064
- 064_00【Mandible下顎骨 Mandibula】
→(下顎を形成する。下顎を支え、頭蓋と顎関節をつくる骨で、水平な馬蹄形の部(下顎体)と、その後端から上方に向かう部(下顎枝)に分けられる。本来有対の骨として生じ、生後1年目で下顎底の前端で癒合して一つの骨となる。下顎体の上縁は歯槽部で、下縁は下顎底という。歯槽部には各側8本の歯をいれる八つのへこみ(歯槽)があり、全体として歯槽弓をつくる。各歯槽を境する骨壁を槽間中隔といい、大臼歯の歯槽はさらにその歯根の間を隔てる低い根管中隔で分けられている。体の正中線上前面で左右の骨が癒合した部分は高まり、その下縁は三角形をなして突出(オトガイ隆起)し、ヒトの特徴であるオトガイをつくる。その外側、下縁に接する小突出部をオトガイ結節という。外面ではオトガイ結節から斜線が下顎枝の前縁に向かう。また第2小臼歯の下方にオトガイ孔がある。下顎体の内面には前方正中部に四つの隆起からなるオトガイ棘があり、上二つはオトガイ舌筋、下二つはオトガイ舌骨筋がつく。その下外側で下縁に切歯て卵形のへこみ(二腹筋窩)がある。そこから斜めに下顎枝の前縁に向かう線(顎舌骨筋線)があり、左右のこの線の間をはる顎舌骨筋が口底をつくる。この線の上前はへこみ(舌下腺窩)、またこの線の下方、第2~3大臼歯の所もへこむ(顎下線窩)。下顎底が下顎枝にうつる所は下顎角といわれ、小児で鈍角であるが成長とともに直角に近づく。下顎枝の上縁は深い切れ込み(下顎切痕)によって二つの突起に分かれ、前のもの(筋突起)には側頭筋がつき、後のもの(関節突起)の先に横楕円形の下顎頭があて、側頭骨鱗部にある関節窩と顎関節を作る。下顎頭の下はすこしくびれ(下顎頚)、その前面に外側翼突筋のつく翼突筋窩がある。下顎枝外面は平らで下顎角に近く咬筋のつく咬筋粗面、内面には内側翼突筋のつく翼突筋粗面がある。下顎枝内面中央には下顎孔があり、その前縁は上内方に尖り(下顎小舌)口腔から触れるので、下歯槽神経の伝達麻酔の際、針をさす指標となる。下顎孔の後下から溝(顎舌骨筋神経溝)が出て前下方に斜めに向かう、この上の高まりが顎舌骨筋線である。下顎管は下顎孔からはじまり下顎体の中央で二分し、外側管はオトガイ孔で外側にひらき、内側管は切歯のそばに終わるが、その経過中に各歯槽に向かって小管を出している。有顎魚の下顎を支配する骨格は本来下顎軟骨(Meckel軟骨)で、上顎を支配する支持する軟骨は(口蓋方形軟骨)と顎関節をつくる。ともに鰓弓軟骨の変化したものである。硬骨魚類では下顎軟骨のまわりに若干の皮骨が生じて下顎を支え、そのうち前外面にあり、顎縁の歯をつけた大きい歯を歯骨という。顎関節は下顎軟骨と口蓋方形軟骨それぞれの後部の化骨物(関節骨と方骨)の間につくられる。両棲類、爬虫類も同じ状態であるが、哺乳類では歯骨のみが大きくなって下顎骨となり、顎関節は歯骨と燐骨(側頭骨鱗部に相当する骨)の間に新生されたものである。そして関節骨と方骨はツチ骨、キヌタ骨になっている。多くの哺乳動物では下顎骨は生体でも対をなした状態にとどまっている。Mandibulaはmandere(噛む)という動詞に由来し、語尾のbulaは「道具」を意味する接尾辞である。下顎骨にはすべての咀嚼筋が付。)
- 064_01【Temporalis muscle; Temporal muscle側頭筋 Musculus temporalis】 o:Inferior temporal line, infratemporal crest, temporal fascia [temporal fossa], i: Its fibers converge at the coronoid process and continue inferiorly to the level of the occlusal plane and near the pterygomandibular raphe. It raises and retracts the mandible, and fixes the pharynx during swallowing. I: Mandibular nerve.
→(側頭筋は扇状になって側頭窩および側頭筋膜から起始する。筋線維は収斂して、頑丈な腱をもって下顎骨筋突起に付着する。付着腱は上方へ伸びて筋肉内にまで達する。側頭筋は頬骨弓下を通過して、その付着部に達する。その筋線維がかなりの長さであるので、筋はかなりの収縮可能性を有するし、かつ純粋な“咬むための筋”である。歯をかみ合わせると、側頭筋の収縮を耳介の上方で触れることができる。側頭部をコメカミというのは、コメをカムときに動くからである。)
- 064_02【Masseter muscle咬筋 Musculus masseter】 The most prominent masticatory muscle. It acts to close the mouth and, together with the temporal and medial pterygoid muscles, determines the level of masticatory force. It consists of the following two parts.
→(咬筋は最も浅層にある咀嚼筋である。浅部と深部の2部からなり、浅部は強い腱で頬骨弓の前3分の2の下縁と内面から起こり後下方に向かい、深部は頬骨弓の後3分の2の下縁に垂直に下り向かい下顎枝および下顎角の外面に付く。作用は下顎骨を引き上げて歯をかみ合わせる。咬筋は強大な筋で、歯をかみ合わせると、体表からみることができ、かつ触れることができる。)
- 064_03【Buccinator muscle頬筋 Musculus buccinator】 Muscle arising from the pterygomandibular raphe and adjacent areas of the maxilla and mandible to the height of the first molar teeth, and inserting into the orbicularis oris at the angle of the mouth. It forms the cheek, moves food from the oral vestibule between the dental arcades during mastication, prevents entrapment of the mucous membrane of the mouth, and is active during laughing and crying. I: Facial nerve.
→(頬筋は頬の筋性土台に該当し、口角部で口輪筋に付着する。頬筋は弓状に上顎骨歯槽突起の臼歯部、かつ下顎骨歯槽突起から起こる。上および下顎間は腱性の翼突下顎放線によって橋渡しされ、この放線もまた頬筋の起始である。上咽頭収縮筋の一部がこの放線の後部で起始する。口角付近で、線維索が交叉するので、頬の上方に位置する部分は下唇に広範囲わたって達することもあるし、達しないこともある頬筋は上顎の第2大臼歯のレベルで耳下腺管によって貫通され、しかも本筋は脂肪体からこれを隔てる浅筋膜(頬咽頭筋膜)を有する唯一の顔面筋である。頬筋は上・下歯列弓および頬粘膜間に入り込んだ植物片を再度歯列弓間に押し戻し、咀嚼および植物片のかたちづくりに重要な役割を果たしている。本筋は口腔前庭を圧縮して、空気あるいは液体を口裂を通してふき出す(泡をふき出す、口笛をふく、吐き出す:“トランペット吹きの筋”)。両側の頬筋の収縮はは口角の外側部をくぼませる。参考:この筋は頬粘膜に密に結合しているが、皮膚との間は脂肪組織で隔てられている。上顎第2大臼歯の高さで耳下腺管に貫かれる。)
- 064_04【Mandibular origin of orbicuaris oris muscle; Incisivus labii inferioris muscle下顎起始(口輪筋の);下唇切歯筋 Origo mandibularis (Musculus orbicularis oris); Musculus incisivus labii inferioris】
→()
- 064_05【Platysma muscle広頚筋 Platysma】 Cutaneous muscle that extends (with anatomical variations) from above the mandible to the thorax. I: Facial nerve,
→(広頚筋は前頚部にある薄い膜状の皮筋で、第2咽頭弓(舌骨弓)に発生した筋原基に由来し、しかも頚部にとどまった浅顔面筋である。他の全ての浅顔面筋は頭部に完全に移り表情筋をつくる。広頚筋は極めて薄い筋性の板で、皮膚の直下にある。下顎骨縁から第2(3)肋骨の高さに広がり、さらに遠く肩峰に達する。広頚筋は頚筋膜浅葉の上に広がっていて、ここを走る外頚静脈の上を通る。上方で、筋束は下顎骨と顔面皮膚に付着する。無数の筋線維が表情筋の線維索と交錯している。下方で、広頚筋はさまざまな長さの線維束となって皮下組織に放散し、一部は真皮結合組織内に終わる。左右の筋の内側部のさまざまな長さの線維束となって皮下組織に放散し、一部は真皮結合組織内に終わる。左右の筋の内側部の線維は通常オトガイ下で互いに交錯するが、下方に向かうにつれて、互いに離れ、前頚部の三角形をした正中面は広頚筋に被われずに残る。参考:頚筋中唯一の皮筋で表情筋と同系である。皮膚とは固く、頚筋膜浅葉とはゆるくつく。顔面部は下唇下制筋とつづく。)
- 064_06【Depressor anguli oris muscle口角下制筋;オトガイ三角筋 Musculus depressor anguli oris; Musculus triangularis】 Muscle that passes from the anterior and lateral margins of the mandible to the angle of mouth. I: Facial nerve.
→(口角下制筋は下顎骨下縁から口角まで収斂しながら走る。表層に位置する口角下制筋は口角を下方へ引き、かつ鼻唇溝の上部を伸展させる。)
- 064_07【Depressor labii inferioris muscle下唇下制筋;下唇方形筋 Musculus depressor labii inferioris; Musculus quadratus labii mandibularis】 Muscle that lies deep to the depressor anguli oris and passes from the platysma superiorly and medially to the lower lip. I: Facial nerve.
→(下唇下制筋は広頸筋から斜めに下唇へ向かって、下外側から上内側へ放射する。下唇下制筋は口角下制筋によって被われ、下唇を下方および側方へ引く(不快の表情)。起始と走行:下顎骨の前面でオトガイ孔の下付近から起こり、その外側部は口角下制筋に被われる。斜めに内上方にはしる。参考:筋束の一部は広頸筋から移行し、また神経支配も共通である。そのため口角を外下方に引くとき、広頸筋も同時に収縮する。)
- 064_08【Mentalis muscleオトガイ筋 Musculus mentalis】 Muscle that radiates from the mandible at the height of the roots of the incisor teeth into the skin of the chin (chin cleft). I: Facial nerve.
→(オトガイ筋は口角下制筋下にあり、下顎骨の側切歯の部分で起始する。オトガイ筋はオトガイ皮膚にむかって斜内側下方へ走り、オトガイのクボミをつくり、しかも下唇を口輪筋と一緒に前方へ突出させることに関与する(子供の口をとがらす状況)。参考:旧名は頤筋。収縮するとオトガイ部に小さい凸凹ができる。)