歴史的な偉大な解剖学書
脳は神経管の上部の太い部分であって,脊髄を被う3枚の被膜と同じものに包まれて神経頭蓋Neurocraniumの内部にあり,だいたいに頭蓋腔の形とよく似た形をしている.
人の脳は頭蓋の形がいろいろ異なるのに伴なって,あるいはかなり球形に近く,あるいはいっそう楕円形に近い形をしている.どちらの場合にも脳底面Facles basialis encephaliという底面Grundflächeすなわち腹方の面ventrale Flächeは平らになっていて,その背方の大脳凸面Facles convexa cerebriは円く高まっている.
脳は5つの部分よりなる.
I. 終脳Telencephalon, Endhirnすなわち半球脳Hemisphdrenhirn,
II. 間脳Diencephalon, Zwischenhirnすなわち視床脳Sehhügelhirn,
III. 中脳Mesencephalon, Mittelhirnすなわち四丘脳Vierhügelhirn,
IV. 後脳Metencephalon, Hinterhirnすなわち橋Brückeと小脳Kleinhirn,
V. 髄脳Myelencephalon, Nachhirn, 延髄Medulla oblongata.
IとIIとを合せたものが前脳Prosencephalonであり,
IVとVとをいっしょにしたものが菱脳Rhombencephalonである.
またI, IIおよびIIIを合せたものが大脳Cerebrum, Großhirnである.
(日本人の脳の大きさは報告者によりある程度の差はあるが,長径は男平均161.7~162mm,女平均152~155.4mm,幅径は男133~134mm,女平均124~128. 9mm,脳の比重は男平均1.0561,女平均1.0508,脳重は男平均1350~1400gr,女平均1200~1250 gr,脳の容積は男平均1326.48ccm,女平均1196.79 ccm.(小川鼎三,細川宏:日本人の脳,9~39頁,1953).
日本人の脳につき今までの研究者により報告された正常脳の最大重量は男1875gr,女1515 gr,最小重量は男1025gr,女961grである.(田口和美:本邦人の脳重量に就て,第1回日本聯合医学会誌,73~98,1902. 吉沢五郎:ふたたび本邦人の脳重量に就きて. 解剖学雑誌,3巻,797~810,1930).)
矢状径(長径)は男では16~17cm,女では15~16cm,横径は14cm,垂直径は12.5cmである.
灰白質の比重は1.029~1.039, 白質の比重は1.039~1.043,脳全体の比重は1.035~1.043である.
灰白質は終脳の重さの37.7~39.0%, 白質は61.0~62.3%になる.このうち灰白質の約6%は神経核,33%は皮質の分である.
両側の大脳半球の灰白皮質の容積は前障を含めて脳全体の容積の平均53.6%,大脳核のそれは3.6%である(Dahlberg, G., Upsala Lakar. förh., 28. Bd.,1923).成人の脳の水分含有量は平均79%である.灰白質は約85%, 白質は70%の水分をもっている.大脳皮質の灰白質の平均の厚さは2.5mmである.終脳の表面積はH. Wagnerは1876.72ないし2195. 88 qcmであるといい,R. Henneberg(Journal Psych. Neur.,17. Bd.,1910)は両半球で2226 qcmあり,1辺が約47cmの正方形に等しいという.--脳全体の容積を測定するとその平均値は1330ccmである.
成人男子の脳の平均重量は概算で1375gr,成人女子のそれは1245grである.女の脳の重さの最小値は800gr,男のそれは960grであった.(15才から80才以上までの)一男では1250gr以下の脳は異常に小さく,1550gr以上の脳は異常に大きいということができる.重さの最大値はいくらか不確実ではあるが,重さ1807gr,1861 gr,さらに2000 gr以上のものが報告されている.多くの女の脳がしばしば多くの男の脳を絶対的脳重で凌駕していることがあるのは当然考えられることである.
各個人の年令がもちろん脳重に主要な影響をもっている.R. Boydの計測によれば,平均脳重は7才までは急速に増加し,以後ゆっくりと増して男女両性とも20才の終りごろに成人について上述した平均値に達する.20~50才のあいだはその重さが増減を示さないのが普通であって,それ以後ゆっくりと重さが減りはじめ,高令になると平均値は男で1285gr,女で1130grとなる. Weisbachの計測によれば,脳重は20才と30才とのあいだで最大を示し,それからゆっくりと減少しはじめ,50才以後は急速に減少がおきる.
長頭の民族では平均脳重が,広頭の民族におけるよりもいくらか少い.Davisによれば,コーカサス人種(白人)は平均脳重が1335gr(男は1367 gr,女は1206gr)であるという.ヒンズー民族の脳重は男で1253gr,女で1133grにすぎない.体格が小さくて大きい脳重を示すのはシナ人(1332gr)である.これに続くものはサンドウィッチ島の住民で1303gr,マレー人が1266gr,ネイティブアメリカンが1266gr,アフリカ黒人が1244gr,オーストラリアおよびタスマニアの原住民が1185grである.
あらゆる民族において,平均脳重は(身長や体重と同じく)女の方がいくらか少い.男女の差は分化の程度がすすむとともに大きくなる.脳重における男女の差が最も少いものは,Davisによればアフリカ黒人とオーストラリア原住民であるという.
ヨーロッパの諸民族のなかでも,脳重に著しい相違がある.Weisbachによると,ドイツ・オーストリア国人は1314.5grであって,1368.31 grのチェコ人,特にスラブ人に劣つており,またマジャール人にも劣つている.イタリア人は1301.37grの平均脳重を示す. Davisによれば,平均脳重がドイツ人で1425gr,イギリス人で1346gr,フランス人は1280 grであるという.スウェーデン人の男450体の平均脳重はおよそ1399gr,女250体のそれは1248grである(G. Retzius).
有名人(男および女)の脳重を次にあげる.
年令 |
gr |
||
Cuvier |
(解剖学者) |
63 |
1861 |
Byron |
(詩人) |
36 |
1807 |
Dirichlet |
(数学者) |
54 |
1520 |
Gauß |
(数学者) |
78 |
1492 |
Schiller |
(詩人) |
46 |
1580(推定) |
Dante |
(詩人) |
56 |
1420(推定) |
Kant |
(哲学者) |
82 |
1600(推定) |
J. V. Liebig |
(化学者) |
70 |
1352 |
Sonja Kowalewski |
(女数学者) |
41 |
約1385 |
Bunsen |
(化学者) |
88 |
1295 |
Mommsen |
(史学者) |
86 |
1425 |
Menzel |
(画家) |
89 |
1298 |
Haeckel |
(動物学者) |
86 |
1575 |
Gambetta |
(フランスの政治家) |
44 |
1160 |
Antole France |
(著述者) |
80 |
1070 |
最終更新日 13/02/03