放線がみられることがふつうで,この場合には水晶体星は6本または9本の放線をもつものとなっている.水晶体星という像が出現するわけは,多数の水晶体線維の端のところがたがいに相接してぶつかる,いわば縫合線Nahtlinienのところが肉眼でみとめられるのである.

[図640]成人の水晶体の赤道面での断面(C. Rabl)

[図641643]胎児と新生児において水晶体線維の走行と水晶体星の配列を示す模型図×7(Quainより)

 図641は後面から, 図642は前面から, 図643は側面からみたところ.cは3図とも水晶体星の中心ならびに水晶体の前後極を示す.1から6までの数字は等しい間隔をもつ6本の水晶体線維を示し,それらの走行は3図を合せてみるとよく理解できる.

7. 硝子体Corpus vitreumと水晶体小帯Apparatus suspensorius lentis(図605, 617, 644646)

 硝子体Glaskörperは水晶体と毛様体の後方で,網膜でかこまれた眼球内の腔所--硝子体腔Glaskörperraumをみたしており,それゆえ前後から少し圧平された球の形をしている(図606).

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最終更新日13/02/03

 

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