Rauber Kopsch Band1. 26

IV.頭蓋骨の連結Juncturae ossium cranii

 成人の頭蓋にはいくつかの軟骨結合と数多くの靱帯結合と,1つの可動性の関節すなわち顎関節がある.

1.頭蓋軟骨結合Synchondroses crania

 a)[]後頭軟骨結合Synchondrosis sphenooccipitalisは後頭骨の底部と蝶形骨の体とのあいだの結合で,およそ20才で骨結合に変る.

 b)[]錐体軟骨結合Synchondrosis sphenopetrosaは蝶[骨]錐体裂を埋める.

 c)錐体後頭軟骨結合Synchondrosis petrooccipitalisは錐体後頭裂の中にあって,下錐体静脈洞の底をなす.

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 d)後頭骨の鱗部外側部軟骨結合Synchondrosis squamolateralis ossis occipitalisおよび

 e)後頭骨の底部外側部軟骨結合Synchondrosis basilateralis ossis occipitalisは幼い人の後頭骨にあって,左右の外側部を前方では底部から,後方では後頭鱗から分けている.この軟骨結合は生後2年目以後は骨化して骨結合となる.

 f)蝶骨間軟骨結合Synchondrosis intersphenoideaは第7月の終りまでの胎児にしか存在しないもので,鞍結節のあたりで蝶形骨の体を横ぎつて走っている.

2.頭蓋の靱帯結合Syndesmoses cranii

 頭蓋の靱帯結合として,まず各頭蓋骨のすべての縫合を挙げねばならない.そのほかなお板状のものや索状のものなど, 長短さまざまのいくつかの線維束があって,不動性に2つの骨のあいだを結合し,また同一の骨の突出部のあいだに張っている.これらの靱帯は血管や神経の通る孔や管の形成をおぎなっている.側頭骨と後頭骨の頚静脈孔内突起の両尖端間を結合している靱帯も,また外側前頭切痕の尖端間を結ぶ靱帯もその例である.さらにこれに属するものとして,翼突棘靱帯・茎突舌骨靱帯のほか,小翼突起・中鞍突起・鞍背突起のあいだを結合するものなどがある.これらの靱帯のかわりに時おり骨質の橋わたしがみられることもある.

3.顎関節Articulus mandibularis, Kiefergelenk (図405407)

 この関節をつくる骨は側頭骨と下顎骨である.

 関節面は側頭骨の下顎窩Fossa mandibularisと関節結節Tuberculum articulare,他方は下顎小頭Capitulum mandibulaeである.

 下顎窩はやや長めのくぼみで,その横軸は後内側に向っている.左右両側め軸を延長すると,およそ大後頭孔の前縁のところで交叉する.下顎窩の一番深い部分はしばしば骨が非常に薄くて,光をすき通す.下顎窩の前壁は関節結節で,後壁は個体によって変異の多い関節後突起Processus retroarticularisでできている.関節結節は前後方向に凸で,左右方向に凹の弯曲を示し,従って鞍形をしている.その横軸の方向は下顎窩の軸と同じである.下顎窩と関節結節の表面は線維軟骨で被われている.

 下顎小頭は長めの楕円体のかたちである.横軸の方が長くて,下顎窩および関節結節の横軸と同様に,斜めに後内側へ向っている.左右の下顎小頭の軸は(Fickによれば)前方に開く150~160°の鈍角をなす.関節面はまっすぐ上方に向いてはおらず,前上方に向いている.関節面の前部だけが関節の構成に役だつのであって,ここは0.5mmの厚さの線維軟骨をかぶっているが,これに対して斜めに傾斜する関節面の後部は強靱結合組織層で被われているにすぎない.

 関節包はゆるいふくろである.側頭骨には前方は関節結節の前縁のすぐきわで付着し,側方は関節面の縁のすぐそばに付着し,内側は蝶麟縫合にまで達し,後方は錐体鼓室裂にまで達して,関節後突起が関節腔内に含まれるようになっている.またこの関節包は下顎骨には,前方は関節面の縁のすぐきわに,後方は関節面の縁から5mmはなれたところに付着している.関節包の前部はうすく,後部は厚い.線維の走向は側頭骨から下顎骨へと集中している.

 特殊な装置として:1. 関節円板Discus articularisは波形にまがった1枚の板で,強靱結合組織からなり,縁のところが最も厚く(3~4mm),中央が最も薄い(1~2mm).この円板は関節腔を完全に分離した2つの室に分ち,また下顎小頭が前方に移動するときにはそれにつれて動くので,ある程度の移動ができる関節窩をなしている.

 2. 補強靱帯は外側に1つ,内側に2つある.側頭下顎靱帯Lig. temporomandibulareは頬骨弓の外面からおこって下顎頚に付着する.[骨下]顎靱帯Lig. sphenomandibulareは蝶形骨棘から起って一部は下顎頚に,しかし主として下顎小舌に至るものである.茎突下顎靱帯Lig. stylomandibulareは茎状突起から起って,下顎枝の後縁の下顎角に近いところに付いている.

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[図405] 顎関節 関節を通る矢状断(4/5)

[図406] 顎関節 外側(4/5)

 顎関節の力学:顎関節において可能な運動は次の3種である.

 1. 左右の下顎小頭を通る横軸を中心にしてなされる運動これは下顎骨の上下運動すなわち口の開閉運動で,一種の蝶番運動である.この蝶番運動は関節円板において行われるが,この円板はまた関節結節の斜面をあちらこちらと滑り動くことによって,側頭骨の関節面に対して独自の運動性をもっている.従って下顎骨の上下運動は関節円板の非常にさまざまの位置において行われ得るのである.

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 2. 両側性(左右対称的)に下顎骨を前に出す還動.この点からみると顎関節は一種の移動関節である.この運動のさい下顎小頭は関節円板とともに関節結節の上に進む.

 3.1側だけを前に出す運動 1側の下顎小頭は関節節結節の上へ進み, 他側のそれは下顎窩に留つて,この窩の中で垂直軸のまわりに回転する.

 Hjortsjö(Acta odont. scandinavica XI,1953)は顎関節の力学的機構を,2軸を有するクルミ割り器とくらべている.1つの軸は関節結節を通り,もう1つの軸は下顎小頭を通る.そして関節円板はクルミ割り器の中間部に相当する(図407).下顎骨を下にさげると,この円板は関節結節の軸のまわりに前下方へ回転し,それによって小頭は自身の軸のまわりに回転すると伺時に関節結節の下に達するのである.

[図407]

 顎関節の脈管と神経は近隣の比較的大きい幹から来る.血管は中側頭動脈.後深側頭動脈・前鼓室動脈・中硬膜動脈のほか・なお口蓋動脈・上行咽頭動脈および後耳介動脈から来る.神経は咬筋神経および耳介側頭神経の前耳介神経から来る.リンパ管は顔面の表層および深層のリンパ節にいたる.

4.舌骨の靱帯

 舌骨の大角と体とは軟骨結合によって,また小角と体とは1つの被膜(舌骨間靱帯Ligg. interhyoldea)によって結合している.茎突舌骨靱帯Lig. stylohyoideumは舌骨にいたり小角に付く.

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最終更新日 13/02/04

 

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