530
- 530_00【Heart心臓 Cor】
→(心臓は血液循環の原動力となる器官で静脈から血液を受け取り、動脈に送り出す中空の筋肉の器官。その壁は主として心筋組織でできている。心臓は心膜に包まれて、縦隔の前下部で左右の肺の間に置かれ横隔膜の上面にのる。全形を円錐にみたてると、その軸は後上右方(心尖)へ向かう。心臓の約3分2が正中線の左方、3文の1が右方にある。心尖(左心室の尖端)の拍動は第5肋間隙で左乳頭線のやや内側に触れる。心臓の内部は4部屋に分かれ(右と左の心房・心室)、心房中隔および心室中隔が左右を隔てる。各側の心房と心室は房室口を介して連なる。外面では、冠状溝が心房と心室の境をかこみ、前・後の室間孔は両親質の境をあらわす。これらの溝を冠状血管の主枝が走る。左右の心事は各心房の一部が前方に突出したもので、動脈管のねもとを両側から抱く形である。心耳の壁はうすく内面に櫛状筋が発達している。左心耳は右心耳に比べて格段に小さい。右心房には上大静脈・下大静脈そして冠状静脈洞が開く。前二者が開口する部域はもと静脈洞の右角に由来し内面が平滑である(大静脈洞)。この部域と右心耳との境目に分界稜が隆まる。これに体操して外側には分界溝があらわれる。心房中隔の右側面には卵円窩が卵円孔の閉じた跡を示す。左側面では前方よりに中隔鎌とよぶヒダ(卵円孔弁のなごり)がみえる。左心房は心臓の最背側に位置を占め、左右から各2本の肺静脈が ここに注ぐ。[心臓の弁]左・右心室の出入口それぞれ弁装置をそなえ、そのしくみにより血液が逆流するのをふせいでいる。右房室口には3枚の帆状弁があり三尖弁(右房室弁)、左房室口2枚あり僧帽弁(左房室弁)とよぶ。そして各心室の内面に乳頭筋という指状の高まり(右室では3群、左室では2群)があって、それが弁膜の縁と複数の腱索で結ばれている。心室が収縮するとき帆状弁は翻転することなく互いに接しあい房室口を閉じる仕組みである。心室の出口側は、肺動脈口(右心室より肺循環へ)および大動脈口(左心室より体循環へ)にそれぞれ3個のポケット形の半月弁がある。各弁膜の自由縁は中央が肥厚し(半月弁結節)、この両脇が薄くできている(半月)。3個のポケットが接し合うことによって動脈口は閉じる。このしくみは乳頭筋とは関係がない。心室中隔は大部分が筋性であるが、ただ一部(大動脈口の直下)に筋質を欠き薄くできた場所がある(膜性部)。これにつづき左心室と右心房とを隔てる膜性の構造があり、それを房室中隔とよぶ。左心室はビヤ樽形でその壁の厚さは右心室の側壁の約3倍。心室中隔は右室腔に向かってまるく凸面をなす。右心室の内腔はV字形であり、流入部と流出部とに分かれ、筋質の室上稜が両者を境する。右心室の流出部を動脈円錐ともよぶ。心臓は左側にあると思って思っている人が多いが、これは心尖拍動が左に触れられることから生じた誤解である。心臓は多少左にずれているとはいえ、縦隔の中部でほぼ正中に位置している。心臓の大きさは、生体では心室の収縮期systoleと拡張期diastoleで異なる。また心臓の位置も、呼吸運動に伴って横隔膜が上下するので、生体では絶えず移動しているわけである。深く息を吸い込むと、心臓は左右の肺に圧迫されるばかりでなく、横隔膜が下に下がるので、多少縦長になる。逆に息を深く吐いたときには、心臓はずんぐり形になる。心臓の大体の大きさとか位置や形は生体でも打診percussionによって知ることができ、その変化が色々な病気の診断の一つの手掛かりになる。)
- 530_00a【Anterior surface of heart; Sternocostal surface of heart胸肋面;前面(心臓の) Facies sternocostalis; Facies anterior】 Anteriorly directed convex surface of the heart.
→(心臓の胸肋面は前上面で、突隆し、大部分が右心室でできている。)
- 530_01【Brachiocephalic trunk腕頭動脈 Truncus brachiocephalicus】 It arises at the beginning of the aortic arch and divides behind the right sternoclavicular joint into the right subclavian artery and right common carotid artery.
→(大動脈弓から最初にでる動脈で、右胸鎖関節の後ろで鎖骨下動脈と右総頚動脈に分れる。しばしば最下甲状腺動脈を出す。)
- 530_02【Superior vena cava上大静脈 Vena cava superior; Vena cava cranialis】
→(上大静脈は上半身の血液を集める静脈で、上縦隔の中で左右の腕頭静脈が合してはじまり、途中で奇静脈を受け入れながら上行大動脈の右側を下行して右心房にそそぐ。)
- 530_03【Ascending aorta上行大動脈;大動脈上行部 Pars ascendens aortae; Aorta ascendens】 Ascending part of the aorta up to its exit from the pericardium.
→(左心室からおこり、肺動脈幹の後ろを上行して大動脈弓にいたる5cmほどの部。基部の内腔は膨らんで大動脈洞(バルサルバ洞)をなし、ここから左右の冠状動脈が出る。(イラスト解剖学))
- 530_04【Right auricle of atrium右心耳 Auricula atrii dextra; Auricula dextra cordis】 Outpouching of the right atrium.
→(右心耳は右心房の中空指状突出。心耳の壁はうすく内面に櫛状筋が発達している。)
- 530_05【Conus arteriosus; Infundibulum of right ventricle動脈円錐;漏斗(右心室の) Conus arteriosus; Infundibulum】 Funnelshaped smooth-walled outflow tract leading to the pulmonary trunk.
→(右心室の動脈円錐は肺動脈管へ開く前の、漏斗状で平滑な壁からなる流出路。発生学的には心球にあたる。)
- 530_06【Right atrium右心房 Atrium cordis dextrum; Atrium dextrum】
→(右心房は心臓の右上部を占め、その後上部と後下部とに、それぞれ、上大静脈と下大静脈が注いでいる。)
- 530_07【Coronary sulcus冠状溝 Sulcus coronarius】 Groove that runs around the heart, demarcating the borders between the atria and ventricles.
→(心房と心室の境には冠状溝とう溝があるが、冠状溝は冠状動脈と冠状静脈洞で埋められている。)
- 530_08【Acute border of heart; Acute margin of right ventricle鋭縁(心臓の) Margo acutus cordis】
→(")
- 530_09【Right ventricle右心室 Ventriculus dexter】
→(右心室は心臓の最下位部を占め、後上方にある右房室口で右心房と交通し、前上方にある肺動脈口で肺静脈に連なる。)
- 530_10【Notch of cardiac apex; Apical notch of heart心尖切痕 Incisura apicis cordis】 Indentation to the right of the apex where the two interventricular sulci become continuous with each other.
→(心尖切痕は室間溝の延長にある、心尖近く右側の切れ込み。)
- 530_11【Left subclavian artery左鎖骨下動脈 Arteria subclavia sinistra】
→(鎖骨下動脈は上肢の主幹動脈の根部をなし、右側は腕頭動脈から、左側は大動脈弓からそれぞれ分かれてはじまり、前斜角筋の後方を通って第1肋骨外側縁で腋窩動脈につづく。胸・頚・上肢移行部の動脈として、多彩な分枝と変異に富むことを特徴とする。分枝はつぎの通りである。椎骨動脈、内胸動脈、甲状頚動脈、肋頚動脈、下行肩甲動脈に分枝し、第一肋骨を越えたところで腋窩動脈となる。)
- 530_11a【Subclavian artery鎖骨下動脈 Arteria subclavia】 Artery that passes with the roots of brachial plexus between the anterior and middle scalene muscles through the scalene space, over the first rib in the groove for the subclavian artery. From the lateral border of the first rib, it continues as the axillary artery.
→(鎖骨下動脈は上肢の主幹動脈の根部をなし、右側は腕頭動脈から、左側は大動脈弓からそれぞれ分かれてはじまり、前斜角筋の後方を通って第1肋骨外側縁で腋窩動脈につづく。胸・頚・上肢移行部の動脈として、多彩な分枝と変異に富むことを特徴とする。分枝はつぎの通りである。椎骨動脈、内胸動脈、甲状頚動脈、肋頚動脈、下行肩甲動脈に分枝し、第一肋骨を越えたところで腋窩動脈となる。)
- 530_12【Left common carotid artery左総頚動脈 Arteria carotis communis sinistra】
→(総頚動脈は頭部に血液を送る血管の主幹。右は腕頭動脈の枝、左は大動脈弓の上行部より出る。そのため左総頚動脈は右のものよりも4~5cm長い。総頚動脈は枝を出さず、気管・喉頭の両側を上行し、甲状軟骨上縁の高さで音叉のような形をなし内・外頚動脈に分かれる。分岐部の後側には頚動脈小体が存在する。また分岐部のないし内頚動脈始部の壁はやや薄く膨隆しており(頚動脈洞)、舌咽神経の枝を介し血圧を感受するという。)
- 530_12a【Common carotid artery総頚動脈 Arteria carotis communis】 Artery of the neck without any branches. It runs on both sides of the trachea and larynx and passes deep to the sternocleidomastoid. It arises on the right from the brachiocephalic trunk and on the left from the aortic arch.
→(総頚動脈は頭部に血液を送る血管の主幹。右は腕頭動脈の枝、左は大動脈弓の上行部より出る。そのため左総頚動脈は右のものよりも4~5cm長い。総頚動脈は枝を出さず、気管・喉頭の両側を上行し、甲状軟骨上縁の高さで音叉のような形をなし内・外頚動脈に分かれる。分岐部の後側には頚動脈小体が存在する。また分岐部のないし内頚動脈始部の壁はやや薄く膨隆しており(頚動脈洞)、舌咽神経の枝を介し血圧を感受するという。)
- 530_13【Arch of aorta; Aortic arch大動脈弓 Arcus aortae】 It is located between the ascending and descending aorta. Its roof extends to the first rib at the left border of the sternum.
→(大動脈弓は上行大動脈につづく弯曲部であり(約5~6cm長)、肺動脈分岐部および左気管支をこえて左後方にまわり、第四胸椎体の左側で胸大動脈に移行する。)
Botallo's duct, ligamnet; Harvey's ligament
- 530_14Botallo's duct, ligamnet; Harvey's ligament【Ligamentum arteriosum動脈管索 Ligamentum arteriosum; Chorda ductus arteriosi】 Connection between the bifurcation of pulmonary trunk and the aortic arch that remains patent until birth. Pulmonary circulation is minimal in the fetus. The ductus arteriosus ca. remain patent after birth, but is usually replaced by fibrous tissue.
→(ボタロ管ともよばれる。肺動脈管分岐部と大動脈弓の間に出生後肺機能が始まると閉鎖し動脈管索となる短絡路。生後も閉じない場合を動脈管開存という。この場合には、肺動脈は動脈管で大動脈と連絡する。左第6鰓弓から形成され、生後は動脈管索となる。左第6鰓弓動脈が気管支肺芽に沿って肺原基に入る枝をわけた後の遠位部が、左背側大動脈に合流するまでの部分。動脈幹が上行大動脈と肺動脈管に分離した後も、この部は肺循環と体循環との間の短絡路として働き、肺呼吸のない胎児での循環路の特色の一つである。出生後、肺循環の開始に伴い、血流が減少し、ついには閉鎖して、のちに動脈管索を残す。イタリアの内科医Leonard botallo [Botallus] (1530- ?)によって詳細に報告された。彼はファロピウスのもとで医学を学び、シャルル9世(16世紀、仏)のイタリア人侍医となったというが、没年などは不明である。)
- 530_15【Pulmonary trunk; Pulmonary artery肺動脈幹;肺動脈 Truncus pulmonalis; Arteria pulmonarlis】 Arterial trunk that ascends in the pericardium. It divides into the right and left pulmonary arteries at the level of the reflection of the serous pericardium.
→(肺動脈幹は右心房と左右肺動脈の起始までの間で分岐前の肺動脈を明確にするために導入された。肺動脈幹は左の第3肋骨の胸骨付近の高さで右心部動脈円錐から起こる。長さは約5cmで心膜腔を通り、やや左側に向かい、頭背側で肺動脈幹のT字形の分岐となり、2本の肺動脈に分岐する。肺動脈幹の両側を2本の冠状動脈が走る。肺動脈幹の起始部は大動脈口の前左側に、中間部は上行大動脈の左側に、分岐部は大動脈弓の凹部に位置する。)
- 530_16【Left auricle of atrium左心耳 Auricula atrii sinistra; Auricula sinistra cordis】 Outpouching of the atrium to the left of the pulmonary trunk.
→(左心耳は肺動脈幹の左方に中空指状に突出した左心房の一部。左心耳は右心耳に比べて格段に小さい。)
- 530_17【Left atrium左心房 Atrium cordis sinistrum; Atrium sinistrum】
→(左心房は心臓の後上部にあって、後面をつくっている。左心房は右心房よりもやや小さいが、壁はやや厚い。左心房の後壁の上部に、左右両肺からそれぞれ2本ずつ、前部で4本の肺静脈が開口している。左心房は前下方で房室口によって左心室に通じる。)
- 530_18【Anterior interventricular sulcus前室間溝 Sulcus interventricularis anterior】 Longitudinal groove on the anterior surface of the heart overlying the interventricular septum. It transmits the anterior branch of the interventricular branch of the left coronary artery.
→(前室間溝は心室中隔にあたる前方の縦溝で、前室間枝(冠状動脈の)が走る。)
- 530_19【Left border; Obtuse border; Obtuse margin of left ventricle左縁;鈍縁;左心室縁(心臓の) Margo obtusus cordis】
→()
- 530_20【Left ventricle左心室 Ventriculus sinister】
→(左心室は心臓の左下部を占め、後上方にある左房室口で左心房と交通し、右上隅にある大動脈口によって大動脈につらなる。左心室の壁は右心室に比べ2~3倍厚い。心室中隔は、右心室に向かって膨隆しているので、心室を横断面でみると、左心室の内腔は円いのに対して、右心室の内腔は半月状である)
- 530_21【Apex of heart心尖 Apex cordis】 Part of the heart directed downward and to the left. It is formed by the left ventricle.
→(心尖は心臓の下端部でやや尖っている。心尖は心臓の拍動とともに前胸壁にあたる。これを心尖拍動といい、体表で触れることができる。すなわち、一般に左側の第5肋間で、正中線から約4横指(約7cm)左方で触れる。この位置は弾性では左乳頭のすこし内下方である。小児ではやや高くかつ外方にある。)