693
- 693_00【Duodenum十二指腸 Duodenum; Intestinum duodenum】 The ca. 25-30 cm long segment of the small intestine between the pylorus and duodenojejunal flexure.
→(十二指腸は胃の幽門から十二指腸空腸曲まで約25cmの腸管。十二指腸Duodenumは12で、intestinum duodenum digitorumの意味。長さが指を12本横にならべた幅に等しいことによる。第1腰椎の椎体右縁の前方ではじまり、C字状に屈曲して膵臓の頭を取り囲む。腸間膜を欠き、後腹膜臓器の一つであり、胆管、膵管が開口するなど他の小腸とは異なる。十二指腸には4部が区別される。上部は幽門につづく5cmの長さの部で、上背外側へはしる。最初の2.5cmは可動性。上縁には小綱が付着する。上十二指腸曲において、ほぼ下方へ屈曲し、下行部(約8cm)へ移行する。その半ばで後内側壁に一条の十二指腸ヒダがり、その下端に大十二指腸乳頭が隆起し、ここに総胆管と膵管が共通に開口する。その上方2~3cmの部に小十二指腸乳頭があることが多く、副膵管の開口をみる。下行部は下十二指腸曲で左方へ屈曲し、水平部(下部、約8cm)へ移行し、第3腰椎体左縁に達し、左上方へ屈曲し、上行部へつづく。この部は約5cm走行したのち、第2腰椎の左方で急に前方に曲がり空腸へ移行する。この部を十二指腸空腸曲という。この曲がりは、横隔膜直下の後大動脈壁から下降する十二指腸提筋で固定されている。十二指腸の前半、ほぼ大小十二指腸乳頭までには、よく発達した十二指腸腺がある。複合管状胞状腺で、分泌物は粘液性でアルカリ性を示すことから胃酸から粘膜を保護するのではないかといわれる。)
- 693_00a【Descending part of duodenum下行部(十二指腸の) Pars descendens (Duodenum)】 Lateral, vertically descending segment.
→(十二指腸の下行部は上部は下方に屈曲して(上十二指腸曲)、下行部になる。下行部は長さ約8cm、第2・3腰椎の右側で右腎臓腎門の前を垂直に下行する。下行部の後内側壁には、膵管と総胆管が開口している。この開口部は、下行部のほぼ中央(幽門から約8cmのところ)で、やや隆起し、大十二指腸乳頭(ファーテル乳頭)をつくる。開口部はオッディの括約筋と呼ぶ平滑筋で輪状に囲まれる。大十二指腸乳頭の約2cm上方に、小十二指腸乳頭が見られ、ここに副膵管が開口することもある。大十二指腸乳頭の付近で、十二指腸は膵臓に向かって嚢状に内腔が膨出することがある。十二指腸憩室という。消化管で、しばしばみられる憩室である。)
- 693_01【Small intestine小腸 Intestinum tenue】 The small intestine consists of the duodenum, jejunum, and ileum.
→(小腸は胃の幽門から始まり、回盲口によって盲腸に開くまでの細長い管。十二指腸、空腸、回腸からなる。その長さは成人の死体では、全長約7mであるが、小腸の長さは平滑筋層の張力に依存しているために、死後伸びる。生体では平均5mといわれている。食物の消化吸収の主な場所であり、その属腺として肝臓と膵臓がある。小腸は腸間膜を欠く十二指腸と腸間膜小腸が区別され、後者は空腸(はじめの2/5)と回腸(あとの3/5)に分けられる。吸収上皮は内腔への大小の突起を突出させ、表面積は約20m2にも達する。最大の突起は粘膜下組織までを含む輪走する輪状ヒダで、十二指腸で最も発達している。これより一段小さい突起は高さ約1mmの腸絨毛上皮と粘膜固有層とからなり小腸内面をおおう。十二指腸では養状を呈し、空腸、回腸では円柱状である。絨毛の粘膜固有層へは1~2本の動脈が侵入し、先端部で上皮直下の密な毛細血管網に移行したのち1本の小静脈へ注ぐ。絨毛の内輪には太いリンパ管があり脂質の吸収にあずかる。粘膜固有層にはリンパ球、形質細胞、大食細胞などが多数みられる。ことにリンパ球は集族増殖して孤立リンパ小節やそれらが集合して集合リンパ小節をつくる。後者は回腸に多い。発達したリンパ小節は粘膜筋板をおおって粘膜下組織へも侵入する。)
- 693_02【Bile duct; Common bile duct総胆管;胆管 Ductus choledochus; Ductus biliaris】 Duct draining the gallbladder that is formed by the union of the common hepatic and cystic ducts and passes to the major duodenal papilla.
→(総胆管は肝管と胆嚢管の合流点から十二指腸下行部の内側面に下行する6~8cmの管で、肝十二指腸間膜の中を、肝固有動脈、門脈と伴行する。十二指腸に終わる手前で膵頭を貫き、膵管と合流する。膵頭癌に際して総胆管が圧迫されて黄疸を起こすことは、この局所解剖学的関係による。総胆管は膵管と合流するところ、あるいはその直後に胆膵管膨大部をつくったのち、大十二指腸乳頭において十二指腸に開口する。総胆管の内面は単層円柱上皮で覆われ、固有層には小さい胆管粘液腺がある。筋層はおよそ内輪外斜の走行を示すが、とくに総胆管の下部では輪走筋が発達して、総胆管括約筋とよばれる。また胆膵管膨大部には(胆嚢管)膨大部括約筋が発達している。オッディーの括約筋の名で親しまれるこの筋は、消化管ホルモンや神経の作用を受けながら、胆汁と膵液の放出の肝門をなしている。)
Wirsung, Duct of
- 693_03Wirsung, Duct of【Pancreatic duct膵管;主膵管;大膵管 Ductus pancreaticus; Ductus pancreaticus major】 Main duct draining the pancreas that empties into the major duodenal papilla together with the bile duct.
→(ウィルスングの管とも呼ばれる。副膵管(サントリーニ管)に対して主膵管ということもある。膵臓の主導管で、膵尾から膵島まで貫通し、大十二指腸乳頭で十二指腸に開口している。膵臓は発生学的には二つの原基から生じる。すなわち十二指腸から前の方に延び出す腹側膵臓ventral pancreasと、後に延び出す背側膵臓dorsal pancreasとである。腹側膵臓の導管がウィルスングの管で、背側膵臓の導管がサントリーニ管は途中でウィルスングの管に吻合する形で合流し、大十二指腸乳頭に開く。これが(主)膵管である。サントリーニの管の残部は細くなって退化し、副膵管となって小十二指腸乳頭に開く。腹側膵臓のところからは、更に前方に肝臓の原基が延び出すので、その導管である総胆管は必ず膵管と関係をもち、副膵管と関連することは絶対にない。膵管の発見者といわれるウィルスングは、17世紀中葉にイタリアのバドバ大学の解剖学教授として活躍したドイツ人である。膵管についての記載と図は、当時解剖学の権威として名声の高かったパリのリオランJ. Riolan (1577~1657)への手紙に書かれたもので、彼の著作の中には見えないと言うことである。そのためもあろうが、彼は後年(1643)、この膵管の発見の優先権を他の学者と争って決闘し、そのために殺されてしまったという。Ductus pancreatiucusはまことに悲壮なエピソードを秘めているのである。副膵管に名を留めているサントリーニGiovanni Domenico Santorini (1681-1737)は、かのマルピーギM. Malpighi (1962-1694)の弟子であった。ウィルスングの膵管と合流する総胆管ductus choledochusの語源にも年のために触れておこう。ギリシャ語でcholeは胆汁、dochosは容れものという意味である。古代ギリシャの医学では、体液の性状が健康を保ったり、からだや心の病気を引き起こすという、体液説が基本的な考えであった。「胆汁質」choleicという言葉が怒りっぽくて扱いにくい性格を表現する英語として今でも使われ、メランコリーmelancholy、つまり胆汁が濃くなっているという意味の言葉が今日に生きている。これは血液や粘膜と共に胆汁が人間の健康や性格や心理を決定する重要な体液と考えられた名残りである。ドイツの解剖学者Johann Georg Wirsung (1600?-1643)により、1642年に記載された。
膵臓外分泌部(消化腺)の導管。膵体~膵尾にある小導管を集め、十二指腸に分泌する。膵管には、大十二指腸乳頭(ファーター乳頭Vater's papilla)に開く主膵管(ウィルスング管Wirsung's duct)と、小十二指腸乳頭に開く副膵管(サントリーに管Santorini's duct)とがあり、膵臓内部で連絡をもつ。なお、副膵管退化して認められない例もある。(イラスト解剖学))
Vater, Tubercle of
- 693_04Vater, Tubercle of【Major duodenal papilla大十二指腸乳頭;十二指腸乳頭;ファーテル乳頭;ファーテル憩室 Papilla duodeni major; Papilla duodeni; Diverticulum Vater】 Projection at the end of the longitudinal fold with the openings to the bile duct and pancreatic duct.
→(ファーテルの乳頭Vater's papillaとも呼ばれる。十二指腸下行部の後内側壁にある、やや隆起していている粘膜隆起。総胆管・膵管が開口している。ドイツの解剖学者Abraham Vater (1684-1751)によって、1710年に記載された。)
Santorini's duct
- 693_05Santorini's duct【Accessory pancreatic duct副膵管;小膵管 Ductus pancreaticus accessorius; Ductus pancreaticus minor】 Additional duct that is usually present and drains into the minor duodenal papilla above the major duodenal papilla.
→(サントリーニの管とも呼ばれる。膵臓の導管で主膵管に対して副膵管とよばれる。多くの場合存在する付加的な導管で、大十二指腸乳頭の上方にある小十二指腸乳頭に開く。退化的であることが多く、また十二指腸に開口しないこともある。イタリアの解剖学者Giovanni Domenico Santorini (1681-1737)によって報告された。これに対して主膵管をウィルスング管Wirsung's ductという。)
- 693_06【Longitudinal folds of duodenum十二指腸縦ヒダ Plicae longitudinales duodeni】 Longitudinal fold caused by the pancreatic duct and bile duct on the left side of the posterior wall of the descending part of duodenum.
→(十二指腸縦ヒダは下行部後壁の左側にある縦のヒダで、大膵管と総胆管によりできる。)
- 693_07【Circular folds of duodenum輪状ヒダ(十二指腸の) Plicae circulares duodeni】
→(")
Kerckring's valves
- 693_07aKerckring's valves【Circular folds of small intestine; Circular folds of Kerckring; Kerckring's valves輪状ヒダ;ケルクリング襞(小腸の) Plicae circulares intestini tenuis】 Up to 8 mm high permanent folds containing submucosa that extend transversely to the intestinal axis, encircling around two-thirds of the intestinal lumen.
→(ケルクリング襞ともいう。とくに空腸で数多く存在する(ヒダの全数は約800といわれる)。名前は輪状ヒダとなっているが、これらのヒダが腸管の全周を輪状に完走していることはまれで、多くはその周の1/2~2/3を走るにすぎない。輪状ヒダは空腸では数も多く、丈も長いが、回腸では次第に数が少なくなり、回盲部ではほとんど消失している。オランダの解剖学者Theodorus Kerckring (1640-1693)の名を冠するが、その前にイタリアのファロピウスが発見している。)