713
- 713_01【Cystic duct胆嚢管 Ductus cysticus】 Duct that drains the gallbladder. It joins the common hepatic duct to form the bile duct.
→(胆嚢管は直径が3mmほどの細い管で弓状をなして走り、長さは3~4cmある。その起始には粘膜面にラセンヒダがあるが、総胆管に近い部分では内面は比較的平坦である。胆嚢管は基本的には胆嚢と同じ組織構成を有し、胆嚢管に連なる。胆嚢管の粘膜にはハイステルのラセン襞が形成されて一種のバルブの働きと管の内圧が変化しても胆嚢管の変形を防ぐ働きをしている。)
- 713_02【Liver肝臓 Hepar】 Organ located in the upper right side of the abdomen in the hypochondrium. Its inferior border runs from the upper left to the lower right through the epigastric region. In healthy subjects its border does not reach below the costal margin. It moves with respiration and is thus palpable.
→(肝臓は身体内の最大の腺であり多様な機能を営むが、それを①胆汁の生産と分泌(腸管内へ)を行う、②炭水化物、脂肪、蛋白の代謝活動、③胃腸管から血液中に進入した最近や異物を細くする、とう3点に要約することができる。(1)位置と形状:肝臓は右上腹部ある巨大な消化腺で、重さは男で1,400g、女で1,200gほどある。色は暗赤褐色で、これは充満する血液によるものである。肝臓の表面が平滑で光沢に富むのは腹膜(の臓側葉)におおわれているからである。肝臓の上面は横隔膜の下面に接して丸く膨らみ、横隔面と呼ばれる。横隔膜上の心臓に対応して、浅い心圧痕をみる。からだの正中にほぼ相当して、横隔面を大きい右半と小さい左半に二分する肝鎌状間膜が走る。これは肝臓の表面を被う腹膜が左右から翻転しながら寄り合い、その間に線維性の結合組織をいれるもので、肝臓を横隔膜から吊り下げる役をしている。このようにして横隔膜と肝臓は平滑な腹膜で自由に滑り動くようになっているが、後部のせまい領域では、両者が線維性結合組織によって密着して活動性に欠ける。肝臓表面のこの領域を無漿膜野(裸の領域Area nuda--腹膜に包まれていない--の意)という。無漿膜野は前方へ細く張り出して肝鎌状間膜につづき、左右へ細く伸びて左三角間膜と右三角間膜になる。左三角間膜の端は、肝臓の左上端を横隔膜につなぐ索をなして線維付属(Appendix fibrosa hepatis)とよばれる。肝臓の上面と下面の境界は前方でうすくするどい縁をなし、下縁(または前縁)とよばれる。上腹部を斜め右下方へ走る一線をなし、触診することができる。これと右肋骨弓の交点に胆嚢の底が腹壁直下に頭を出している。下縁の正中部には肝円索切痕とよぶ切れこみがあって、肝鎌状間膜をはさんでいる。肝臓の下面は上腹部の内臓に面するので、臓側面とよばれる。ここには矢状方向に走る2条のくぼみと、それを横に結ぶくぼみがHの字をなしている。Hの左縦線は前方の半分が肝円索をいえる肝円索裂、後方の半分が静脈管索をいれる静脈管索裂である。Hの右の縦線には前方に、胆嚢の上面をおさめる胆嚢窩があり、後方に大静脈をおさめる大静脈溝がある。H字の横線に当たる溝は肝門で、門脈、固有肝動脈、肝管のほか多数のリンパ管と若干の神経が通っている。肝鎌状間膜、肝円索裂、静脈管索裂によって、肝臓は大きい右葉と小さい左葉に分けられる。肝臓の臓側面では、右葉(広義)が胆嚢窩、大静脈溝、肝門によって狭義の右葉、中央前方の方形葉、中央後方の尾状葉に分けられる。尾状葉は全科法へ乳頭突起を出し、前右方へ、肝門の後縁に沿って尾状突起を出す。乳頭突起に対峙して左葉から小綱隆起が張り出し、両者の間に小綱をはさむ。(2)肝臓の構築:肝臓の表面は大部分腹膜をかぶり、その下に線維性の結合組織がある。この結合組織は大血管とともに肝臓内に侵入し、血管周囲線維鞘をつくる。ギリソン鞘(Glisson's sheath)ともよばれる。肝臓の実質は径1mm前後の短六(ないし五)角柱の肝小葉を構造単位として成り立っているが、肝門からはいる肝固有動脈と門脈の枝はグリソン鞘を伴って、この肝小葉の稜線(三つの肝小葉の合するところ)に沿って走るこの動静脈を小葉間動・静脈とよぶ。肝小葉の角柱の中心を貫いて中心静脈という太い毛細血管が走り、その周囲に肝細胞の板が放射状に配列する。肝細胞板(hepatic cell plates)は分岐し、吻合し、あなをもち、すきまに洞様毛細血管(sinusoidal capillaries)をいれている。小葉間動静脈の枝は小葉の洞様毛細血管に注ぎ、中心静脈から、小葉下静脈(Vena sublobularis)とよばれる小静脈を経て下大静脈へと流れていく。肝細胞板の中に、肝細胞のあいだを縫って走る細管系が毛細胆管(bile capillary)であって、肝細胞の産生する胆汁を運ぶものである。毛細胆管は肝小葉のへりで小葉間胆管とよばれる小導管に注ぎ、グリソン鞘の中を合流しつつ肝門へ向かう。(3)肝臓と血管:肝臓は門脈の番人というべき器官である。すなわち消化管から送られてくる血液中に余分の糖分があればグリコゲンとして貯え、有害物質があれば分解、解毒する。脾臓から送られる破壊血液のヘモグロビンをビリルビンに変えて胆汁中に排泄する。門間区によって運ばれてくる膵臓のホルモンは、肝細胞でのグリコゲンの産生とブドウ糖への分解を調節する。しかし、門脈血は酸素に乏しい静脈血であるから、肝臓は動脈血を固有動脈にあおがねばならない。胎生期においては、臍から前腹壁を上行して肝臓の下面に達する臍静脈(Vena umbilicalis)が、肝門で門脈と合して、そのまま肝臓の下面を後方へ走り、下大静脈に注ぐ。細静脈と下大静脈のこの短絡路を静脈管またはアランチウス(Arantius)の管と称する。生後、胎生期の循環路は閉鎖し、結合組織索として残る。臍静脈の遺残が肝円索、静脈管の遺残が静脈管索である。 (解剖学事典 朝倉書店より引用) 肝臓の生理 肝臓は重要な機能を営む器官であり、肝臓を楔状すると12時間前後で低血糖で死亡するといわれている(動物実験では70%の肝切除でも数週で機能が正常になるといわれている)。)
- 713_03【Right lobe of liver右葉(肝臓の) Lobus hepatis dexter; Lobus dexter (Hepar)】 Traditionally the part of the liver to the right of the attachment of the falciform ligament on the diaphragm.
→(肝臓の右葉は厚く大きく肝臓の約4/5を占める。左葉との境は下大静脈と胆嚢底をむすぶ線に一致する。)
- 713_04【Gallbladder胆嚢;タンノウ Vesica biliaris; Vesica fellea】 Pear-shaped organ measuring 8-12 cm in length.
→(胆嚢はナスビの形のふくろ(長さ約9cm、太さ約4cm)で、胆汁を貯える。肝臓の下面の下面にあって、胆嚢窩に浅くはまりこんでいるので、肝臓の下面の被膜と共通の結合組織でおおわれ、下面と底は腹膜におおわれる。胆嚢の底はふくろの底の部分、体はふくらみの部分、頚は細くなった部分である。底が前方に向き、肝臓の下縁から少し前に突出している。頚がうしろ向き、胆嚢管につながる。胆嚢の内面には網状のひだが突出し、丈の高い単層円柱上皮でおおわれる。上皮細胞は粘液分泌を行う。よく発達した筋層がある。胆嚢管は長さ約3cmのやや迂曲する管で、内腔にらせん状に突出するひだがあり、らせんひだとよばれる。胆管と合流して総胆管となる。肝管を流れてくる胆汁は、通常、胆嚢管にはいって胆嚢に貯えられ、必要に応じて胆嚢管から総胆管を経て必要に応じて胆嚢管から総胆管を経て十二指腸に放出される。とくに食事が十二指腸に達すると、十二指腸壁から血中にコエシストキニンが放出され、このホルモンの左葉で胆嚢が収縮し、胆汁が排出される。)
- 713_05【Superior part of duodenum上部(十二指腸の) Pars superior (Duodenum)】 Horizontal initial segment.
→(十二指腸の上部は幽門につづく長さ約5cmの部で、第1腰椎の右側で幽門から後上方に走る。上部のうちの後側半部(長さ2.5cmの始部)は意図同様に前面と後面とが腹膜で被われる。前後両面の腹膜は、上方では小綱、下方では大網に連なる。このように始部は腹膜に包まれているので可動性である。内腔は十二指腸のうちで最も広く、粘膜には、他の部と異なって輪状ヒダを欠く。)
- 713_05a【Duodenum十二指腸 Duodenum; Intestinum duodenum】 The ca. 25-30 cm long segment of the small intestine between the pylorus and duodenojejunal flexure.
→(十二指腸は胃の幽門から十二指腸空腸曲まで約25cmの腸管。十二指腸Duodenumは12で、intestinum duodenum digitorumの意味。長さが指を12本横にならべた幅に等しいことによる。第1腰椎の椎体右縁の前方ではじまり、C字状に屈曲して膵臓の頭を取り囲む。腸間膜を欠き、後腹膜臓器の一つであり、胆管、膵管が開口するなど他の小腸とは異なる。十二指腸には4部が区別される。上部は幽門につづく5cmの長さの部で、上背外側へはしる。最初の2.5cmは可動性。上縁には小綱が付着する。上十二指腸曲において、ほぼ下方へ屈曲し、下行部(約8cm)へ移行する。その半ばで後内側壁に一条の十二指腸ヒダがり、その下端に大十二指腸乳頭が隆起し、ここに総胆管と膵管が共通に開口する。その上方2~3cmの部に小十二指腸乳頭があることが多く、副膵管の開口をみる。下行部は下十二指腸曲で左方へ屈曲し、水平部(下部、約8cm)へ移行し、第3腰椎体左縁に達し、左上方へ屈曲し、上行部へつづく。この部は約5cm走行したのち、第2腰椎の左方で急に前方に曲がり空腸へ移行する。この部を十二指腸空腸曲という。この曲がりは、横隔膜直下の後大動脈壁から下降する十二指腸提筋で固定されている。十二指腸の前半、ほぼ大小十二指腸乳頭までには、よく発達した十二指腸腺がある。複合管状胞状腺で、分泌物は粘液性でアルカリ性を示すことから胃酸から粘膜を保護するのではないかといわれる。)
Santorini's duct
- 713_06Santorini's duct【Accessory pancreatic duct副膵管;小膵管 Ductus pancreaticus accessorius; Ductus pancreaticus minor】 Additional duct that is usually present and drains into the minor duodenal papilla above the major duodenal papilla.
→(サントリーニの管とも呼ばれる。膵臓の導管で主膵管に対して副膵管とよばれる。多くの場合存在する付加的な導管で、大十二指腸乳頭の上方にある小十二指腸乳頭に開く。退化的であることが多く、また十二指腸に開口しないこともある。イタリアの解剖学者Giovanni Domenico Santorini (1681-1737)によって報告された。これに対して主膵管をウィルスング管Wirsung's ductという。)
- 713_07【Bile duct; Common bile duct総胆管;胆管 Ductus choledochus; Ductus biliaris】 Duct draining the gallbladder that is formed by the union of the common hepatic and cystic ducts and passes to the major duodenal papilla.
→(総胆管は肝管と胆嚢管の合流点から十二指腸下行部の内側面に下行する6~8cmの管で、肝十二指腸間膜の中を、肝固有動脈、門脈と伴行する。十二指腸に終わる手前で膵頭を貫き、膵管と合流する。膵頭癌に際して総胆管が圧迫されて黄疸を起こすことは、この局所解剖学的関係による。総胆管は膵管と合流するところ、あるいはその直後に胆膵管膨大部をつくったのち、大十二指腸乳頭において十二指腸に開口する。総胆管の内面は単層円柱上皮で覆われ、固有層には小さい胆管粘液腺がある。筋層はおよそ内輪外斜の走行を示すが、とくに総胆管の下部では輪走筋が発達して、総胆管括約筋とよばれる。また胆膵管膨大部には(胆嚢管)膨大部括約筋が発達している。オッディーの括約筋の名で親しまれるこの筋は、消化管ホルモンや神経の作用を受けながら、胆汁と膵液の放出の肝門をなしている。)
- 713_08【Descending part of duodenum下行部(十二指腸の) Pars descendens (Duodenum)】 Lateral, vertically descending segment.
→(十二指腸の下行部は上部は下方に屈曲して(上十二指腸曲)、下行部になる。下行部は長さ約8cm、第2・3腰椎の右側で右腎臓腎門の前を垂直に下行する。下行部の後内側壁には、膵管と総胆管が開口している。この開口部は、下行部のほぼ中央(幽門から約8cmのところ)で、やや隆起し、大十二指腸乳頭(ファーテル乳頭)をつくる。開口部はオッディの括約筋と呼ぶ平滑筋で輪状に囲まれる。大十二指腸乳頭の約2cm上方に、小十二指腸乳頭が見られ、ここに副膵管が開口することもある。大十二指腸乳頭の付近で、十二指腸は膵臓に向かって嚢状に内腔が膨出することがある。十二指腸憩室という。消化管で、しばしばみられる憩室である。)
Wirsung, Duct of
- 713_09Wirsung, Duct of【Pancreatic duct膵管;主膵管;大膵管 Ductus pancreaticus; Ductus pancreaticus major】 Main duct draining the pancreas that empties into the major duodenal papilla together with the bile duct.
→(ウィルスングの管とも呼ばれる。副膵管(サントリーニ管)に対して主膵管ということもある。膵臓の主導管で、膵尾から膵島まで貫通し、大十二指腸乳頭で十二指腸に開口している。膵臓は発生学的には二つの原基から生じる。すなわち十二指腸から前の方に延び出す腹側膵臓ventral pancreasと、後に延び出す背側膵臓dorsal pancreasとである。腹側膵臓の導管がウィルスングの管で、背側膵臓の導管がサントリーニ管は途中でウィルスングの管に吻合する形で合流し、大十二指腸乳頭に開く。これが(主)膵管である。サントリーニの管の残部は細くなって退化し、副膵管となって小十二指腸乳頭に開く。腹側膵臓のところからは、更に前方に肝臓の原基が延び出すので、その導管である総胆管は必ず膵管と関係をもち、副膵管と関連することは絶対にない。膵管の発見者といわれるウィルスングは、17世紀中葉にイタリアのバドバ大学の解剖学教授として活躍したドイツ人である。膵管についての記載と図は、当時解剖学の権威として名声の高かったパリのリオランJ. Riolan (1577~1657)への手紙に書かれたもので、彼の著作の中には見えないと言うことである。そのためもあろうが、彼は後年(1643)、この膵管の発見の優先権を他の学者と争って決闘し、そのために殺されてしまったという。Ductus pancreatiucusはまことに悲壮なエピソードを秘めているのである。副膵管に名を留めているサントリーニGiovanni Domenico Santorini (1681-1737)は、かのマルピーギM. Malpighi (1962-1694)の弟子であった。ウィルスングの膵管と合流する総胆管ductus choledochusの語源にも年のために触れておこう。ギリシャ語でcholeは胆汁、dochosは容れものという意味である。古代ギリシャの医学では、体液の性状が健康を保ったり、からだや心の病気を引き起こすという、体液説が基本的な考えであった。「胆汁質」choleicという言葉が怒りっぽくて扱いにくい性格を表現する英語として今でも使われ、メランコリーmelancholy、つまり胆汁が濃くなっているという意味の言葉が今日に生きている。これは血液や粘膜と共に胆汁が人間の健康や性格や心理を決定する重要な体液と考えられた名残りである。ドイツの解剖学者Johann Georg Wirsung (1600?-1643)により、1642年に記載された。
膵臓外分泌部(消化腺)の導管。膵体~膵尾にある小導管を集め、十二指腸に分泌する。膵管には、大十二指腸乳頭(ファーター乳頭Vater's papilla)に開く主膵管(ウィルスング管Wirsung's duct)と、小十二指腸乳頭に開く副膵管(サントリーに管Santorini's duct)とがあり、膵臓内部で連絡をもつ。なお、副膵管退化して認められない例もある。(イラスト解剖学))
- 713_10【Common hepatic duct; Hepatic duct総肝管;肝管 Ductus hepaticus communis; Ductus hepaticus】 Part of the bile duct between the junction of the right and left hepatic ducts and the cystic duct.
→(総肝管は肝門から右肝管と左肝管が出て、肝門の直下で合流して総肝管となる。総肝管は太さ約4mm、長さ3.5~5cmの管で、肝十二指腸間膜の中を右下方へ走り、胆嚢からくる胆嚢管と鋭角に合流する総胆管となる。)
- 713_11【Hepatic portal vein; Portal vein門脈;門静脈;肝門脈 Vena portae hepatis】 It conveys blood from the alimentary system to the liver. It forms important anastomoses with the esophageal veins, rectal venous plexus, and superficial veins of the abdominal skin.
→(門脈は胃腸、膵臓、脾臓の血液を肝臓に送る静脈で、肝門を通るのでその名がある。門脈の本幹は膵頭の後面で上腸間膜静脈と脾静脈の合流によってはじまり、6~8cmの長さ、1cmほどの太さの静脈として右上方へ走り、門脈の下で右枝と左枝に分かれ、肝臓の右葉と左葉に分布する。右枝はさらに前枝と後枝に分かれ、右葉の前部と後部に分布する。左枝は横走部と臍部に分けられ、前者は横走して左葉にはいる一方、尾状葉枝を出して尾状葉や方形葉に分布する。臍部は中央の部分で、後方に向かって静脈管索へ細い外側枝を送り、また前方へは肝円索(臍静脈の名ごり)の中へ内側枝を送っている。肝臓の中へはいった門脈の枝は、グリソン鞘(Glisson's sheath)とよばれる結合組織をまとい、固有肝動脈の枝と伴行しながら、分枝をくりかえし、小葉間静脈となる。ここから肝小葉内の洞様毛細血管に注ぎ、さらに中心静脈、小葉下静脈をへて、門静脈にはいり、下大静脈から心臓へと血流は流れることになる。門脈の特徴は、胃腸膵脾の各臓器の毛細血管から発し、肝臓の中でもう一度毛細血管になることである。つまり、二つの毛細血管床の間を連絡することである。門脈の働きは、第一胃腸から吸収された物質を肝臓に送り、余分の栄養の貯蔵や、有害な物質の解毒などを行わせること、第二に胃腸膵内分泌系のホルモンを肝臓に送り(インスリン、グルカゴン、セクレチンをはじめ、直接に肝臓に作用するものもある)、さらに全身にめぐらせることである。なお脾臓において赤血球の分解の際、ヘモグロビンから生じたビリルビンは、門脈によって肝臓に送られ、肝細胞の力で腸へ排出される。門脈の根は次の通りである。胆嚢静脈、臍傍静脈、左胃静脈、右胃静脈、幽門前静脈(この三者が胃冠状静脈をつくる)、短胃静脈、左胃大網静脈、右胃大網静脈、脾静脈、膵静脈、膵十二指腸静脈、上腸間膜静脈、下腸間膜静脈、中結腸静脈、左結腸静脈、右結腸静脈、回結腸静脈、虫垂静脈、空回腸静脈、S状結腸静脈、上直腸静脈。門脈の根は次の3カ所で体循環の静脈と連絡している。①胃の噴門部の静脈網は食道下部のそれと連絡し、食道静脈を経て奇静脈に通じる。②直腸の静脈網は中および下直腸静脈をへて内腸骨静脈に通じる。③臍傍静脈は肝円索に沿って、へそから門脈左枝に至る2,3本の細い静脈であるが、へそ周辺で上、下および浅腹壁静脈と連絡があり、内胸静脈や大腿静脈に通じている。肝臓の病変などで門脈血の通りが悪くなる(門脈圧昂進)と、門脈血ははけ口をこれら三つの連絡に求めて、少しでも体循環へもどろどろとするので、ふだんは目立たないこれらの静脈の吻合が、大きく膨隆してくる。 歴史的には肝門から肝臓に入る静脈をさすが、現在の定義では「毛細血管と毛細血管の間にはさまれる静脈」をいう。ふつう、血液は動脈→毛細血管→静脈の順に流れるが、この後に再び毛細血管を通るような血管系を門脈系という。[→門脈系について 参照] (199)ふつう消化管などからの血液を肝臓に送る静脈(肝門脈)をさす。脾静脈と上腸間膜の静脈の合流によって形成され、肝臓に注ぐ血液の80%を占める。なお、定義からいうと下垂体にも門脈がある。[→血管の構造としくみ 参照] 脾静脈・上腸間膜静脈が膵臓のうしろで合してできる静脈。下腸間膜静脈は脾静脈にそそぐことが多く、ふつうは脾静脈と上腸間膜静脈の合流部より肝臓側を門脈あるいは門脈幹portal trunkという。門脈は、小綱lesser omentum内を肝動脈や総胆管とともに走り、肝門付近で右枝と左枝に分かれ、肝臓内に入る。(イラスト解剖学))
- 713_12【Hepatic artery proper; Proper hepatic artery固有肝動脈;肝動脈 Arteria hepatica propria; Arteria hepatica】 It ascends in the hepatoduodenal ligament and divides at the porta hepatis into two branches.
→(固有肝動脈は総肝動脈より起こり、左右の肝動脈に分枝する。)
pl. pancreata
- 713_13pl. pancreata【Pancreas膵臓 Pancreas】 Organ measuring 13-15 cm in length, lying partly in the duodenal loop and partly behind the omental bursa at the level of L1-L2.
→(膵臓は上腹部および左下肋部で、第1および第2腰椎の高さに位置する。成人では長さ14~18cm、重さ65~100gの細長い三角稜柱形をなし、十二指腸のC字形弯曲部に囲まれた頭部、頭部を貫いて総胆管と膵管が走るので、臨床医学的に重要である。腺は外分泌部から腸に注がれる膵液、内分泌部からインスリンとグルカゴンを分泌する。頭部の下方左側より上腸間膜動静脈の後方へ伸びる鈎状突起、左方へ徐々に細くなりながら下大静脈および腹大動脈の上をおおい脾臓の方へ伸びる体部、膵臓と接する尾部に区別される。Pancreasのpanは全、creasは肉を意味するギリシャ語。全体が肉様である意。この臓器は漢方医学で知られていなかったので、蘭学導入後、肉を萃(あつ)めるの意から膵の字が作られた。宇田川玄真が医範提綱(1805)ではじめてこの国字を公表。 膵臓は膵液を分泌する外分泌腺であると同時に、ホルモンを産生する内分泌器官としても働く(ランゲルハンス島)。膵液には食物の三大要素(タンパク質・デンプン・脂肪)を分解する酵素が含まれており、膵臓のホルモン(インスリン・グルカゴン)には糖代謝を調節する作用がある。 膵臓を分泌する松果腺。長さ約15cmの細長い臓器で、第1~2腰椎の高さで後腹壁に接して位置し、前面のみ腹膜におおわれる(腹膜後器官retroperitoneal organs)。十二指腸に囲まれる膵頭、第2腰椎の前面に位置する錐体、脾臓に接する膵尾に区分される。なお、消化腺(外分泌腺)の機能のほか、膵臓には内分泌部(ランゲルハンス島)もある。動脈分布:上膵十二指腸動脈(腹腔動脈の末梢枝)・下膵十二指腸動脈(←上腸間膜動脈)。(イラスト解剖学))
- 713_14【Splenic artery脾動脈 Arteria splenica; Arteria lienalis】 Third branch of the celiac trunk. It runs along the superior border of the pancreas and then through the splenorenal ligament to the spleen.
→(脾動脈は膵上縁を左走して脾臓に達し、多数の脾枝になっておわる。経過中に多くの脾枝を分岐する。それらのうち大きな枝は、膵頭・膵体移行部後面を下行する後膵動脈、膵体中央部に分布する大膵動脈および膵尾動脈である。以上の動脈は膵下縁で横走吻合鎖をなし、下垂動脈を形成する。脾枝分岐付近では上下に側枝がおこる。上枝は数本をもって胃体部大弯側に至る短胃動脈である。下枝、すなわち左胃大網動脈は大弯に沿って大網内を右方へ走り、途中で大網枝を分岐したのち右胃大網動脈と吻合を営む。)
- 713_15【Splenic vein脾静脈 Vena splenica; Vena lienalis】 Vein running in the phrenicosplenic ligament and then behind the pancreas. It unites with the superior mesenteric vein to form the hepatic portal vein.
→(脾臓の血液を排出する静脈。赤脾髄内の脾洞に集められた血液は脾静脈を通って脾臓を出たのち、上腸間膜静脈と合して門脈を形成、肝臓へと向かう。このように、脾臓は門脈によって肝臓と連絡しており、脾臓で処理した赤血球の血色素は肝臓へ送られる。また、この連絡のため、脾臓は肝障害の影響を受けやすく。門脈圧亢進症などの際に腫大を起こすことがある(脾腫splenomegaly)。また、食後すぐに運動すると左脇腹が痛むことがある。消化機能が高まることで門脈血流が増加し、脾臓にも血液が貯留するために被膜が引っ張られて起こると言われる。(イラスト解剖学))
- 713_16【Tail of pancreas膵尾 Cauda pancreatis】 Upper left part of the pancreas that is in contact with the spleen.
→(膵尾は脾臓に接し、左側上方にある尾部。)
- 713_17【Body of pancreas膵体 Corpus pancreatis】 Part of the pancreas situated mainly anterior to the vertebral column. It arises from the dorsal pancreatic anlage.
→(膵体は主として脊柱の前方にある部分。背側原基に由来する。)
- 713_18【Duodenojejunal flexure十二指腸空腸曲 Flexura duodenojejunalis】 Flexure between the duodenum and jejunum.
→(十二指腸と空腸の間の弯曲。(Feneis))
- 713_19【Superior mesenteric artery上腸間膜動脈 Arteria mesenterica superior】 Second unpaired aortic branch. It arises about 1 cm below the celiac trunk at the level of the first lumbar vertebra. It initially runs behind the pancreas, then on the uncinate process and gives off branches to the mesentery and mesocolon. It supplies the head of pancreas, the small intestine as far as the superior part of duodenum, and the colon up to the splenic flexure.
→(上腸間膜動脈は腹腔動脈の約1~2cm下方(第1腰椎の高さ)で、腹大動脈の前側から起こる。動脈ははじめ膵臓の後ろを走り、膵臓の頭の左側に沿って前方に出て、十二指腸水平部の前面を下行し、小腸間膜のなかに入る。小腸間膜内で、左方にやや凸のカーブを描いて右腸骨窩に向かって下行し、下膵十二指腸動脈、空腸動脈、腸骨動脈、回結腸動脈、虫垂動脈、右結腸動脈、中結腸動脈に分布する。上膵十二指腸動脈、左結腸動脈と吻合する。)
- 713_20【Superior mesenteric vein上腸間膜静脈 Vena mesenterica superior】 It drains the area from about the inferior half of the duodenum to the splenic flexure. It unites with the splenic vein to form the hepatic portal vein.
→(分布域は十二指腸遠位側の半分から左結腸曲に拡がる。脾静脈と一緒になって門脈をつくる。 (Feneis))
Winslow's pancreas
- 713_21Winslow's pancreas【Uncinate process of pancreas鈎状突起(膵臓の) Processus uncinatus pancreatis】 Hooked process that projects behind the mesenteric vessels.
→(膵臓の鈎状突起は腸間膜動脈の後ろに鈎状にのびた部分。)
- 713_22【Inferior part of duodenum; Horizontal part of duodenum; Transverse part of duodenum水平部;横行部;下部(十二指腸の) Pars horizontalis duodeni; Pars inferior duodeni】 Horizontal segment below the head of pancreas.
→(十二指腸の水平部は長さ約8cmで、膵頭の下縁(第3頚椎の高さ)に沿って右大腰筋・下大静脈・左大腰筋の前を水平に走る。水平部の前面を上腸間動脈が下行する。)