567
- 567_01【Anterior cerebral artery; ACA前大脳動脈 Arteria cerebri anterior】 Thinner terminal branch of the internal carotid artery. It arises laterally from the division of the internal carotid artery above the anterior clinoid process, passes anteriorly, anastomoses with the artery from the opposite side, and runs between the cerebral hemispheres over the genu of corpus callosum and, on its posterior side, posteriorly toward the splenium. It gives off cortical arteries as well as arteries for subcortical and basal nuclei.
→(前大脳動脈は、視交叉と視神経の外側で内頚動脈から分岐する。左右の前大脳動脈は視神経の背側を前内側方向に走り、相互に近づき、前交通動脈によって連結する。前大脳動脈は、大脳縦裂の間に入り、大脳の内側面を上方に向かい、つづいて脳梁の背側面を後方に向かう。前大脳動脈は、大脳縦裂の間に入り、大脳の内側面を上方に向かう。前大脳動脈は、途中で次のような枝を出す。すなわち①内側線条体動脈、②眼窩枝、③前頭極動脈、④脳梁辺縁動脈、⑤脳梁周囲動脈である。前大脳動脈の異常は約25%の脳にみられる。このなかには前大脳動脈が1本しかないもの、枝が反対側の大脳半球に分岐する例もある。)
- 567_02【Frontal lobe前頭葉 Lobus frontalis】 Portion extending from the frontal pole to the central sulcus.
→(前頭葉は中心溝の前、そして外側溝の上にある。前頭葉の上外側表面は3つの脳溝によって4つの脳回に分けられる。前頭葉には、1次運動野はBrodmannの脳区分でいうと領域4(中心前回から中心傍小葉)を中心に錐体外路系の中枢があり、身体の反対側の随意運動を起こす。Betzの巨大細胞が特徴的であるが、この細胞からの線維は皮質脊髄路の3%程である。運動前野(2次運動野)はBrodmannの領域6,8,44など(中心前回の前部から上・中・下前頭回後部)にある錐体外路系の運動中枢。この部は一次運動野の活動プログラム化に働き、障害されると習得した運動が障害される。通常の運動障害はなく、失行と呼ばれる。前頭眼野は中心前回で、顔面支配領域の前方に位置する(主に8野で6,9野の一部)。眼球や眼瞼の共同運動の中枢である。補足運動野は上前頭回内部に位置し、姿勢や運動開始と関係するらしい。運動性言語中枢はBrodmannの領域44,45(三角部)に位置する。Brocaの言語野ともいい、言語発声に必要な口から口頭の筋を統合支配する中枢で、運動野と連絡して発声運動を行うという。この部が障害されると意味のある言語を発声できなくなる運動失語が生じる。運動前野は大脳皮質の前頭葉の前方を広く占有している連合野である(Brodmannの9,10野)。前頭前野は脳の極めて広範囲から上方を集めて行動のプログラミングを行う。靴紐を結んだり、ボタンをかけるなどの学習・経験による複雑な組織化された運動の遂行と関係がある。背側運動前野は運動の企画や準備に対応し、腹側運動前野は物体を認知して動作へ変換する情報に変えるといわれる。)
Sylvian artery
- 567_03Sylvian artery【Middle cerebral artery; MCA中大脳動脈 Arteria cerebri media】 Second terminal branch of the internal carotid artery. It passes laterally between the frontal and temporal lobes to the lateral cerebral fossa where it divides. It gives off cortical branches as well as arteries for subcortical and basal nuclear regions.
→(中大脳動脈は内頚動脈の続きであるが、前大脳動脈の分岐点を過ぎてからはじまる。この動脈は、前有孔質を越えて外側方向に走り、側頭葉と島の間にある大脳外側窩に入る。中大脳動脈は大脳動脈の中で最も大きく複雑であり、上方や後方に走る多数の大きな枝を分岐する。この多数の枝は、島の背側周縁に達すると外側溝に向かって方向を急に下方に変え彎曲して走る。Fischerらは(Fischer E: Lageabweichungen der vorderen Hirnarterie im Gefassbild. Zentralbl Neurochir 3: 300-312, 1938)中大脳動脈を放射線学的にM1(horizontal)、M2(insular)、M3(cortical)区域と分類した。中大脳動脈皮質枝はSylvius裂より脳表に出る際に強く屈曲し、この屈強部を横に結んだ線と中大脳動脈本幹の最も前方の点の間で三角形が形成される。この三角形は、放射線学的にSylvian traiangleといわれ、脳血管撮影の重要な所見のひとつである。微小外科解剖学的には各々M1(sphenoidal)、M2(insular)、M3(opercular)、M4(cortical segment or terminal segment)となっている。TAにおいてはM1(Pars sphenoidalis)、M2(Pars insularis)、M3(Rr. Terminales inferiores)、M4(Rr. Terminales superiores)となっているので注意する。)
- 567_04【Internal carotid artery内頚動脈 Arteria carotis interna】 It passes from the carotid bifurcation, without any branches, to the cranial base, continuing in the carotid canal to its terminal division into the middle and anterior cerebral arteries.
→(内頚動脈は、総頚動脈から起こり、頚部では頭蓋底にいたるまでは枝を出さない。ついで頚動脈管をへて中大脳動脈と前大脳動脈に分枝するまでをいう。内頚動脈は頚部、側頭骨錐体部(岩様部)、海綿静脈洞部、大脳部の4つの部分に分けられる。この内頚動脈の海綿静脈洞部と大脳部とは、特別な形態を呈するので、「頚動脈サイフォン」とよばれている。内頚動脈の主な枝として、眼動脈、後交通動脈、前脈絡叢動脈がでる。内頚動脈は、視交叉の外側で小さな前大脳動脈と大きな中大脳動脈とに分岐する。中大脳動脈は内頚動脈の直接の続きで終枝と考えられる。)
- 567_05【Anterior choroidal artery前脈絡叢動脈;脈絡叢動脈 Arteria choroidea anterior; Arteria chorioidea】 Artery usually arising from the internal carotid artery. It follows the optic tract posteriorly, enters the choroid plexus at the inferior horn and passes within it to the interventricular foramen. Its tiny branches are usually not visible on angiography.
→(前脈絡叢動脈は後交通動脈の分岐部よりさらに遠位の内頚動脈から通常分岐する。この動脈の特徴は、クモ膜下腔を長い距離を走り、しかも直径が比較的小さいことである。前脈絡叢動脈ははじめ尾方に走って視索を横切り、次いですぐに側頭葉の前内側面に向かって外側方向に走る。つづいて脈絡叢を通過して、側脳室の下角に入る。この動脈が分布する部位として、脈絡叢のほかに、海馬体、淡蒼球の内側および外側領域(すなわち内側部の外がわと外側部の内がわ)、内方後脚の腹側部の大部分、内包のレンズ核後部全体などが含まれる。またこの動脈の小さい枝は、視索、扁桃体の一部、尾状核尾の腹側部、被殻の後部、視床の腹外側領域にも分布する。)
- 567_06【Posterior communicating artery後交通動脈 Arteria communicans posterior】
→(後交通動脈は内頚動脈から起こり、視床、大脳脚、脚間部、海馬回に分布する。後大脳動脈と吻合し大脳動脈輪をつくる。)
- 567_07【Oculomotor nerve [III]動眼神経[脳神経III] Nervus oculomotorius [III]】 Nerve containing motor and parasympathetic fibers that exits the oculomotor sulcus and passes through the superior orbital fissure into the orbit.
→(動眼神経の主成分は動眼神経主核から出る体性運動性のもので外側直筋および上斜筋以外の眼筋を支配する。このほかに副交感性の動眼神経副核[Edinger-Westphal核]から出る線維が加わる。以上の2核から出る線維は多数の根をつくって大脳脚内側溝から出て1神経幹となり、滑車神経、外転神経および眼神経とともに、蝶形骨体の両側にある海綿静脈洞の上壁に沿ってすすみ、上眼窩裂を通って眼窩内に入り、上下の2枝に分かれる。上枝は上瞼挙筋および上直筋に、下枝は内側直筋、下直筋および下斜筋に分布する。また下枝からはきわめて短い動眼神経からの根が出て、毛様体神経節に入るが、これは動眼神経副核から出て、下枝を通って毛様体神経節に入る副交感線維にほかならない。)
- 567_08【Superior cerebellar artery; SCA上小脳動脈 Arteria superior cerebelli; Arteria cerebelli superior】 Artery passing through the ambient cistern and traveling around the midbrain to the cerebellar surface beneath the tentorium cerebelli.
→(上小脳動脈は脳底動脈の吻側部に起始し、脳幹を背外側方に取り巻いて走った後、小脳半球上面を走る。この動脈は次の主な2本の枝に分かれる。すなわち①小脳の虫部の上部とこれに近接した領域に分布する内側枝、②小脳半球上面に血液を送る外側枝である。内側枝と外側枝からの穿通枝は深部の小脳核、上髄帆、小脳髄体に分布する。また第四脳室脈絡叢にも分布する枝も出す。)
- 567_09【Posterior cerebral artery; PCA後大脳動脈 Arteria cerebri posterior】
→(後大脳動脈は、脳底動脈が吻側端で左右に分岐して形成され、大脳脚上を外側方向へ走る。そして、後交通動脈と吻合した後、中脳の外側面に沿って迂回し、小脳テントの上面を通り、側頭葉と後頭葉の内側面と下面に広がる。またこの後大脳動脈の枝は大脳半球の外側面上に広がり、下側頭回の領域、後頭葉のいろいろな部分、上頭頂小葉の領域などに分布する。さらに、後大脳動脈の枝は、脳幹、第三脳室と側脳室の脈絡叢、および大脳皮質の領域にまで分布する。)
- 567_10【Basilar artery; BA脳底動脈 Arteria basilaris】 Unpaired vessel that arises from the union of the right and left vertebral arteries and extends in the basilar sulcus of pons to the site where it divides into the posterior cerebral arteries.
→(脳底動脈(BA)は左右の椎骨動脈は脊髄の腹側面で合一して1本の脳底動脈となる。脳底動脈は脳底を前進し、橋の前縁で左右の後大脳動脈に分かれる。小脳前下面に前下小脳動脈を、内耳に迷路動脈を、橋に数本の橋枝を、小脳上面に上小脳動脈を与える。左側の椎骨動脈は通常は右側の椎骨動脈よりもずっとよく発達している。そのため、大きい方の椎骨動脈が閉鎖すると重大な結果を招くことがある。脳底動脈は橋底面の正中部にある脳底溝の中を吻側に走り、鞍背のレベルで2本の終枝、すなわち後大脳動脈に分岐する。後大脳動脈と後交通動脈との吻合によってウィリスの動脈輪が閉じる。)
- 567_11【Occipital lobe後頭葉 Lobus occipitalis】 Lobe that is partially bounded by the transverse occipital sulcus, parieto-occipital sulcus, and preoccipital notch.
→(後頭葉は大脳半球の後部に位置し、外側面では頭頂葉および側頭葉の後方に続き、上外側面ではこれらとは明瞭な境界はない。しかし大脳半球内側面では頭頂後頭溝により頭頂葉と明確に区分される。機能的には視覚野がある。頭頂間溝の後端にほぼ横に走る小溝、すなわち横後頭溝がある。上外側面における溝および回は一般に不規則で、これらを上および外側後頭溝ならびに、上および外側後頭回と呼ぶ。外側後頭溝の後部はしばしば前方に凸部を向けた弓状を呈し、前部の溝と叉状に交わる。この弓状の溝は月状溝または猿裂と呼ばれる。しかしサルの月状溝はヒトの月状溝、頭頂後頭溝および横後頭溝の連続したものと考えられる。)
- 567_12【Labyrinthine artery; Labyrinthine arteries迷路動脈;内耳道枝 Arteria labyrinthi】 Artery traveling with the vestibulocochlear nerve to the internal ear.
→(迷路動脈は脳幹には分布しないで外側方向に向かい内耳道を通り内耳に達する。)
- 567_13【Anterior inferior cerebellar artery; AICA前下小脳動脈 Arteria inferior anterior cerebelli; Arteria cerebelli anterior inferior】 Artery passing to the inferior and lateral surfaces of the cerebellum.
→(前下小脳動脈は脳底動脈の尾側部から分岐する大きな動脈で、橋被蓋の尾側部に分布した後、尾方に走ってから外側に向かい小脳下面に至る。この動脈は虫部錐体、虫部隆起、片葉、小脳半球の下面の一部に分布する。また深部に穿通する枝は、歯状核の部分とその周囲の白質に分布する。その前下小脳動脈の枝には、第四脳室脈絡叢に分布するものもある。)
- 567_14【Vertebral artery; VA椎骨動脈 Arteria vertebralis】 Artery arising posterior to the anterior scalene muscle and usually passing from the sixth cervical vertebra through the foramina transversaria, then over the arch of the atlas behind its lateral mass, passing anteriorly through the posterior atlantooccipital membrane and foramen magnum into the cranial cavity.
→(椎骨動脈(VA)は鎖骨下動脈から最初に出る枝であり、前斜角筋の後面に沿って上行し、6番目の頚椎(ときには5番目の頚椎)の横突孔を通って上行するが、そのさい、椎間孔から出てくる脊髄神経の腹側方に位置する。やがて、椎骨動脈は外側方に曲がり、孔環椎後頭膜を貫通し、大後頭孔を通り、硬膜を貫いて後頭蓋窩にはいる。頭蓋窩にはいる少し前に椎骨動脈が示す弯曲は「予備」のループであって、頭部の運動時に動脈に張力が加わるのをふせいでいる。橋の下縁のレベルで、両側の椎骨動脈が1本になって脳底動脈が形成される。形態学的にみて椎骨動脈と内頚動脈はよく似ている。すなわち、外形動脈を分枝する以外には重要な枝を出さずに両者とも垂直に上行する。また、両者ともに特徴的な曲がりくねったコース(「頚動脈サイフォン」、「椎骨動脈サイフォン」)をとって脳底に達する。両者の主な差異は、左右の椎骨動脈が合して1本の脳底動脈になるのに対して、内頚動脈の方は左右のものがそれぞれ独立に走る点である。しかし、流体力学的に見ると、左右の椎骨動脈から脳底動脈に流入する血液は混合することはなく、左側椎骨動脈からの血液は脳幹の左側を流れ、右側椎骨動脈からの血液は脳幹の右側を流れる。)
- 567_15【Anterior spinal artery前脊髄動脈 Arteria spinalis anterior】 Right and left arteries join at the inferior border of the inferior olive as an unpaired vessel descending in the anterior median fissure. It anastomoses with the posterior spinal artery and gives off branches to the medulla oblongata, spinal cord, and cauda equina.
→(左右の前脊髄動脈は合流して1本となって正中を下行する動脈となる。この前脊髄動脈が、前正中裂を下行するとき延髄下部で内部へ入る正中枝を出し、また脊髄の前正中裂から内部に入る溝枝を出す。前脊髄動脈は、前根動脈から分岐した吻合枝によって連絡している。この前根動脈の吻合枝は、ゆるやかに上行すると枝と急角度で下行する枝によって前脊髄動脈と結合する。その結果、脊髄の同じ高さの2本の前根動脈からの吻合枝は、菱形を示す動脈形態をとって結合する。胸髄にある前脊髄動脈は細い。この上部や下部にある前脊髄動脈は細い、この上部や下部にある前根動脈は細い。この上部や下部にある前根動脈が閉鎖すると、十分目的にかなう吻合としての働きをしない。脊髄円錐を取り込んでいる動脈輪は、前脊髄動脈の尾側端の部位と交通している。前脊髄円錐を取り囲んでいる動脈輪は前脊髄動脈の尾側端野部位と交通している。前脊髄動脈と後脊髄動脈は脊髄の全長にわたって根動脈からの枝を受ける吻合動脈でもある。椎骨動脈の枝が、実際上ほとんど頚髄全体に血液を供給している。前脊髄動脈は錐体、内側毛帯、内側縦束、舌下神経核の大部分、孤束核と迷走神経背側核(運動核)の尾側領域、内側副オリーブ核などがある延髄の傍正中領域に血液を送る。片側の前脊髄動脈が閉塞すると、延髄の損傷にともない下交代性片麻痺が起こる。これは舌の同側性麻痺と対側性麻痺を特徴とする。またこのような損傷は、たびたび内側毛帯も含むので対側の知覚欠損も起こる。)
- 567_16【Anterior communicating artery前交通動脈 Arteria communicans anterior】 Highly variable anterior vessel connecting the two anterior cerebral arteries. Common site of aneurysms.
→(前交通動脈は左右の前大脳動脈を連絡するきわめて短い吻合である。この吻合の形態もさまざまで、互いに接するような長さのない側側吻合のこともあり、一定の長さ(0.1~3mm)を有することもある。その数も1~3本を認め、血管の直径も一定しない。時には網状の形態を示すこともある。)
- 567_17【Pontine arteries橋動脈;橋枝(脳底動脈の) Arteriae pontis】 Arteries supplying the pons.
→(橋動脈は脳底動脈から出て橋に分布する動脈で、分枝して内側枝(正中傍枝)、外側枝(橋回旋枝)となる。後者は長・短回旋枝に区別されることもある。)
- 567_18【Abducent nerve[VI]; Abducens nerve [VI]外転神経[脳神経VI] Nervus abducens [VI]】 Cranial nerve emerging from the brain at the angle between the pons and medulla oblongata. It penetrates the dura mater at a point half as high as the clivus, continues laterally in the cavernous sinus, and then passes through the superior orbital fissure into the orbit where it supplies the lateral rectus.
→(外転神経は第六脳神経である。外側直筋に至る鈍体性運動性神経で、その起始核たる外転神経核は橋の中にあり、これから出る神経は橋の後縁で正中線に近く表面に現れ、内頚動脈の外側を通って上眼窩裂から眼窩に入り、外側直筋の内側からそのなかに入る。)
- 567_19【Facial nerve [VII]顔面神経[脳神経VII] Nervus facialis [VII]】 Nerve arising from the second pharyngeal arch. It emerges from the brain at the pontocerebellar angle between the pons and inferior olive and passes with the vestibulocochlear nerve to the petrous part of the temporal bone, which it exits via the stylomastoid foramen. It supplies the muscles of facial expression.
→(顔面神経は第七脳神経である。狭義の顔面神経と中間神経とを合わせたもので、混合神経である。その主部をなす狭義の顔面神経は運動神経で、起始核たる顔面神経核は延髄上部から橋背部にかけてあり、これから出る神経は橋の後縁で脳を去り、内耳神経とともに内耳道に入り、その底で内耳神経と分かれ、内耳神経と分かれ、顔面神経管孔を経て顔面神経管に入り、間もなく殆ど直角をなして後外側に曲がる。この曲がるところは鼓室前庭窓の後上で顔面神経膝といい、ここに膝神経節がある。ついで弓状に後下方へ走り、茎乳突孔を通って頭蓋底外面に出て耳下腺中に入り、耳下腺神経叢を作った後、つぎつぎに多くの枝を出して広頸筋およびこれから分化したすべての浅頭筋(表情筋)、茎突舌骨筋、顎二腹筋後腹、アブミ骨筋などに分布する。以上の運動神経線維とは別に、膝神経節中の神経細胞から出る味覚神経線維が集まって、舌下腺および顎下腺に至る副交感性の分泌線維とともに中間神経を作り、広義の顔面神経の一部をなす。膝神経節細胞は偽単極性で、神経細胞より出る一条の突起はただちに分かれて、末梢および中枢の2枝となる。中枢枝は顔面神経に密接しつつ内耳道を経て脳に入って孤束核に終わり、末梢枝は、いわゆる上唾液核から出て舌下腺、顎下腺に至る副交感性の分泌腺にとともにいわゆる鼓索神経を作り、途中で再び分泌線維と分かれて舌神経に入り、舌体に分布して味覚を司る。)
- 567_20【Posterior inferior cerebellar artery; PICA後下小脳動脈 Arteria inferior posterior cerebelli; Arteria cerebelli posterior inferior】 Artery passing dorsally, around the inferior olive to the inferior surface of the posterior part of the cerebellum.
→(後下小脳動脈は椎骨動脈から分枝し、延髄の表面に沿って前外側方向に走るが、その途中で延髄の背外側領域に分布するため穿通する細い枝を出す。この延髄の後オリーブ領域には、脊髄視床路、三叉神経脊髄路核と三叉神経脊髄路、疑核、運動性迷走神経背側核とこの核に出入りする線維、および下小脳脚の腹側部分などが存在する。また延髄と橋のこの領域内には、視床下部からの自律神経線維も下行する。次いで、小脳下面を上方(背側)へ弯曲して走り、虫部の下部(虫部垂と虫部小節)、小脳扁桃、小脳半球の下外側面に分布する枝を出す。またこの動脈の内側枝は第四脳室脈絡叢にも分布する。)
- 567_21【Posterior spinal artery後脊髄動脈 Arteria spinalis posterior; Arteria spinalis dorsalis】 Artery descending in front of and behind the posterior roots of spinal nerve. It anastomoses with the anterior spinal artery.
→(後脊髄動脈は薄束と薄束核、楔状束と楔状束核、下小脳脚の尾側部と背側部に分布する。もし後脊髄動脈が小さいか、または欠如するときには、この領域には後下小脳動脈が分布することが多い。)
- 567_22【Cerebellum小脳 Cerebellum】 Part of the brain situated above the rhomboid fossa.
→(Cerebellumは、「大脳、脳」を意味するcerebrumの指小形で、「小さい脳」という意味である。Cerebrumは、「頭」を意味するギリシャ語のkararan由来する。 小脳は筋、関節などの深部組織、前庭、視覚、聴覚系などからの入力を直接あるいは間接的に受け、眼球運動を含む身体の運動調節を司る。小脳は正中部の虫部と外側部の小脳半球とに分けられる。いずれも多数の小脳溝により小脳回に細分される。この中、特定の小脳溝は深く、これにより小脳回の集合ができる。これを小脳小葉とよぶ。ヒトでは小脳は深い水平裂により上面と下面とに分けられ、虫部とそれに対応する半球に九つの小葉が区別される。系統発生的には小脳は前葉、後葉、片葉小節葉の3部分に分けられる。前葉は系統発生的に古く古小脳(Paleocerebellum)ともよばれ、脊髄小脳路、副楔状束核小脳路、オリーブ小脳路の一部、網様体小脳路などをうける。後葉は系統発生的に新しく、新小脳(Neocerebellum)とよばれる。とくに半球部は虫部より新しく、橋核、主オリーブ核などを介して大脳皮質と結合している。前葉と後葉とは第1裂により境される。片葉小節葉は原小脳(Archicerebellum)とよばれ最も古く前庭系との結合が著明である。後葉とは後外側裂で境される。後葉には虫部錐体と虫部垂との間に第2裂がある。ヒトの小脳小葉の形は他の動物のものと大きく異なりる。小脳全体は灰白質と白質とからなる。灰白質には小脳皮質と小脳核とがある。小脳皮質は小脳小葉の表面をなし遠心性軸索を出すPurkinje細胞と皮質内での結合を行う細胞とからなる。小脳核は深部にあり、室頂核、球状核、栓状核、歯状核の4核からなる。小脳皮質にはその結合から三つの縦帯が認められる。すなわち、正中部の虫部皮質、外側部の半球皮質および両者の境界部の虫部傍皮質である。虫部皮質のPurkinje細胞は室頂核に、虫部傍皮質は球状核と栓状核に、半球皮質は歯状核に投射する。小脳の中心部の白質塊は髄体とよばれ、遠心性および求心性繊維から出来ている。ここからは白質が分枝して(白質板)、小葉に分かれる。全体として樹の枝のようにみえるので、小脳活樹と名づけられている。小脳は三つの小脳脚により、延髄、橋、中脳と結合している。これは小脳の遠心路および求心路の通路となっている。 小脳の発生 development of the cerebellum:小脳は後脳の菱脳唇から発生する。後脳の菱脳唇は翼板の背外側につづく背内方に突出する高まりで、胎生2ヶ月の後半において急速に増大し、小脳板とよばれるようになる。左右の小脳板の間には菱脳蓋の頭側半分が介在するので、頭側部では左右の小脳板は相接しているが、尾側部では広く離れている。菱脳の中央部を頂点とする橋弯曲が高度になると、この部の菱脳蓋の左右方向の拡大によって、左右の小脳板の尾側部はいよいよ高度に引き離され、左右の小脳板は菱脳の長軸に直角な一直線をなすようになる。これと同時に左右の小脳板の頭側部(今では内側部)が合一するので、結局、正中部が小さくて左右両部が大きい単一の小脳原基が成立する。正中部からは小脳虫部が、左右両部からは小脳半球が形成される。 増大していく小脳原基の背側部には、やがて中部から半球に向かって走る溝が次々に出現して小脳を区画する。胎生5ヶ月のおわりには小脳虫部における10個の主な区分(小脳葉)がほぼ完成する。これらの小脳葉はそれぞれ固有の発育を行うが、その間に第2次、第3次の溝が生じて、各小脳葉を多数の小脳回に分ける。このような形態発生の結果広大な表面積を獲得した小脳の表面には小脳皮質とよばれる特別な灰白質が形成され、これに出入りする神経線維はその深部に集まって小脳白質を形成する。 小脳原基においても菱脳室に接する内側から表面に向かって胚芽層・外套層・縁帯の3層が分化する。胚芽層は神経が細胞をつくりだすが、胚芽層から発生するのは小脳核の神経細胞と小脳皮質のPurkinje細胞およびGolgi細胞である。小脳原基が3層に分化するとまもなく、外套層の表層部にやや大型の神経芽細胞が出現し、小脳板の背側面(表面)に平行に1列にならぶ。これがPurkinje細胞の幼若型である。ついで小脳板の尾側端部の胚芽層でさかんな細胞分裂がおこり、ここで生じた未分化細胞は縁帯の表層部を頭方に遊走して、小脳原位の全表面をおおう未分化細胞層を形成する。これを胎生顆粒層という。 胎生顆粒層の細胞は胚芽層における細胞分裂が終わるころから活発な分裂を開始し、神経細胞をつくりだす。この神経細胞は縁帯およびPurkinje細胞の層を貫いて、Purkinje細胞の層の下に達し、ここに新しい細胞層(内顆粒層)をつくる。胎生顆粒層からは、このほかに縁帯の中に散在する籠細胞や小皮質細胞が生ずる。必要な数の神経細胞を送り出すと胎生顆粒層における分裂はやみ、本層は速やかに消失する。一方、Purkinje細胞は縁帯の中に多数の樹状突起を伸長させる。縁帯はPurkinje細胞の樹状突起で満たされて厚くなり、核をあまり多く含まな灰白層となる。このようにして小脳の全表面は、表面から灰白層・Purkinje細胞層・内顆粒層の3層から成る小脳皮質でおおわれることになる。)