Rauber Kopsch Band2. 74

II. 味覚器Organon gustus, Geschmacksorgan

 嗅覚器が呼吸器の初まりの部分にあるのと同様に,味覚器は消化管の入口のところに位置を占めている.味覚の主要な器官は舌粘膜であるが,その全領域というわけではなくて,舌背と舌外側縁との一部が関係しているにすぎない.まれには舌下面に少数の味蕾が散在することがある.味覚についてその次に問題となるのは軟口蓋の口腔面である.口腔粘膜に味覚神経が終るところでは,上皮が花のつぼみのような配列を示す.それでこのような味覚の終末器官を味蕾Caliculi gustatorii, Geschmacksknospenとよぶ.粘膜が味蕾をもつ場所は有郭乳頭・茸状乳頭・葉状乳頭のほかに,なお軟口蓋の前面である.

 味蕾に似た上皮構造物が喉頭前庭Vestibuluin laryngisの粘膜にもみられるが,これはやはり味覚器であるのか,それとも下等脊椎動物の神経丘に相当する単純知覚器官であるかが確定していない.

 味蕾の微細構造をのべるには,有郭乳頭Papilla circumvallataのそれから話をはじめるのがよかろう(図74).この乳頭の上面は平坦もしくは浅いへこみをなしており,その周りの舌粘膜の部分とはたいてい同じ高さであるが,乳頭をめぐって2mmまでの深さのある内形の裂隙,すなわちWallgrabenによって隣接部から境されている.そしてこの濠の外壁は輪郭Ringwallをなしている.濠の底には多数の漿液膜の導管が開口する.この腺は分泌物を濠のなかへ排出し,その分泌物が味覚を起す物質をとりあげて,これを近くの味蕾に導いたのち,ま笑濠の外へだしてしまうのである(洗浄腺Spüldrüsen).

 有郭乳頭を外から被っているものは重層扁平上皮である.上皮が濠に面したところでは乳頭の上面におけるよりうすくなっていて,またここでは2次乳頭sekundäre Papillenがみられない.(この2次乳頭は有郭乳頭の上面ではかなり多数存在するのである.)濠に面する外側の壁にも2次乳頭がない.これに反して有郭乳頭の側面では,たくさんの味蕾がいく列にもなって,規則的な間隔をおいてならんでいる.少数の味蕾は濠をへだててむかい合っている輪郭の上皮にもみられる.

 1つの有郭乳頭がもつ味蕾の数は相当に多いのであって,ブタでは大きな有郭乳頭が2つあって,それぞれが約4760の味蕾をもっている.

S. 580

[図601]家兎の葉状乳頭の味蕾 縦断

[図602]ヒトの有廓孔頭の味蕾 縦断

[図603]ヒトの舌の味蕾の細胞を分離したもの ×400.1 被蓋細胞,2, 3, 4 味細胞,4はaのところに小茎様の突起をもっている.

[図604]味覚器の模型図(G. Retzius) g 味蕾,p 味孔,ian 味蕾内線維,sz 味蕾外線維,sz 脊髄神経節細胞, co 中枢器官

 それぞれの味蕾には底と尖と側面が区別される(図601, 602).味蕾は底によって直接に結合組織にくつづいている.尖は上皮の表層に開いた孔の中にあるので,濠内の液体とじかに触れているわけである.味蕾の幅がいちばん大きいところは,長さの中央より少し上方にあって,ヒトでは40µである.また長さは70µと80µのあいだである.上に述べた味蕾の開口部は味孔Geschmacksporusとよばれ,味覚をおこす液体が味蕾の尖に達するのをゆるしている.表面からみると味孔は明確な縁をもつ直径2.7~4.5µの小さい円を画いており,2個あるいは3個の上皮細胞でかこまれるが,また1個の上皮細胞の内部にあることも稀でない.

S. 581

 味蕾をなす上皮細胞は細長くて,その長軸は乳頭の表面に対して垂直に立っている.外層の味蕾細胞は被蓋細胞Deckzellen(図603,1)とよばまれ,味蕾の外縁に近いものほど外へ向かっていっそう凸に弯曲している.内層の細胞はいっそう真っすぐに伸びている.被蓋細胞は基底端で細くなったり,フォークのように枝分れしたりする.自由端の方は尖つて終わっている.内層の細胞すなわち味細胞Innenzellen od. Geschmackszellen(図603, 2-4)は被蓋細胞よりもほそくて,ただ核のあるところだけやや太くなっている.基底部はごく細くて,その端がたいてい円錐状にふくらんで足板Fußplatteをなしている.末梢がわの部分は円柱または円錐状であって,長さ5~6µの小皮性の小茎St iftchenをもって終わっている.第3の細胞型として基底細胞 Basalzellenがある.これは味蕾底の内部にあって,おそらく補充細胞Ersatzzellenであろう.

 神経終末:上皮にやってくる多数の神経枝は粘膜の結合組織性の部分で組み合って上皮下の神経叢をつくる.この神経叢からでる線維束の一部が味蕾の底にいたり,そのほかのものは味蕾と味蕾のあいだの上皮層へとすすむ.

 後者は味蕾外線維intergemmale Epithelnervenとよばれ,上皮細胞間の迷路にはいってのち何度も分岐し,まず側方に枝をひろげ,ついでその終末原線維が多少とも垂直に近い方向をとって表面に向かってすすむので,全体として装飾燭台(Kandelaber)のような形になる.終末原線維の多くのものは上皮細胞層の最も浅いところで自由終末をなして終る.もっともその終る前に,たいていの原線維が側方へ屈曲している.また終る前に,ある距離だけ逆もどりするのもある.つまりこの味蕾外神経終末はだいたいに皮膚や大部分の粘膜にみられる細胞間の自由終末と全く一致するわけである(図604).しかしBoekeによれば神経線維とその終末が細胞の原形質の内部にあるという(第I巻,図61を参照).

 味蕾底からはいった神経線維束は,Retziusによれば,味蕾内でその幅全体にわたる神経叢をなしてひろがり,その周辺部は多くの学者により味蕾周囲終末Perigemmale Endigungとよばれている.この神経叢から出る終末線維の大部分が味蕾尖の近くまでのぼり,ここで自由終末をなして終る.しかし味蕾の下部で終わってしまう終末線維もあり,逆もどりして終るものもある.Boekeによればこれらの線維もまた感覚細胞の原形質の内部で終わっているという(第I巻,図62).

 舌咽神経の枝は舌の内部に小さい神経節をもっている.この神経節から多数の無髄線維がでてその枝の中を末梢へ向う.有髄線維は叢をなしながらすべての方向にひろがり,一部は有郭乳頭の上面の近くにまで達し,そこで少数の線維は棍状小体(Endkolben)に終わっている.有髄無髄ともに多数の線維が有郭乳頭の側面部にいたり,ここで核に富む特異な結合組織のなかに放散している.

 舌咽神経の舌枝に付属する小神経節のなかにある細胞はv. Lenhossékによれば多極性であって,1本の神経突起をもち,交感性の神経細胞と同じである.少数のものについて,その神経突起を粘膜の方へ向かって追跡することができた.

 若い家兎で1側の舌咽神経を切断すると,有郭乳頭と葉状乳頭の味蕾が手術側で消失するが,正常側では何らの変化もみられない.

 舌の前部には鼓索神経(中間神経N. intermediusにつづく)を介して味覚線維が送られる.鼓索神経が破壊されると同側で舌の前部の味覚がなくなる.舌神経は舌へ単純知覚性の線維を送るだけで,特殊感覚線維は全く導いていない.

 味蕾が分布するその他の場所としては,まず葉状乳頭Papilla foliata(舌体の外側縁の後部にある1群の垂直方向の小さい粘膜ひだ)をあげるべきであろう.葉状乳頭は舌咽神経によって支配されている.

S. 582

 --茸状乳頭Papillae fungiformesではLovénが初めて味蕾を見た.ここでも味蕾の存在は散発的で不規則である.そのうえに味蕾が比較的小さくて,上皮の表面にまで達することなく,味蕾の尖から細い管が味孔にまで伸びている.味蕾は茸状乳頭の上面にある.この乳頭にはそのほかところどころに棍状小体も存在する.--口蓋帆Velum palatinumにはとくに口蓋垂の上部に味蕾がみられ,そこでは味蕾はかなり大きい乳頭の表面についている(Hoffmann).少数の味蕾は舌口蓋弓にも食道の上部1/3にもみられる(Schinkele 1942).喉頭の粘膜にあらわれる味蕾状のものについてはすでに述べた.

2-74

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る