Rauber Kopsch Band2. 68

V.交感神経系Systema nervorum sympathicum(vegetatives, sympathisches oder Gangliennervensystem)

 交感神経系はしばしば自律神経系“autonomes Nervensystem”とも呼ばれるが,しかしこの名称はまた副交感神経だけにも用いられる.(自律神経系という名称は交感神経系および副交感神経系を合せたものにもちうるのがむしろ普通であると思う.本書では交感神経系という名称を広い意味で,すなおち副交感神経を含めたものに用いている.(小川鼎三))

 これまでに見てきた神経系の多くの部分と同じく交感神経系の成分にも分節的の配列がはっきりと認められる(図567).つまりこれは次の諸部からなり立っているのである:

1. 脊柱に沿って各側にならんでいる多数(20~25)の神経節,すなわち[交感]幹神経節Ganglia trunci sympathiciであって,これらは縦走する短い結合索,すなわち節間枝Rami intergangliares, Zwischensträngeによってたがいに結合し左右それぞれ1本の縦の索,すなわち交感神経幹Truncus sympathicus,いわゆるGrenzstrang des SympathicusあるいはStammstrang des Sympathicusをなしている.

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2. 交通枝Rami communicantes,すなわち交感神経幹を脳脊髄神経系に結合させている数多くの神経束.

3. はなはだ多数の末梢枝 Periphere Zweige,これは交感神経幹のいろいろな場所からでて,末梢へと走り,ここでふたたび脳脊髄神経と多くの場所で結合し,また交感神経叢Plexus sympathiciを形成したり,この神経叢のなかに大小いろいろの神経節,すなわち交感神経叢の神経節Ganglia plexuum sympathicorumをもつ傾向がいちじるしい.これらの神経節は交感神経幹に属する神経節に対して交感神経の末梢神経節periphere Ganglien des Sympathicusとも名づけられる.

4. 横走する結合枝,すなわち横枝Rami transversi,これは両側の交感神経幹をたがいに結びつけるもので,変化に富んでいる.横枝は交感神経の腰部Lumbalteilと仙骨部Sakralteilでだけかなり規則正しい存在を示している.

 交感神経系は身体を大きく分けた諸部のいずれにも広がっているので,これに頭部KoPfteil・頚部Halsteil・胸部Brustteil・腹部Bauchteilおよび骨盤部Beckenteilを区別する.

[図567]交感神経の模型図

1,1 交感神経幹の神経節;2, 2 節間枝;3 交通枝;4 交感神経節から出て末梢へいたる枝;5 両側の神経節を横の方向に結合する,いわゆる横枝.

1.交感神経幹とその神経節

 交感神経幹は一部は脊柱のそばに,一部は頭蓋底にあり,つまり頭部から尾骨にまで延びているのである.

A. 頚部(図524, 527, 570)

 頚部では各側に通常3つの[交感]幹神経節Grenzstrangganglienがみられる.それは各1個の上,中,下の頚神経節であって,これらはもともと8つの分節性の神経節が2次的に融合して3つになったのである.

1. 上頚神経節Ganglion cervicale craniale, kraniales Halsganglion(図515, 524, 527)

 これは平たい紡錘形のふくらみで,長さ25~30mm,幅6~8mm,厚さ3~5 mmあり,第2と第3頚椎の肋横突起の前方で,頭長筋と深頚筋膜との前にあり,内頚動脈の後方,迷走神経の幹の内側にある.

 上頚神経節の上端は頭部の交感神経とつながり,また下端は第4頚椎,たまには第5頚椎の上端の高さで1つの神経幹に続くが,この幹はまれには重複していることがあり,中頚神経節と結合するのである.中頚神経節は欠如していることがあって,そのときには上頚神経節の下方への節間枝Ramus intergangliaris caudalisが下頚神経節に達する.

 上頚神経節がいくつかの部分からなっていることを示すかのごとくその縁にくびれのあることがまれではない.実際にこの神経節は少くとも4つの分節的の[交感]幹神経節の集合体に相当している.

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2. 中頚神経節Ganglion cervicale medium, mittleres Halsganglion(図524, 527, 570)

 中頚神経節は多くは卵円形をしており,第6頚椎の高さで甲状頚動脈あるいは下甲状腺動脈じしんの前内側面に接していて,その大きさは不定である.これが2~3個のいっそう小さい神経節によっておき代えられていることもあり,また完全に欠如していることもある.中頚神経節から下方へでる節間枝はふつう2本あって,これらが鎖骨下動脈を取り囲んでいる.こうしてできたわなは鎖骨下ワナAnsa subclaviaと呼ばれる.後方の結合枝がいっそう太いもので,まっすぐに下頚神経節に達する.前方の結合枝は比較的細いもので,弓なりに曲がって鎖骨下動脈をとりまいている.

3. 下頚神経節Ganglion cervicale caudale, kaudales Halsganglion(図524, 527, 570)

 これは最下頚椎の肋横突起と第1肋骨とのあいだのへこみにあり,同時に鎖骨下動脈と椎骨動脈の根との後方にある.これは中頚神経節よりもいっそう大きくて,不規則な星状の形をしており,第1胸神経節に触れるまでに接近していることもあり,また第1胸神経節と合していることもある(図527).

B. 胸部(図224, 226, 524, 527, 570)

 交感神経幹の胸部は各側とも11~12個の胸神経節Ganglia thoracicaからなっている. [Burkanova(1948)によればその数は最高16個,最低6個であるという.]

 これらの神経節は脊柱のそばで,肋骨小頭の前方にあり,しかも肋骨上縁の方により近く存在することもあり,肋骨の下縁の方により近いこともある.下方の2個の胸神経節は脊柱にいっそう近づき,第11と第12胸椎の外側面に接している.胸神経節はすべて1本の節間枝によってたがいに結合している.交感神経幹の胸部は胸膜の肋椎部に被われている.すなわち縦隔後部の外にある.

 1胸神経節Ganglion thoracicum primumは最も大きくて,下頚神経節と融合して頚胸神経節Ganglion cervicothoracicum(すなわち星状神経節Ggl. stellare)となっていることがまれではない.また第1胸神経節がさらに第2胸神経節と合していることもまれでない.胸神経節はすべて三角形あるいは紡錘形を呈し,上に述べたことで分るように明かに分節的な配列をしている.

C. 腹部,すなわち腰部Bauch-der Lendenteil(図527, 550, 551, 571)

 第12胸神経節からは交感神経の幹が腹腔のなかに続き,そのさい横隔膜の腰椎部の内側脚と外側脚とのあいだにある裂け目を通り,あるいは外側脚そのものを貫く.

 かくして交感神経幹め腹部Pars abdominalisは腰椎体の前面に達し,ここでは腰筋の起始のすぐ内側にあって,しかも右側では下大静脈の後方,左側では大動脈のそばにある.交感神経幹の腰部には4~5個の腰神経節Ganglia lumbaliaがあり,これらは紡錘形あるいは卵円形をしている.最後の腰神経節がふつう最も大きい.

 Botar(1932)は神経節を5個も見ることは一度もなかった,また4個見たこともまれで,どちらか1側に2個あるいは3個あることがしばしばで,両側にそれぞれ3個あるいは2個あることがいっそう多くて,たまには1側に3個,他側に2個見られたという.

D. 骨盤部(図551, 565, 572)

 交感神経幹の腹部はその骨盤部Pars pelvinaに続いている.骨盤部には多くは4個,それよりまれには5個の仙骨神経節Ganglia sacraliaおよび1個の尾骨神経節Ganglion coccygicumがある.

 仙骨部は仙骨の前面に接して,前仙骨孔の内側にある.両側の交感神経はここではだんだんと相近づく.その下端をなすのが尾骨部Pars coccygicaであって,この部分は個体によりいろいろと違っている.Henleによれば左右の最後の仙骨神経節が下方に向かって凸の仙骨係蹄Ansa sacralisという1つのわなをなして結合することがかなりに多くみられる.

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しかしこの係蹄のなかに小さい神経節が含まれているのが通常である.別の例では(Schumacher, Sitzber. Akad. Wiss. Wien,114. Bd., Abt. III,1905によればこれが普通である)第1尾椎の前面の中央に1つのはっきりとした小さい不対の神経節があって,これが尾骨神経節Ganglion coccygicumであり,これは2つの神経節に分れようとする傾向を示していることがある.

 変異:交感神経幹が少数の場所で中断していることがある.そこでは節間枝が欠如している.Bichatによればこのことは胸部において最もしばしばみられる.多くの動物では[交感]幹神経節の相互の結合が大なり小なりの範囲に欠けているのが正常であって,たとえばヘビの場合がそうである(J. Müller).

2.交通枝Rami communicantes

 これちは脳脊髄神経系の枝としてすでに述べたのであって,脳脊髄神経系と交感神経系とをたがいに結びつけており,脳神経および脊髄神経の前根と後根に属する線維を交感神経に導くが,一方また交感神経の線維をも脳脊髄神経の定型的な残りの3枝(前枝,後枝,髄膜枝)に導いている.上記542, 543頁および図399, 524, 527, 570を参照せよ.

3.交感神経系の末梢の分枝

A. 交感神経系の頚部Pars cervicalis systematis sympathici, Halsteil
1. 上頚神経節の諸枝および結合関係(図524, 527)

a)上方への枝kraniale Äste:

 内頚動脈神経N. caroticus internus;これは内頚動脈とともに頚動脈管に入る(図515).

 頚静脈神経N. jugularis;これは頚静脈孔に達して2本の枝に分れる,その1本は迷走神経の頚静脈神経節に,他のものは舌咽神経の外神経節に達する.

b)下方への枝kaudale Äste:

 下方への節間枝Ramus intergangliaris caudalisは長い結合索であって,中頚神経節に達し,あるいは(中頚神経節が欠けているときには)下頚神経節に達する.

 上心臓神経N. cardiacus cranialis.これはしばしば上に述べた節間枝からおこる1枝を合して太くなり,この節間枝の内側で頚長筋の上を下方に走り,下甲状腺動脈の背方を通って胸郭上口に達する.次いで右側では腕頭動脈に沿い,左側では左総頚動脈に沿ってすすみ,心臓神経叢に達する.これが頚部を走るあいだに迷走神経の上心臓枝ならびに同じく迷走神経から喉頭へゆく枝と多くの結合をなし,また多数の枝を甲状腺にあたえている

[Nn. thyreoidei craniales(上甲状腺神経) (Braeucker)].上心臓神経が心臓神経叢の表層の部分に入るさいに大動脈弓の凹側縁で単一の神経節あるいは2つに分れた神経節に達する.後者のばあいには右側の神経節がいっそう大きいことが普通である.この神経節が1個しかないときは,その長さが5~6mmあって,そのときには心臓神経節Ganglion cardiacumと呼ばれる.しばしばそれよりも上方で上心臓神経の幹のなかに上心臓神経節Ganglion cardiacum cranialeという小さい神経節が1個みられる(図570).

[図568]交感神経の上頚神経節 (左側)

c 内頚動脈神経;j 舌咽神経の外神経節と迷走神経の頚静脈神経節への頚静脈神経;XII および1 舌下神経および第1頚神経との交通枝;X 迷走神経の節状神経節との結合枝;11, III,1V 第2~第4頚神経の前枝との交通枝;ri 下方への節間枝;CS上心臓神経;le 上喉頭神経にいたる結合枝;m 外頚動脈神経;pg 咽頭神経叢にいたる咽頭枝,その大部分は頚神経の交通枝に由来する.

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c)後方への枝dorsale Äste: 

1. 迷走神経の節状神経節 Ganglion nodosum n. vagiとのあいだに短いがしかし太い1あるいは2の結合枝が存在する.

 上頚神経節と節状神経節とが完全に1つに融合していることは W. Fick(Z. mikr.-anat. Forsch., 2. Bd.,1925)によれば14.3%にみられる.

2. 舌下神経との1結合枝.

3. CI~IVとの交通枝(Wrete[1934]によればCVおよびCVIとも交通枝で結ばれる).

d)前方への枝ventrale Äste:

1. 外頚動脈神経Nn. carotici externi,これは2~3本の小幹よりなり,後頭動脈の起始のあたりで外頚動脈に接し,これを取り巻いて神経叢を形成しつつこの動脈に伴なって上方と下方とにすすむ.

 その下方の部分からは総頚動脈が内外の頚動脈に分れる角のところにある頚動脈糸球Glomus caroticumに1枝がでる.また上甲状腺動脈にまつわってこの血管とともに甲状腺に達する上甲状腺動脈神経叢もこれからでている.

 上方への諸枝はいっそう太いもので,

 外頚動脈神経叢Plexus caroticus externusをなしている.この神経叢は外頚動脈に伴なって上方にすすみ,この動脈が分岐するところにまで達する,そして後耳介動脈がでるところには1つの小さい神経節をもち,さらに外頚動脈からの多くの枝を取りまく神経叢に続いている.

 細い枝がオトガイ下動脈A. submentalisに伴なって三叉神経の顎下神経節Ganglion submandibulareに達する.これが顎下(および舌下)神経節の交感根Radix sympathica ganglii submandibularis(et sublingualis)である.また中硬膜動脈に伴なっている神経叢は上顎神経および下顎神経からの硬膜枝を受けており,1枝を耳神経節Ganglion oticumに送っている.これが耳神経節の交感根Radix sympathica ganglii oticiである(図518).

2. 喉頭咽頭枝Rami laryngopharyngici,これは2~3本あって,かなり太い枝であり,その一部は頚神経の上半分に属する交通枝の直接の続きを含んでいる.

3. 迷走神経の上喉頭神経と結合する若干の細い枝.

2. 中頚神経節の諸枝および結合関係(図524, 527)

a)節間枝Rami intergangliares,上方への1本と下方への2本がある.

b)CVおよびCVIとの交通枝.

c)頚動脈神経Nn. caroticiは灰色をした小枝で,その一部は総頚動脈に,また一部は下甲状腺動脈に達し,下頚神経節からでる2本の小枝といっしょになってこれらの動脈にまつわっている.かくして多数の枝を甲状腺にだすところの総頚動脈神経叢Plexus caroticus communisといくつかの小さい神経節をもつところの下甲状腺動脈神経叢Plexus thyreoideus caudalisとが生じている(Braeucker).

d)中心臓神経N. cardiacus medius.これは多くのばあい上心臓神経(この方が長い)よりもいっそう太くて,中頚神経節が欠けているときにはそのあたりの節間枝より発する.総頚動脈の背側面に密接して下行し,鎖骨下動脈の前方あるいは後方で心臓神経叢に達する.これは甲状腺にいく本かの枝をあたえる.これがNn. thyreoidei medii(中甲状腺神経) (Braeucker)である.中心臓神経はときとして胸腔内で1つの楕円形の神経節をもっている.

3. 下頚神経節の諸枝と結合関係(図524, 527, 570)

 下頚部の2つの神経節からの枝は,これらの紳経節じしんがそうであるように,通常はその全体をはっきりとたがいに分けることができない.なおその枝というのが上と中の両頚神経節からの諸枝とよく似ている.

a)節間枝Rami intergangliares.

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b)CVI, C VII, C VIIIとの交通枝.

c)下甲状腺動脈にいたる枝および椎骨動脈に達する特に数多くの枝.後者は椎骨動脈の周囲に椎骨動脈神経叢を作っている.この神経叢はよく発達していて,頚神経との間に結合をもっており,この結合は下方の頚神経では上方におけるよりもいっそうよく発達していて,椎骨動脈神経叢が肋横突孔の中を通るあいだにこれに達している.この神経叢は椎骨動脈とともに上方た走り,この動脈の脳に分布する諸枝に及ぶのである.

d)鎖骨下動脈とその諸枝に達する神経は鎖骨下動脈神経叢Plexus subclaviusを形成して,この神経叢は鎖骨下動脈の諸枝に続いており,また若干の小枝を胸膜頂に送っている(Braeucker 1927),この神経叢および下頚神経節からはかなり太い1本の枝がでて甲状腺に達する.これが(下甲状腺神経)N. thyreoideus caudalis(Braeucker 1923)である.この枝から1本の細い枝がでて下上皮小体に達している.

e)内胸動脈A. thoracica internaの周囲には内胸動脈神経叢Piexus thoracicus internusがある.

f)下心臓神経N. cardiacus caudalis,これは下頚神経節からでる.

g)最下心臓神経N. cardiacus imus,これは第1胸神経節からでる(この心臓神経の存在に関しては異論がある).

 f)およびg)はたがいに合して1つの共通な幹をなしていることがある.左のものは大動脈弓の後方を,右のものは腕頭動脈の後方を通り短い経過ののちに両側とも深心臓神経叢に達する.

心臓神経叢Plexus cardiacus(図527569)

 心臓神経叢には迷走神経の幹および上下の喉頭神経(あるいは肺神経叢)から発する心臓枝Herzästeならびに両側の交感神経の上,中,下3つの頚神経節と上方の5個の胸神経節(Braeucker 1927)から発する心臓枝とが集まっている.

 ときとして存在する舌下神経N. hypoglossusからの心臓枝については上述の484頁を参照せよ.両側の心臓枝の数と太さとが左右のあいだではなはだ異なっていることがある.また心臓神経の数も太さも,その出かたも結合も個体的変化に富んでいる.たとえばBraeucker(1927)は第6胸神経節の1枝までも心臓神経叢に達しているのをしばしば見た.しかしこの場合に目立っている差異は実はただ表面的なことにすぎない.

 両側の心臓神経は胸腔に入るときにたがいに近づいて,多数の吻合によって網の目のひろい網状の心臓神経叢Plexus cardiacus, Herzgeflechtを作り,これには浅層oberflächliche Schichtと深層tiefe Schichtとが区別されるが,しかも両者は密に相つながっている.

1. 浅心臓神経叢Plexus cardiacus superficialis, oberfldichliches Herzgeflechtは特に上部の心臓神経によって作られ,どちらかというと左側の方に広がり,大動脈弓の凹側縁と肺動脈の左右へ分れる部分とを被い,この場所には2つに分れた神経節あるいは(いっそう大きな)単一の神経節,すなわち心臓神経節Ganglion cardiacumをもっている.なお,この神経節が顕微鏡的な神経節となっていて,肉眼で区別できるようなものは欠けていることもある.

[図569]心室筋の神経 ヒト.約×600(Ph. Stöhr jr. による)

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2. 深心臓神経叢Plexus cardiacus profundus.これは浅心臓神経叢よりもいっそう右方にあり,同時にやや上方にあって,大動脈弓のすぐ後方でこれと気管分岐部とのあいだ,かつ肺動脈より上方にある.この深心臓神経叢は浅心臓神経叢よりもいっそう緻密な網をなし,かついっそうつよく発達している.

 心臓神経叢の浅深の両部分からはいろいろな方向に結合枝と末梢への枝とがでている.

a)気管神経叢および肺神経叢との結合枝.

b)大動脈肺動脈との幹へゆく枝.後者は肺枝Rami pulmonalesといい,これは肺神経叢 Plexus pulmonalisとして肺動脈の枝に伴なってすすみ,迷走神経の肺神経叢と結合している.

c)左右の心房の壁に達する枝.

d) (右と左の)心冠状動脈神経叢Plexus coronarii cordis (dexter et sinister).

 右心冠状動脈神経叢Plexus coronarius cordis dexterは大動脈の根部を囲んで右冠状動脈に達し,豊富な叢形成をなしつ.この名前の動脈に伴なっている小枝の集りであって,この神経叢から多数の細い枝がでて右の心室に達し,またそれより数の少い枝が右の心房に達している.左心冠状動脈神経叢Plexus coronarius cordis sinisterは前者よりもいっそうよく発達し,肺動脈の後方で左冠状動脈の初部に達し,この動脈に伴なってのびている.これは右のものと同じようなぐあいに多くの枝を左の心房と左の心室とに送る.

 左右の心冠状動脈神経叢は冠状溝の範囲において,また心房の壁にある神経叢において,顕微鏡的な神経節をたくさんにもっている.これらの神経節はみな心臓の表面の近くで心外膜のすぐ下にあり,そこからわずかな深さの所だけに入りこんでいる.

心臓神経の終末

 心筋の神経はまず血管に接しているが.また独立して走っている神経束もある.これらの神経は網目のあらい神経叢を作っている.この神経叢から出る神経線維はそれからintermuskuläres Endgeflecht(筋間終末神経叢)をなしている.これは極めて細い無髄線維よりなり,筋線維に密接して存在する.運動性の神経終末は人の心筋線維においてはこれまでに証明されたことがない.

 しかし心臓は運動性の神経および運動性の神経終末だけを有っているのでなく,心膜も心内膜もまた神経をそなえている.哺乳類の心内膜(原著には心筋層Myocardとある.(小川鼎三))にある神経は,A. Smirnowによれば心筋層の枝から発している.その線維の多くは無髄である.心内膜のすぐ下では多くの小枝が目の荒い網状のsubendocardiales Geflecht(心内膜下神経叢)を形成し,これからいっそう細い神経束が出ている.それに続いて心内膜の深部に本来のEndocardialnervengeflechte(心内膜神経叢)がある.それから出るいっそう細い束と少数の線維とが合してsubendothetiales Geflecht(内皮下神経叢)とよぶべきものになっている.

 有髄線維とその枝とが心内膜のいろいろな深さで知覚性の終末分枝をなして終わっている.

 心膜Pericardiumのすぐ下には多くの細い神経幹があり,これは主として有髄線維,一部は無髄線維よりなっている.その終末装置Endapparateは細い神経の枝が集つだ網でできていて,これらの枝のあいだには星状の結合組織細胞が支持装置として存在している.この網からは小枝が分れて出て,これが新たに終末装置を成している.最後に述べた終末装置の数は非常に多い.心内膜の中にもこれと同じ種類の終末装置がある.

 血管の内皮のすぐ下に,また外膜の中にもやはり同様な終末装置が見られるのである.

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最終更新日 13/02/03

 

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