802
- 802_01【Sacrum [Sacral vertebrae I-V]仙骨;仙椎[1-5] Os sacrum [Vertebrae sacrales I-V]】
→(はじめ分離していた第一から第五までの仙椎は、成人すると癒合して一個の仙骨となり、骨盤の後壁を作る。仙骨では、元来仙椎に存在していた棘突起は正中仙骨稜となり、関節突起は中間仙骨稜となり、横突起は外側仙骨稜となる。さらに最外側部に外側部という部分があり、そこに肋骨遺残物が含まれている。なお本来各椎骨間に左右おのおの一個ずつであるべき椎間孔が、それぞれ前仙骨孔と後仙骨孔とに二分されるので、片側で8個の仙骨孔となり、それぞれ脊髄神経の前枝と後枝とを通過させるのも大きい特徴である。外側の耳状面は腸骨の耳状面と関節する。仙骨底(上方にあっても底という)の前方に強く突出した辺縁部を岬角という名称は側頭骨の中耳(鼓室)の内側壁にもあるから注意のこと。4本の横線は5個の仙椎の癒着部を示している。)
- 802_02【Lateral part (of sacrum)外側部(仙骨の) Pars lateralis (Os sacrum)】 Lateral bone mass of the sacrum formed by the transverse processes and remnants of ribs.
→(前および後仙骨孔より外側にある部分は横突起、肋骨の遺物ならびにこれらに付着する靱帯からできたもので、外側部という。)
- 802_03【Piriformis muscle梨状筋 Musculus piriformis】 o: Anterior surface of sacrum, i: Greater trochanter, medial aspect of the apex. Abduction, extension, and lateral rotation at the hip joint. 1: Sacral plexus.
→(梨状筋は骨盤の後側の深層にある回旋筋で仙骨の骨盤筋膜(前仙骨孔およびそれらの外側の)と仙腸関節の関節包から、大坐骨切痕上縁に由来する線維束とともに、起始する。大坐骨孔を通過して、同孔を梨状筋上孔と下孔に分け、大腿筋の深層を骨盤外側をおおって走り、大転子先端の内側に至る。広い起始に始まり、梨状筋は次第に収束して細い停止腱となる。股関節と停止腱は滑液包により隔てられる。坐骨神経の梨状筋枝から支配を受け、股関節の外転、伸展および外旋を行う。)
- 802_04【Ischiococcygeus muscle; Coccygeus muscle; Coccygeal muscle坐骨尾骨筋;尾骨筋 Musculus ischiococcygeus; Musculus coccygeus】 Muscle fibers that fan out from the ischial spine to the lateral surfaces of the sacrum and coccyx. They are joined with the sacrospinal ligament.
→(仙骨下端と尾骨を結ぶ筋で、ヒトでは退化的に(坐骨)棘尾骨筋に相当し、その浅(外)部が仙棘靱帯になり、深(内)部が尾骨筋に変化し、肛門挙筋とともに尾骨隔膜を形成する。前後の仙尾筋は、それぞれ腹側と背側の尾筋に相当する。後仙尾筋は固有背筋の最下部である。)
- 802_05【Ischial spine坐骨棘 Spina ischiadica】 Bony process between the greater and lesser sciatic notches.
→(坐骨体の後縁の上部に、後内方に突出する三角形の坐骨棘がある。)
- 802_06【Linea terminalis of pelvis分界線;骨盤縁;腸骨恥骨線;終端線(骨盤の) Linea terminalis (Pelvis)】 Line extending from the promontory of the sacrum along the arcuate line, the pecten pubis, to the superior border of the pubic symphysis. It marks the boundary between the greater and lesser pelvis as well as the plane of the pelvic inlet.
→(腸骨恥骨線iliopectineal lineともよばれる。仙骨上縁の前端にある岬角から仙骨外側部を経て寛骨の弓状線に至り、更に恥骨櫛を経て恥骨結合上縁に達する稜線をたどることができる。これが分界線と呼ばれる。腸骨窩の下方の境界をなす。大骨盤から小骨盤を分ける。)
- 802_07【Obturator internus muscle; Internal obturator muscle内閉鎖筋 Musculus obturator internus】 o: Internal surface of obturator membrane and surrounding area, i: Trochanteric fossa of greater trochanter. Lateral rotation, abduction, adduction. I: Sacral plexus.
→(内閉鎖筋と2つの双子筋は発生的にはひとまとまりである。内閉鎖筋はその起始を骨盤腔内へ移し、閉鎖膜上および閉鎖孔の骨性枠から起こるに至った。小坐骨孔縁(軟骨でおおわれている)が視点となり、内閉鎖筋包が介在し、ここで急に走行を骨盤外へ変える。骨盤の外にある部分は3分筋のうちの2頭、つまり上下の双子筋を多少なりともおおう。上双子筋は坐骨棘を発し、下双子筋は坐骨結節を発する。内閉鎖筋の停止腱の上下縁にはそれぞれ上下の双子筋が合流し、転子窩に終わる。骨盤内にある内閉鎖筋は強い内閉鎖筋膜に包まれ、これが肛門挙筋の起始となる。内閉鎖筋膜は肛門挙筋起始部では弓状をした腱様の筋膜束(肛門挙筋腱弓)で補強さえている。肛門挙筋腱弓よりも上で、内閉鎖筋は小骨盤の筋性壁をつくり、その筋膜は壁側骨盤筋膜の一部となる。これより下では内閉鎖筋とその筋膜は外側部において、骨盤底の下にある結合組織性の部位、すなわち坐骨直腸窩を区画する。)
- 802_08【Levator ani muscle肛門挙筋 Musculus levator ani】 Principle muscle of the pelvic diaphragm. It is derived from the abdominal wall musculature and permeated by smooth-muscle cells. I: Sacral plexus, S2-S5. It consists of the following parts.
→(肛門挙筋の丈夫な前部(恥骨尾骨筋)は分界線直下の恥骨の内面から起こり、薄い後部(腸骨尾骨筋)は腸骨から起こる。その起始腱は内閉鎖筋筋膜に接して移行し、閉鎖筋膜から発する腱束を受ける。これらの線維の起始部では腱性の係留物(肛門挙筋腱弓)により強化されている。左右両側で恥骨尾骨筋の内側線維束は挙筋脚を形成している。それらの線維束は背方と尾方、また直腸の前では外側を通り、それぞれ会陰の中心腱へ放散する薄い前直腸線維束や前立腺挙筋として前立腺筋膜(あるいは恥骨腟筋として腟壁)へと分かれる。それより鼻側にある肛門挙筋の線維束は恥骨直腸筋として直腸の背側を取り囲み、反対側の線維と共にループを形成する。恥骨尾骨筋の外側束は尾骨と仙骨の背側に広がる。腸骨尾骨筋の筋線維は尾骨と仙骨に付き、また肛門と尾骨の間では強靱な線維束である肛門尾骨靱帯に付いている。)
- 802_09【Tendinous arch of levator ani muscle肛門挙筋腱弓;閉鎖筋膜腱弓 Arcus tendineus musculi levatoris ani; Arcus tendineus fasciae obturatoriae】 Tendinous arch of variable thickness formed by the obturator fascia at the origin of the levator ani.
→(上骨盤隔膜筋膜は閉鎖筋膜と合する線において肛門挙筋腱弓をなして肛門挙筋の起点をつくり、また下骨盤隔膜筋膜と内外相応じて肛門挙筋と尾骨筋とを包み骨盤出口の大部分を閉ざすロート上の骨盤隔膜を形成する。)
- 802_10【Obturator canal閉鎖管 Canalis obturatorius】 Canal formed by the obturator groove of the pubis and the obturator membrane for the passage of the obturator vessels and the obturator nerve.
→(閉鎖孔の上縁で、恥骨上肢の下面にある閉鎖溝と閉鎖膜の上縁によってつくられる管で、外上後方から内下前方に向かって走り、閉鎖動静脈・神経が通る。)
- 802_11【Male urethra男性尿道 Urethra masculina】
→(男の尿道は長さ約15~20cmである。膀胱頚の内尿道口に始まり、前立腺内を走り、尿道生殖隔膜を貫通し、陰茎の体を通って亀頭の前端で外尿道口に開く。尿道は走行によって、前立腺部・隔膜部・海綿体部の3部に分けられる。まず前立腺を貫通し、これを尿道の前立腺部という。後(背)壁中央には尿道稜があり、膀胱垂の連続する縦の隆起である。尿同僚の中央部は紡錘状にふくらみ、これを精丘という。精丘には前立腺小室が盲嚢として開く。これは胎生期のMueller管の名ごりで、男性子宮または男性腟ともいう。前立腺小室の両側に射精管が開口し、これより先の尿道は尿路と精液の通路を兼ねる。精丘両側のへこみが前立腺洞で、多くの前立腺管が開口する。つづいて尿道は尿生殖隔膜を貫く。これが隔膜部で、約1cm長。さらに外尿道口までが海綿体部で、12~14cm長。亀頭内の部分が膨大し、ここを尿道腺窩という。その後端上壁に舟状窩弁とよばれるヒダがある。海綿体部の粘膜には陥凹が多数みられ、尿道腺(リットレ腺)が開口する。)
- 802_12【Crus of penis陰茎脚;陰茎海綿体脚 Crus penis; Crura corporis cavernosi penis】 Projection from the corpus cavernosum of penis attached to the inferior pubic ramus.
→(陰茎海綿体と尿道海綿体とは陰茎体から近位側に向かってのび、それぞれ、陰茎脚および尿道球となり陰茎根をつくる。すなわち左右両側の陰茎海綿体は恥骨結合の下側で、陰茎脚となり、左右に分かれて恥骨弓に沿って走る。)
- 802_13【Bulbospongiosus muscle球海綿体筋 Musculus bulbospongiosus; Musculus bulbocavernosus】 Male: Muscle arising from the perineal body and the inferior aspect of the corpus spongiosum of penis, passing to the perineal membrane and dorsum of penis. It is unpaired. It acts to compress the bulb of penis and transport urethral contents further. ABC Female: Muscle that originates on the ramus of ischium, attaching to and covering the cms of clitoris. It assists in filling the cavernous bodies with blood. I: Pudendal nerve.
→(男性では球海綿体は尿道球の周辺を不体の筋として回るが、会陰の中心腱と尿道海綿体下側の正中縫線から起こる。球海綿体は前方へ放散し、海綿体のまわり下尿生殖隔膜筋膜や尿道海綿体へ向かい、また前筋線維をもって陰茎背部へ付く。この筋は随意的または反射的に尿道球を圧迫し、それにより尿道の内容を駆出する。女性では球海綿体筋は男性のように全長で1つの筋にはなっていない。2つの筋が会陰の中心腱より起こるが、各筋はそれぞれ引き続き前庭球と大前庭腺を被っている。その筋束は前庭球や陰核海綿体に停止し、陰核体後部で反対側からの筋線維と絡み合っている。この筋は大前庭腺を反射的に空にし、血液を前庭球の後方拡大部から送り出し、またオルガスムの際外腟口を収縮させる。)
- 802_14【Urogenital triangle; Urogenital region尿生殖部;尿生殖三角;尿生殖器部 Regio urogenitalis; Trigonum urogenitale】 Region around the perineum that is located anterior to an imaginary line connecting the two ischial tuberosities.
→(尿生殖三角は左右の坐骨結節をむすぶ線の前方部で泌尿器官を囲む周辺部部域。この領域の浅筋膜のうち脂肪層(キャンパー筋膜)は坐骨直腸窩内の脂肪層に接続するものであり、同時に大腿皮下の浅筋膜にも移行する。陰嚢では脂肪層が平滑筋層(肉様膜)で置き換えられている。肉様膜は寒冷刺激に応じて収縮し、陰嚢皮膚の表面積を減少させる。尿生殖三角線筋膜のうち線維層(コールス筋膜)は後方では尿生殖隔膜後縁に付着し、外側方では恥骨弓の辺縁に付着するほか、前方では前腹壁浅筋膜の線維層(スキャルパ筋膜)へと移行する。このような尿生殖三角浅筋膜の線維層は陰茎あるいは陰核の部位では管状の鞘構造をとり、また陰嚢あるいは大陰唇の部位では著明な1層をなす。浅会陰隙とは、下方を会陰線筋膜の線維層で境され、上方を尿生殖隔膜で境されるような隙間のことである。この隙間は後方では隙間の上壁と下壁がたがいに癒着する形で閉じられ、外側方でも隙間の上壁と下壁が恥骨弓辺縁部に付着する形で閉じられている。しかし浅会陰隙はその前方部で前腹壁浅筋膜と前腹壁筋の間の隙間と自由に交通する。)
- 802_15【Superior fascia of urogenital diaphragm上尿生殖隔膜筋膜;内尿生殖隔膜筋膜 Fascia diaphragmatis urogenitalis superior; Fascia diaphragmatis urogenitalis interna】 Obsolete term. Current scientific opinion holds that there is no complete boundary to the deep perineal space.
→(深会陰横筋の坐骨直腸窩側にある筋膜。 (Feneis))
- 802_16【Inferior fascia of urogenital diaphragm; Perineal membrane下尿生殖隔膜筋膜;会陰膜;外尿生殖隔膜筋膜 Membrana perinei; Fascia diaphragmatis urogenitalis inferior; Fascia diaphragmatis urogenitalis externa】
→(深会陰横筋の前下方にある筋膜。 (Feneis))
- 802_17【Rectococcygeus; Rectococcygeus muscle直腸尾骨筋 Musculus rectococcygeus】 Thin sheet of smooth-muscle cells that passes from the second-third coccygeal vertebrae to the rectum.
→(第二~三尾骨から直腸へ張る薄い板状の平滑筋。(Feneis))
- 802_18【Rectum直腸 Rectum; Intestinum rectum】 Tenia-free 15 cm long segment extending between the sigmoid colon and anus.
→(直腸は消化管の末端部でS状結腸につづく大腸の一部である。結腸から直腸への移行はゆるやかで、仙骨中央部あたりがほぼ両者の境界となる。直腸は腸間膜を欠き、直腸ヒモを示さない部分である。直腸の下端は、骨盤隔膜を貫く寸前までで、それ以下は肛門管である。肛門管の直上部にあたる直腸窩部はふくらみ、ここを直腸膨大部という。膨大部上方には横走するヒダが2~3本認められ、直腸横ヒダといい、最も恒常的なものは右壁にあって、コールラウシュのヒダという。直腸ははじめ仙骨の曲がりに沿って前方に凹の間借りを示し、これを仙骨曲といい、下端近くでは前方に凸の曲がりを示し、これを会陰曲という。直腸壁の平滑筋の筋層のうち、重筋層と一部の輪筋層は周辺の臓器へとのび、直腸尾骨筋、直腸膀胱筋、直腸尿道筋などとよばれる筋束をなす。直腸が内容をいれて拡張すると、壁の伸展刺激は求心性神経線維によって仙髄に伝えられ、反射的に内容の排出、すなわち排便が起こる。このような排便中枢の中枢は仙髄(S2~4)にあり、肛門脊髄中枢anospinal centerといわれる。排便defecationのさいには、交感神経が抑制されるとともに、副交感神経の興奮が高まって、大腸の蠕動・収縮がおこり、内肛門括約筋は弛緩し、さらに陰部神経を介して外肛門括約筋も随意的に緩められる。そのほかに、腹壁の筋・横隔膜・骨盤隔膜を作る肛門挙筋の収縮によって腹圧が高められ排便を助ける。)
- 802_19【External anal sphincter muscle外肛門括約筋 Musculus sphincter ani externus】 Transversely striated outer sphincter muscle of the anus. It consists of the following three parts. I: Pudendal nerve.
→(外肛門括約筋は肛門挙筋の表層にあり、肛門を囲む横紋筋。内肛門括約筋の衿のように張り付いている。外口門括約筋のほぼ矢状面に位置する筋束が腸間終端を両側から閉鎖する。この筋束は後方では尾骨から張る靱帯(肛門尾骨靱帯)に付着し、前方では会陰中心に付いている。)
Thiele's muscle
- 802_20Thiele's muscle【Superficial transverse perineal muscle浅会陰横筋 Musculus transversus perinei superficialis】 Inconstant expansion of the deep transverse perineal muscle that extends from the ischial tuberosity to the perineal body. I: Pudendal nerve.
→(浅会陰横筋は横走する浅在性の薄い筋である。この筋は坐骨結節や坐骨枝の境界域の起始部ではしばしば坐骨海綿体筋と交通し、そこから分枝する。その線維は会陰体へ連なり、外肛門括約筋と球海綿体筋に放散する。女性ではその筋は多少退化し、わずかに筋膜の被膜のみ同定できる程度である。)
Guthrie's muscle
- 802_21Guthrie's muscle【Deep transverse perineal muscle♂深会陰横筋 Musculus transversus perinei profundus♂】 Trapezoidal sheet of muscle spread out in the pubic arch. I: Pudendal nerve.
→(深会陰横筋は男では尿道球の上に接し、坐骨枝と恥骨の下枝との合する所から起こって横走し、正中線で両側のものがたがいに結合する。起始は坐骨枝で停止は会陰部で対向する反対側の坐骨枝。作用として浅会陰横筋とともに会陰の横走筋を形成しており(縦走筋は球海綿体筋と外肛門括約筋)、会陰ならびに骨盤筋膜を支持して腹圧に対向する。男性では尿道球をも支持する。陰部神経(陰茎背神経、陰核背神経)から支配される。この筋は臨床上重要である。)
Cowper's glands
- 802_22Cowper's glands【Bulbourethral gland尿道球腺;カウパー腺 Glandula bulbourethralis】 Pea-sized mucous gland on the posterior end of the bulb of penis at the level of the deep transverse perineal muscle.
→(尿道球腺はカウパー腺ともよばれる。尿道海綿体球部の後上方、尿生殖隔膜内に位置する。女性の大前庭腺(バルトリン腺Bartholin's gland)に相当する。尿道球の後端両側に位置する径1cmほどのえんどう豆大の粘液腺で、導管は長く、3~4cm、尿道球腺管といい、前方へ走って尿道海綿体部のはじまりの部分で下面に開く。弾性の性的興奮時には、この線の分泌物部が尿道を潤す。1702年にイギリスの外科医・解剖学者William Cowper (1666-1709)が記載したことによるが、これに先だつ1684年にJ. Meryが報告している。)