- 635_00【Alimentary system; Digestive system消化器;消化器系 Systema digestorium】
→(栄養分を取りこむ器官系で、言い換えれば、身体の成長に必要な物質と身体の活動を支えるためのエネルギー源とを取り入れるのが消化器の役割である。消化器は口腔・咽頭・食道・胃・小腸・大腸などから構成された「消化管」とこれに開く唾液腺・肝臓・膵臓などの「消化腺」とから出来ている。)
- 635_01【Bony nasal cavity鼻腔;骨鼻腔 Cavitas nasalis ossea】
→(骨鼻腔は顔面頭蓋の中央に位置し、西洋梨状の梨状口で前方に開いている。梨状口は鼻骨と上顎骨とで囲まれる。正中矢状面にある鼻骨中隔によって左右に分けられている。骨部腔には上・下・内側・外側の4壁と、前方・後方の2個の交通路がある。上壁は大部分が篩骨篩板、一部分が鼻骨前頭骨、蝶形骨よりなる。下壁は上顎骨口蓋突起と口蓋骨水平板よりなる。内側壁は鼻中隔で篩骨垂直板と鋤骨よりなる。口側壁はその構造が複雑で上顎骨体、上顎骨前頭突起、口蓋骨垂直板、蝶形骨翼状突起内側板、下鼻甲介、篩骨、涙骨よりなる。前方の交通路は梨状口をもって顔面に開口する。後方の交通路は上鼻道、中鼻道、下鼻道の3個の鼻道が合して鼻咽道につづき後鼻孔をもって外頭蓋底に開口する。鼻骨腔の後上部で蝶形骨体の前面で上鼻甲介と篩骨垂直板との間にある部分を蝶篩陥凹といい篩骨垂直板との間にある部分を蝶篩陥凹といい蝶形骨洞がここに開口する。下鼻道には涙骨管が開口しているが、鼻液管は上顎骨の涙嚢溝を涙骨の涙骨鈎と下鼻甲介の涙骨突起が内側からおおって形成されている。また外側壁の後部は口蓋骨垂直板よりなるが、その眼窩突起と蝶形骨突起との間の深い切れ込みを蝶口蓋切痕といい、これが蝶形骨体底部と合して蝶口蓋孔を形成し、この孔をもって骨鼻腔は翼口蓋窩と交通している。)
- 635_02【Oral fissure; Oral opening口裂 Rima oris】
→(口裂は唇の間にある口の入口である。)
- 635_03【Larynx喉頭 Larynx】 The larynx is situated between the pharynx and trachea.
→(喉頭は咽頭と気管の間にある気道の一部をなすと同時に発声器として重要な役目を有する。前頚部の正中部で、第4~6頚椎の高さにあり、前と外側は皮膚と舌骨下筋群におおわれ、後は咽頭の喉頭部に接する。上部は上後方に向かって咽頭腔に突出し、喉頭口をもって咽頭喉頭部につづく。喉頭は軟骨性の支柱(喉頭軟骨)を有し、声帯ひだを含む弾性膜、およびこれらの位置と緊張を調整する喉頭筋からなる。)
- 635_04【Trachea気管 Trachea】 Elastic tube between the larynx and bronchi.
→(喉頭の下に連なる気道の管状部で、第6頚椎の高さにはじまり、気道の前を垂直に下り、第4頚椎の前で左右の気管支に分岐する。この分岐部を気管分岐部という。気管支鏡で分岐部を上から見ると、その正中部に左右の気管支を隔てる高まりがある。この高まりを気管竜骨という。気管壁には、硝子軟骨性の気管軟骨の輪が一定の間隔をおいて重なり、軟骨間は輪状靱帯で結合する。気管軟骨は幅3~4mmで15~20個を数える。気管軟骨は完全な輪ではなく、全周の4/5~2/3を占める馬蹄状を呈する。軟骨性の支柱を欠く部は正中部後壁をなし、膜性壁とよばれる。膜性壁には平滑筋(気管筋)を含む。気管内面は多列絨毛円柱上皮で、絨毛の運動の方向は上向きである。粘膜固有層には弾性線維が多く、粘膜下組織には胞状の混合腺(気管腺)を数多く含む。日本人の気管の長さは10cm前後である。)
- 635_05【Oesophagus; Esophagus食道 Oesophagus; Esophagus】 Passageway measuring 23-26 cm in length that begins below the cricoid cartilage at the level of the sixth cervical vertebra and ends at the cardia of the stomach.
→(食道は咽頭につづき、下方は胃に流入する長い管で、狭義の消化管の最初の部分である。輪状軟骨下縁(上食道狭窄)にはじまり、脊柱の前を下って胃の噴門部に接合するまで、全長23~26cm。内腔は適宜拡がり、義歯を飲み込んだ例もある。内腔の狭い部分は上端(上食道狭窄)、大動脈弓・気管支と交叉する部分(中食道狭窄)、下端(下食道狭窄)の3カ所で、上下端では内腔が普通は閉じ、括約筋の存在が想定されている。食道を上から頚部・胸部・腹部に分ける。頚部は脊椎の前にある部分、胸部は以下横隔膜で、腹部は横隔膜の食道裂孔を抜けて腹腔内に入り、噴門部に流入する短い部分である。食道の壁の粘膜は重層扁平上皮におおわれ、粘膜筋板を有し、食道腺が散在する。上部または下端に食道噴門腺をみる。筋層は上部で横紋筋、下部で平滑筋で、平滑筋束の一部は気管支食道筋、胸膜食道筋として、周囲の器官に連続する。筋層の外側は疎性結合組織性の外膜におおわれる。)
- 635_05a【Thoracic part of oesophagus; Thoracic part of esophagus; Thoracic esophagus胸部(食道の) Pars thoracica (Oesophagus)】 Part of the esophagus that extends from the first thoracic vertebra to its passage through the diaphragm (near T11).
→(食道の胸部は第一胸椎から横隔膜を貫くところ(ほぼ第十一胸椎)までで長さ15~18cm、気管の後ろをやや左側に偏して、下行する。気管分岐部の下方では右肺動脈・左心房をおおう心膜の後方を下行する。食道鏡部は第5~7胸椎の高さでは下行大動脈の右側にあるが、下行するとともに次第に大動脈の前方に移り、大動脈の左前方で横隔膜の食道裂孔を通って腹腔にはいる。)
- 635_05b【Abdominal part of oesophagus; Abdominal part of esophagus; Abdominal esophagus腹部(食道の) Pars abdominalis (Oesophagus)】 Short segment of the esophagus between the diaphragm and stomach.
→(食道の腹部は横隔膜と胃の間の短かく2~3cmである。腹部は第10胸椎の高さで横隔膜の食道裂孔を通ると、やや左方にまがり、第11胸椎の前左方で胃の噴門に連なる。胃体で胃が充満すると、腹部はやや長くなる。)
- 635_05c【Cervical part of oesophagus; Cervical part of esophagus; Cervical esophagus頚部(食道の) Pars cervicalis oesophageae; Pars colli oesophageae】 Segment of the esophagus located in front of the cervical vertebral column (C6-T1).
→(食道の頚部は頚椎の前にある短い食道部分(第六頚椎-第一胸椎)で長さ5~6cm(全長の約1/5)で、輪状軟骨下縁から腕骨上縁までの高さで、椎骨の前にある。気管のすぐ後ろを下行する。食道と気管との間には反回神経が走り、食道の両側には総頚動脈・内頚動脈・迷走神経が走る。)
- 635_06【Liver肝臓 Hepar】 Organ located in the upper right side of the abdomen in the hypochondrium. Its inferior border runs from the upper left to the lower right through the epigastric region. In healthy subjects its border does not reach below the costal margin. It moves with respiration and is thus palpable.
→(肝臓は身体内の最大の腺であり多様な機能を営むが、それを①胆汁の生産と分泌(腸管内へ)を行う、②炭水化物、脂肪、蛋白の代謝活動、③胃腸管から血液中に進入した最近や異物を細くする、とう3点に要約することができる。(1)位置と形状:肝臓は右上腹部ある巨大な消化腺で、重さは男で1,400g、女で1,200gほどある。色は暗赤褐色で、これは充満する血液によるものである。肝臓の表面が平滑で光沢に富むのは腹膜(の臓側葉)におおわれているからである。肝臓の上面は横隔膜の下面に接して丸く膨らみ、横隔面と呼ばれる。横隔膜上の心臓に対応して、浅い心圧痕をみる。からだの正中にほぼ相当して、横隔面を大きい右半と小さい左半に二分する肝鎌状間膜が走る。これは肝臓の表面を被う腹膜が左右から翻転しながら寄り合い、その間に線維性の結合組織をいれるもので、肝臓を横隔膜から吊り下げる役をしている。このようにして横隔膜と肝臓は平滑な腹膜で自由に滑り動くようになっているが、後部のせまい領域では、両者が線維性結合組織によって密着して活動性に欠ける。肝臓表面のこの領域を無漿膜野(裸の領域Area nuda--腹膜に包まれていない--の意)という。無漿膜野は前方へ細く張り出して肝鎌状間膜につづき、左右へ細く伸びて左三角間膜と右三角間膜になる。左三角間膜の端は、肝臓の左上端を横隔膜につなぐ索をなして線維付属(Appendix fibrosa hepatis)とよばれる。肝臓の上面と下面の境界は前方でうすくするどい縁をなし、下縁(または前縁)とよばれる。上腹部を斜め右下方へ走る一線をなし、触診することができる。これと右肋骨弓の交点に胆嚢の底が腹壁直下に頭を出している。下縁の正中部には肝円索切痕とよぶ切れこみがあって、肝鎌状間膜をはさんでいる。肝臓の下面は上腹部の内臓に面するので、臓側面とよばれる。ここには矢状方向に走る2条のくぼみと、それを横に結ぶくぼみがHの字をなしている。Hの左縦線は前方の半分が肝円索をいえる肝円索裂、後方の半分が静脈管索をいれる静脈管索裂である。Hの右の縦線には前方に、胆嚢の上面をおさめる胆嚢窩があり、後方に大静脈をおさめる大静脈溝がある。H字の横線に当たる溝は肝門で、門脈、固有肝動脈、肝管のほか多数のリンパ管と若干の神経が通っている。肝鎌状間膜、肝円索裂、静脈管索裂によって、肝臓は大きい右葉と小さい左葉に分けられる。肝臓の臓側面では、右葉(広義)が胆嚢窩、大静脈溝、肝門によって狭義の右葉、中央前方の方形葉、中央後方の尾状葉に分けられる。尾状葉は全科法へ乳頭突起を出し、前右方へ、肝門の後縁に沿って尾状突起を出す。乳頭突起に対峙して左葉から小綱隆起が張り出し、両者の間に小綱をはさむ。(2)肝臓の構築:肝臓の表面は大部分腹膜をかぶり、その下に線維性の結合組織がある。この結合組織は大血管とともに肝臓内に侵入し、血管周囲線維鞘をつくる。ギリソン鞘(Glisson's sheath)ともよばれる。肝臓の実質は径1mm前後の短六(ないし五)角柱の肝小葉を構造単位として成り立っているが、肝門からはいる肝固有動脈と門脈の枝はグリソン鞘を伴って、この肝小葉の稜線(三つの肝小葉の合するところ)に沿って走るこの動静脈を小葉間動・静脈とよぶ。肝小葉の角柱の中心を貫いて中心静脈という太い毛細血管が走り、その周囲に肝細胞の板が放射状に配列する。肝細胞板(hepatic cell plates)は分岐し、吻合し、あなをもち、すきまに洞様毛細血管(sinusoidal capillaries)をいれている。小葉間動静脈の枝は小葉の洞様毛細血管に注ぎ、中心静脈から、小葉下静脈(Vena sublobularis)とよばれる小静脈を経て下大静脈へと流れていく。肝細胞板の中に、肝細胞のあいだを縫って走る細管系が毛細胆管(bile capillary)であって、肝細胞の産生する胆汁を運ぶものである。毛細胆管は肝小葉のへりで小葉間胆管とよばれる小導管に注ぎ、グリソン鞘の中を合流しつつ肝門へ向かう。(3)肝臓と血管:肝臓は門脈の番人というべき器官である。すなわち消化管から送られてくる血液中に余分の糖分があればグリコゲンとして貯え、有害物質があれば分解、解毒する。脾臓から送られる破壊血液のヘモグロビンをビリルビンに変えて胆汁中に排泄する。門間区によって運ばれてくる膵臓のホルモンは、肝細胞でのグリコゲンの産生とブドウ糖への分解を調節する。しかし、門脈血は酸素に乏しい静脈血であるから、肝臓は動脈血を固有動脈にあおがねばならない。胎生期においては、臍から前腹壁を上行して肝臓の下面に達する臍静脈(Vena umbilicalis)が、肝門で門脈と合して、そのまま肝臓の下面を後方へ走り、下大静脈に注ぐ。細静脈と下大静脈のこの短絡路を静脈管またはアランチウス(Arantius)の管と称する。生後、胎生期の循環路は閉鎖し、結合組織索として残る。臍静脈の遺残が肝円索、静脈管の遺残が静脈管索である。 (解剖学事典 朝倉書店より引用) 肝臓の生理 肝臓は重要な機能を営む器官であり、肝臓を楔状すると12時間前後で低血糖で死亡するといわれている(動物実験では70%の肝切除でも数週で機能が正常になるといわれている)。)
- 635_07【Pylorus幽門 Pylorus; Pylorus ventriculi】 End of the stomach that is reinforced by a ring of muscle.
→(幽門は、強力な輪状筋を備えた胃下端部。胃の空腹時、背臥位では正中線の1~2cm右方で、第1腰椎の右前方にある。)
- 635_08【Duodenum十二指腸 Duodenum; Intestinum duodenum】 The ca. 25-30 cm long segment of the small intestine between the pylorus and duodenojejunal flexure.
→(十二指腸は胃の幽門から十二指腸空腸曲まで約25cmの腸管。十二指腸Duodenumは12で、intestinum duodenum digitorumの意味。長さが指を12本横にならべた幅に等しいことによる。第1腰椎の椎体右縁の前方ではじまり、C字状に屈曲して膵臓の頭を取り囲む。腸間膜を欠き、後腹膜臓器の一つであり、胆管、膵管が開口するなど他の小腸とは異なる。十二指腸には4部が区別される。上部は幽門につづく5cmの長さの部で、上背外側へはしる。最初の2.5cmは可動性。上縁には小綱が付着する。上十二指腸曲において、ほぼ下方へ屈曲し、下行部(約8cm)へ移行する。その半ばで後内側壁に一条の十二指腸ヒダがり、その下端に大十二指腸乳頭が隆起し、ここに総胆管と膵管が共通に開口する。その上方2~3cmの部に小十二指腸乳頭があることが多く、副膵管の開口をみる。下行部は下十二指腸曲で左方へ屈曲し、水平部(下部、約8cm)へ移行し、第3腰椎体左縁に達し、左上方へ屈曲し、上行部へつづく。この部は約5cm走行したのち、第2腰椎の左方で急に前方に曲がり空腸へ移行する。この部を十二指腸空腸曲という。この曲がりは、横隔膜直下の後大動脈壁から下降する十二指腸提筋で固定されている。十二指腸の前半、ほぼ大小十二指腸乳頭までには、よく発達した十二指腸腺がある。複合管状胞状腺で、分泌物は粘液性でアルカリ性を示すことから胃酸から粘膜を保護するのではないかといわれる。)
- 635_09【Right colic flexure; Hepatic flexure右結腸曲;肝臓結腸曲 Flexura coli dextra; Flexura coli hepatica】 Bend in the colon between the ascending and transverse colon.
→(上行結腸と横行結腸の弯曲。(Feneis))
- 635_10【Transverse colon横行結腸 Colon transversum】 Intraperitoneal part of the colon between the hepatic and splenic flexures.
→(横行結腸は右結腸曲から左方に走り、やや上行して脾臓の下端で左結腸曲に達するまでの約30~50cmの結腸。その外表面は腹膜によって完全におおわれ、長い横行結腸間膜によって後腹壁に付着している。前腹壁との間には大網がある。横行結腸は広い横行結腸間膜をもつので、大きな可動性をもつ。横行結腸は前下方に球状を呈して横走し、その中央部は下垂する。その最下位は背臥位でほぼ臍の高さにあるが、直立位でとくに充満する時には下腹部さらに骨盤にまで下垂する。広い横行結腸間膜によって、腹膜腔は上・下2部に分けられる。)
- 635_11【Ascending colon上行結腸 Colon ascendens】 Part of the colon that ascends retroperitoneally on the right side of the body.
→(上行結腸は右腸骨窩において第5腰椎の高さで盲腸上端からおこり、上行して肝臓の右葉下面にある、右結腸曲までの15~20cmの結腸。前面と側面は腹膜でおおわれて腸間膜はない。)
- 635_12【Caecum; Cecum盲腸 Caecum; Cecum; Intestinum caecum】 Initial segment (ca.7 cm) of the large intestine below the opening of the ileum.
→(大腸の起始部で回盲弁の高さから下方へ膨隆した深さ6cm、幅7cmの盲嚢で右腸骨窩に位置する。その外表は腹膜で完全に(ときに不完全に)おおわれており、わずかに可動性である。壁は大腸中、最も薄く、ガスの充満によって膨大しやすい。結腸ヒモは前、後、左側面にみられる。下端後左方から虫垂が突出している。回腸が盲腸へ開口する部位、回盲口は、盲腸と上行結腸の境でその左後壁に位置する。この開口部には上唇と下唇からなる回盲弁があり、内容の逆流を不正でいる。上唇と下唇はおのおのの両端が互いに合して盲腸内面に輪状に走る回盲弁小帯という提状の高まりをつくっている。盲腸と虫垂は派生学的に中腸の遠位側半部に生じる小さな膨出、すなわち盲腸芽(網腸憩室)から生じる。網腸憩室の近位部は太く盲腸となり、先端部は発達が悪く細く管状の虫垂になる。盲腸は始め上方にあるが、結腸の近位部が成長とともに長く伸びるので、盲腸も下行する。)
- 635_13【Appendix; Vermiform appendix虫垂 Appendix vermiformis; Processus vermiformis】 Cecum appendage that is usually 9 cm long and contains abundant lymphatic tissue.
→(虫垂は、盲腸の内側下部からでて、盲端に終わる細長い腸であるが、長さ6~15cm、直径は6~10mmである。虫垂は腹膜に包まれる。腹膜は三角形を呈する腹膜ヒダ、すなわち虫垂間膜をつくり、回腸末端部の腸間膜の腹膜後葉に連なる。その起始部を体表へ投射した点がいわゆるマクバーネー点(MacBurney's point)(上前腸骨棘と臍を結ぶ線上で外側3分の1の点)である。虫垂の起始部、虫垂口は盲腸の三つの結腸ヒモが集まっておわる部位であるから、手術時に結腸ヒモに沿って下行すれば容易に虫垂に達することができる。虫垂の位置は盲腸の後方へあるもの74%、内下方へ向かうもの21%である。その形状や大きさは、個人によって著しく異なる。虫垂の内腔は狭く、しばしば老廃物等によって完全に閉鎖されていることがある。虫垂は、粘膜、粘膜下組織、筋層、漿膜によって構成されているが、粘膜固有層から粘膜下組織にかけて、リンパ小節が異常によく発達していることを特徴とする。)
- 635_14【Pharynx咽頭 Pharynx】 Airway and food passageway; 1416 cm long. It extends from the vault of pharynx to the beginning of the esophagus in front of the sixth cervical vertebra.
→( 咽頭は上端で咽頭円蓋となりその前方で後鼻孔を介して鼻腔に、その直下で口峡を介して口腔につながる。下方は第6~7頚椎、または輪状軟骨下端の高さで食道に移行し、途中、第二頚椎の高さで咽頭前壁に喉頭口が開口する。したがって、咽頭は呼吸器系と消化器系が交叉している。前後にやや扁平な管で、肝の内腔が咽頭腔である。咽頭の後壁は単純であるが、前・側壁は発生時に鰓弓と関連が深く、生体での構造が複雑となる。咽頭を上から下へ、鼻部・後部・後頭部の三つに分ける。鼻部は鼻腔につづき、燕下時に軟口蓋が挙上すると、消化管から遮断される。したがって鼻部は気道に属するとみなされることが多い。後部は口峡を経て口腔につづき、軟口蓋と舌根とが前方上下に位置する。後頭部は前壁に後頭の後壁となる。咽頭の下端は食道に連続する。鼻部には耳管が開き、その開口部を耳管咽頭口という。この周囲では咽頭壁にかなり凹凸がみられる。耳管隆起は耳管軟骨により、挙筋隆起は口蓋帆挙筋により生ずる。耳管咽頭ヒダは耳管咽頭筋の足行き一致する。耳管隆起の後方のくぼみは咽頭陥凹とよばれる。鼻部の天井は頭蓋底直下にあたり、この部分を咽頭円蓋という。喉頭部では、舌根の後下方に喉頭蓋が突き出す後頭口の両側、すなわち後頭の側壁と咽頭の側壁の井田は梨状陥凹とよばれる。ここは燕下時に食物の通路となる。この部に上喉頭神経・動脈による後頭神経ヒダを認める。咽頭壁は、最上部では前方鼻腔へ通じる部分を除き、頭蓋底に付着する。頭蓋底近くでは、咽頭壁は筋層を欠き、結合織性の壁となす。これを咽頭頭底板という。咽頭の粘膜上皮、他では重層扁平上皮である。咽頭線は粘膜全体に分布する。)
- 635_15【Descending aorta下行大動脈;大動脈下行部 Pars descendens aortae; Aorta descendens】 Portion of the vessel extending from the aortic isthmus at the level of the fourth thoracic vertebra to the aortic bifurcation at the level of the fourth lumbar vertebral body.
→(大動脈の下行部で上部を胸大動脈、下部を腹大動脈に区別される。)
- 635_16【Diaphragm横隔膜 Diaphragma】 Dome-shaped musculofibrous septum dividing thoracic and abdominal cavities. I: Phrenic nerve.
→(横隔膜は胸腔と腹腔との境を作る膜状筋で、胸郭下口の周りから起こる。この起始部を腰椎部、肋骨部、胸骨部の3部に分ける。これらの部から出る筋束は全体として円蓋のように胸腔に盛り上がって集まり、中央部の腱膜につく。これを腱中心という。横隔膜の上面は胸内筋膜および胸膜と心膜、下面は横隔膜筋膜(横筋筋膜の一部)および腹膜(肝臓その他の臓器が接する部分を除いて)被われる。ドーム状の横隔膜は胸腔の床および腹腔の天井となる。閉鎖した筋腱様のしきりは哺乳類の特質である。横隔膜は最重要な呼吸筋である。筋素材は系統発生的に第3~5の頚部筋節から由来し、頚神経叢からの横隔神経(C4(3,5))に支配される。筋性横隔膜は腰椎部、肋骨部、胸骨部から形成される。)
- 635_17【Cardia; Cardial part of stomach噴門;噴門部(胃の) Cardia; Pars cardiaca gastricae】 Area near the opening of the esophagus.
→(噴門は食道腹腔部が胃に接続する部位を指すが、そこには特別な括約筋層が存在するわけではない。しかし、胃の内容物が食道内に逆流するのを防ぐような機能が噴門に備わっていることはほぼ疑いない。)
- 635_18【Stomach胃 Gaster; Ventriculus】 Organ extending from the end of the esophagus to the pylorus.
→(胃は食道と十二指腸の間にある不規則な洋梨状の消化管。胃液を分泌し食物を糜汁とする。容量は日本人の胃の平均は♂1407.5ml、♀1270.5ml。形状は死体ではウシの角状の嚢であることが多いが、生体では内容の充満度、体位、機能状態によって著しく変化する。位置は上端は左第5肋間、下端は内容の空虚なとき臍より三横指上方。胃の大部分は左下肋部と上胃部に位置する。部域は①噴門十二指腸が胃に連続する部。その内腔は狭く噴門口をなす。その①は、正中線よりわずか左側で、第7肋軟骨が胸骨に付着する高さにある。前腹壁より約10cm深部で、切歯から食道を経て40cmで達する。②幽門(幽門口)胃と十二指腸の境界。壁内に輪状に走行する幽門括約筋が発達しているため壁は輪状の高まりとなって幽門孔をとり囲む。その位置は、第1腰椎の下端の高さ正中線の約1.5cm右方である。③幽門部胃体と幽門部の間に介在する比較的細い部。その胃体側を幽門洞、幽門へつづく管状部を幽門管とよんでいる。④胃体噴門と幽門部との間で胃のもっと広い部域。胃体管は胃の小弯に沿って生じるとされる十二指腸への通路。胃体の上端部で行き詰まりの嚢状の部分を胃底といい横隔膜の直下に位置する。胃底が噴門へつづく面と食道下端は鋭角状の噴門切痕をつくる。このほか胃の前壁と後壁を区別しこの量壁が上縁と下縁で互いに移行する弓状の縁をそれぞれに小弯と大弯といい、小綱と大網の付着線をなしている。胃体と幽門部の境目の小弯は内方へ深く落ち込み角切痕(胃角)をつくる。胃壁の構造は外表は腹膜の一部である漿膜でおおわれ小綱および大網表層へ移行している。平滑筋からなる筋層は外層が縦走筋(外縦筋)、中層は最もよく発達し、輪走筋(中輪筋)、食道の内層筋から発して胃体を斜走するが、胃底では輪走する。幽門部では中輪筋がとくに発達し幽門括約筋となるが、内斜筋は欠いている。胃の内面は胃の粘膜でおおわれ、収縮時には多数の縦走するヒダ(胃粘膜ヒダ)がみられる。粘膜の表面には小さい陥凹が多数みられ(胃小窩)、その底部に固有胃腺が数個ずつ開口する。胃粘膜は浅い溝によって直径約2~3mmの多角形に区画されている。これを胃小区という。固有胃腺を構成する細胞は主細胞、傍細胞、副細胞がある。幽門腺は幽門部にある分枝単一管状胞状腺である。)
- 635_19【Left colic flexure; Splenic flexure左結腸曲;脾結腸曲 Flexura coli sinistra; Flexura coli splenica】 Bend in the colon below the left subphrenic space, between the transverse and descending colon. The Cannon-Boehm point is nearby, marking the boundary between the cranial (vagus nerve) and sacral components of the parasympathetic system.
→(左結腸曲は横行結腸と下行結腸の移行部における弯曲で、左側横隔膜円蓋の直下に位置する。)
- 635_20【Duodenojejunal flexure十二指腸空腸曲 Flexura duodenojejunalis】 Flexure between the duodenum and jejunum.
→(十二指腸と空腸の間の弯曲。(Feneis))
- 635_21【Jejunum空腸 Jejunum; Intestinum jejunum】 Middle segment of the small intestine, extending about 2.5 m from the duodenojejunal flexure.
→(空腸は剖検に察してしばしば空虚であったため「空」とう意味からnestisとよばれ、のちjejunumとなった。十二指腸と回腸の間長さ約2.4cm、直径約2.7cm、の小腸部分。十二指腸空腸曲で十二指腸と境される。一方、回腸との境は明瞭ではない赤みを帯び、可動性で幅広い腸間膜を介して後腹壁の腸間膜根に付着している。壁の厚さは回腸に比してやや厚く、輪状ひだが大きくてよく発達しており、血管分布が豊富で動脈弓が少なく、直細動脈が長い。腸絨毛は十二指腸と同様3600個/cm2。空腸の吸収上皮面績は37m2に達する。粘膜固有層には孤立リンパ小節が発達する。腸腺の底部にはエオジンに好染する顆粒をもつパネート細胞がみられる。また腸腺の下半分には腸クロム親和細胞が多数分布し、セロトニンを分泌する。その他消化器ホルモンの分泌細胞を混ずる。)
- 635_21a【Small intestine小腸 Intestinum tenue】 The small intestine consists of the duodenum, jejunum, and ileum.
→(小腸は胃の幽門から始まり、回盲口によって盲腸に開くまでの細長い管。十二指腸、空腸、回腸からなる。その長さは成人の死体では、全長約7mであるが、小腸の長さは平滑筋層の張力に依存しているために、死後伸びる。生体では平均5mといわれている。食物の消化吸収の主な場所であり、その属腺として肝臓と膵臓がある。小腸は腸間膜を欠く十二指腸と腸間膜小腸が区別され、後者は空腸(はじめの2/5)と回腸(あとの3/5)に分けられる。吸収上皮は内腔への大小の突起を突出させ、表面積は約20m2にも達する。最大の突起は粘膜下組織までを含む輪走する輪状ヒダで、十二指腸で最も発達している。これより一段小さい突起は高さ約1mmの腸絨毛上皮と粘膜固有層とからなり小腸内面をおおう。十二指腸では養状を呈し、空腸、回腸では円柱状である。絨毛の粘膜固有層へは1~2本の動脈が侵入し、先端部で上皮直下の密な毛細血管網に移行したのち1本の小静脈へ注ぐ。絨毛の内輪には太いリンパ管があり脂質の吸収にあずかる。粘膜固有層にはリンパ球、形質細胞、大食細胞などが多数みられる。ことにリンパ球は集族増殖して孤立リンパ小節やそれらが集合して集合リンパ小節をつくる。後者は回腸に多い。発達したリンパ小節は粘膜筋板をおおって粘膜下組織へも侵入する。)
- 635_22【Descending colon下行結腸 Colon descendens】 Retroperitoneal segment of the colon extending along the left side of the body between the splenic flexure and sigmoid colon.
→(下行結腸は左結腸曲から下行し、左腸骨窩においてS状結腸へ移行する。長さ25~30cmで、左結腸曲からほぼ垂直に下行し、左結腸窩でS状結腸に移行する。下行結腸は、上行結腸に比べて、細く、前方には大網・小腸があり、後方には左腎臓の外側縁・腰方形筋・腸骨筋・大腰筋が接する。上行結腸と同様腸間膜を欠き後腹壁に固定されている。下行結腸に沿って結腸傍溝が走る。とくに外側の傍溝は下方で骨盤腔に連なり、上方では横隔結腸ヒダで境される。)
- 635_23【Ileum回腸 Ileum; Intestinum ileum】 Terminal segment of the small intestine, about 3.5 m long.
→(回腸は腸間膜小腸の肛門側の5分の3で、空腸との境界は明確ではない。直径約2.5cmの可動性の管で、回盲弁を介して大腸の始まりの部分出る盲腸に続く。回盲弁は回腸から盲腸への内容物の流れを調節している。空腸に比してやや白色味を帯びる。回盲部から約60cmの口腔側に高さ約5cmの円錐状ないし円筒状の突出物が2%の頻度でみわれる。これは、胎生期における卵黄管の遺残物でメッケル回腸憩室という。腸絨毛は空腸に四角して少なく2500個/cm2で回腸の吸収上皮の表面積は5.3m2である。回腸には20~30個の集合リンパ小節がある。これをパイエル板といい、その表面には絨毛を欠く。)
- 635_24【Sigmoid colonS状結腸 Colon sigmoideum】 Intraperitoneal segment of the colon between the descending colon and rectum.
→(S状結腸は骨盤上口と第3仙椎との間で、S状の曲線を描いて下行する部分。下行結腸下端からS字状に屈曲下行して内下方へ向かい、第3仙椎の前方で直腸へ移行する。長さ30~45cmである。ほぼ左側の腸骨稜の高さに始まり、左外腸骨動脈の前を不規則なS状をえがいて下行し、直腸に移行する。S状結腸の走行は一般に不整なS状で、2箇所で弯曲する。すなわち、まず骨盤の左側壁に接して下行し、ついで弯曲し小骨盤内を内上方に走り、再び弯曲して下走し、仙骨前面で第3仙椎の高さにおいて直腸に移行する。S状結腸は、成人では骨盤内にあるが、小児では骨盤がなお小さいので腹部にある。)
- 635_25【Rectum直腸 Rectum; Intestinum rectum】 Tenia-free 15 cm long segment extending between the sigmoid colon and anus.
→(直腸は消化管の末端部でS状結腸につづく大腸の一部である。結腸から直腸への移行はゆるやかで、仙骨中央部あたりがほぼ両者の境界となる。直腸は腸間膜を欠き、直腸ヒモを示さない部分である。直腸の下端は、骨盤隔膜を貫く寸前までで、それ以下は肛門管である。肛門管の直上部にあたる直腸窩部はふくらみ、ここを直腸膨大部という。膨大部上方には横走するヒダが2~3本認められ、直腸横ヒダといい、最も恒常的なものは右壁にあって、コールラウシュのヒダという。直腸ははじめ仙骨の曲がりに沿って前方に凹の間借りを示し、これを仙骨曲といい、下端近くでは前方に凸の曲がりを示し、これを会陰曲という。直腸壁の平滑筋の筋層のうち、重筋層と一部の輪筋層は周辺の臓器へとのび、直腸尾骨筋、直腸膀胱筋、直腸尿道筋などとよばれる筋束をなす。直腸が内容をいれて拡張すると、壁の伸展刺激は求心性神経線維によって仙髄に伝えられ、反射的に内容の排出、すなわち排便が起こる。このような排便中枢の中枢は仙髄(S2~4)にあり、肛門脊髄中枢anospinal centerといわれる。排便defecationのさいには、交感神経が抑制されるとともに、副交感神経の興奮が高まって、大腸の蠕動・収縮がおこり、内肛門括約筋は弛緩し、さらに陰部神経を介して外肛門括約筋も随意的に緩められる。そのほかに、腹壁の筋・横隔膜・骨盤隔膜を作る肛門挙筋の収縮によって腹圧が高められ排便を助ける。)