Rauber Kopsch Band2. 52

V.三叉神経N. trigeminus(図511519)

 三叉神経は50本の束からなる太い方の知覚性根すなわち大部Portio majorと,細い方の運動性根すなわち小部Portio minorとをもって橋を去る(図417).ついで硬膜の三叉神経孔に入って半月神経節腔に達する.この腔所のなかでその知覚性根がふくらんで脊髄神経節に相当する1つの強大な半月神経節Ganglion semilunare(Gasseri)となる.運動性根はその内側面にあり,それはちょうど脊髄神経における運動性根と知覚性根の関係と同じである(図417).

 半月神経節は,Fernerによれば,長さ17~20 mm,幅5mm,厚さ3mmであり,側頭骨錐体の大脳面の上で三叉神経圧痕のなかにある.この神経節の凹縁は後方,知覚性根の方に向かい,凸縁は前方に向いている.この凸縁からは3本の大きな枝が出る:すなわち眼神経Nervus ophthalmicus,上顎神経Nervus maxillaris,下顎神経Nervus mandibularisである.この下顎神経に運動性根の全部が移行する.下顎神経はそのほかに多くの知覚性の線維をも有し,3つめ枝のうちで最も太いものである.

I. 眼神経N. ophthalmicus(図512514, 516, 517, 519)

 眼にゆく三叉神経の枝であって,3枝のうちで最も細く,海綿静脈洞と外転神経との外側を通って上眼窩裂に達する.ここでは眼神経の上に滑車神経がある.

 この神経は海綿静脈洞のなかを通るあいだに内頚動脈神経叢から若モの細い線維束を受け,動眼神経・滑車神経・外転神経にそれぞれ1本の細い枝を送り,かくしてこれら3つの神経に知覚性の線維をあたえている.眼神経はまだ頭蓋腔内にあるあいだに細い硬膜枝Ramus meningicusを送りだす.これは後方に向い,直ちに滑車神経に接してすすみ,小脳天幕のなかで長くのびた細い枝となって広がり,上錐体静脈洞,横静脈洞および直静脈洞の壁に分布する.

 上眼窩裂に入る前に,眼神経はその3終枝に分れる:

それは

1. 涙腺神経N. lacrimalis(図512, 514).この神経は眼窩の上外側縁に沿い,外側直筋の上を越えて涙腺の眼窩部に達し,涙腺のうしろで各1本の上枝と下枝とに分れる.その上枝は涙腺に細い枝をあたえ,さらにこれを貫いてすすみ,次いで粘膜,外眼角の皮膚ならびに上眼瞼のなかで枝分れする.

S. 459

下枝は眼窩の外側壁に沿って下方に走り,頬骨神経との交通枝Ramus communicans cum nervo zygomatico(図514)によって三叉神経の第2枝(上顎神経)に属する頬骨神経と結合する.この吻合部の前方に凸を画くがわからは涙腺神経と頬骨神経とに由来する多数の細い枝が発して,これらは涙腺に入る.

2. 前頭神経N. frontalis(図512, 513, 517, 519).3終枝のうちで最も太い前頭神経は眼窩の天井および眼窩骨膜のすぐ下で,上眼瞼挙筋の上を前方にすすむ.そして眼窩の中央部よりうしろで内側に向かって走る細い滑車上神経N. supratrochlearisをだし,次いで内側枝Ramus medialisと外側枝Ramus lateralisとに分れる.

 滑車上神経N. supratrochlearisは上斜筋の上縁に沿ってすすみ,滑車の内側面で上下各1本の終枝に分れる.

 その上枝は滑車の上を越えて眼窩を去り,眼輪筋ならびに前頭筋を貫き,枝分れして上眼瞼,鼻根およびこれにつづく前頭部の皮膚に達して終る.

 下枝は滑車のところから下行して,常に鼻毛様体神経から出る滑車下神経と結合している.前方に凸を画いて吻合するこの弓状部からは細い枝がいくつか発して内眼角の皮膚と結膜とに向かっている.

 内側枝Ramus medialisは内側前頭切痕Incisura frontalis medialisの中を,外側枝Ramus lateralisは外側前頭切痕Incisura frontalis lateralisの中を通って前頭部に達する.これらの両神経は眼輪筋,皺眉筋および前頭筋を貫き,前頭部の皮膚のなかを頭頂部にまで広がる.また両神経はそれぞれ外側に向かって下行する1枝を上眼瞼の皮膚と結膜とにあたえている.内側と外側の両前頭切痕のところで前頭神経は前頭骨とその骨膜とに枝をだしている.

3. 鼻毛様体神経N. nasociliaris(図512, 513, 516, 517, 522).この神経は動眼神経および外転神経といっしょに外側直筋の両起始束のあいだを通って眼窩に達する.そして視神経の上,上直筋の下を通って眼窩の内側壁に達する.そして眼窩頭蓋管のあたりで滑車下神経N. infratrochlearisと前篩骨神経N. ethrnoideus anteriorとの2終枝に分れる.この分れる前に毛様体神経節の長根Radix longa ganglii ciliarisすなわち知覚性の根,ならびに1~2本の長毛様体神経Nn. ciliares longiおよび後篩骨神経N. ethmoideus posteriorをだす.長毛様体神経は視神経の内側面に接して眼球に達し,後篩骨神経は翼口蓋神経節からの眼窩枝とともに眼窩篩骨管に達する.鼻毛様体神経の2終枝は次の経過をとる:すなわち

a)滑車下神経N. infratrochlearisは上斜筋の下で眼窩の内側壁に接して前方にすすみ滑車にいたり,各1本の上枝と下枝とに分れる.その上枝は滑車上神経と結合して,上眼瞼に達する.これが上眼瞼枝Ramus palpebralis superiorである.下枝,すなわち下眼瞼枝Ramus palpebralis inferiorは(もともと皮膚の一部であるところの)涙嚢に,また涙丘に分布し,そのうえ細い枝を内眼角の皮膚へも送っている.

b)前篩骨神経N. ethmodieus anteriorは眼窩頭蓋管を通って頭蓋腔に達し,硬膜に被われて臨板の上を前方にすすみ,前方の1つの孔(前篩骨孔Foramen cribro-ethmoideum)を通って鼻腔に入る.ここで鼻腔の粘膜にゆく内鼻枝Rami nasales interniと鼻の皮膚にゆく外鼻枝Ramus nasalis externusとに分れる.

α)内鼻枝Rami nasales interniには鼻中隔の粘膜の前方部に分布する中隔前鼻枝Rami nasaleg anteriores septiおよび外側前鼻枝Rami nasales anteriores lateralesとがあって,後者は篩骨の上鼻甲介と中鼻甲介の前端のところを通りすぎて鼻腔の外側壁の前方部の粘膜に広がる(図516).

β)外鼻枝Ramus nasalis externusは鼻骨の後面にある溝のなかを下方に走り,次いで鼻骨孔の1つあるいは鼻骨と中隔鼻背軟骨の鼻背板とのあいだを通って鼻の皮膚に達し,鼻尖にまでのびて,そのあたりの皮膚に分布する(図516, 517, 522).

S. 460

II. 上顎神経N. maxillaris(図514517, 519)

 三叉神経の第2枝であって,正円管を通って翼口蓋窩に達し,ここから下眼窩裂を通って眼窩の底にいたり,上顎骨の眼窩下管に入る.

 まだ頭蓋腔の内部にあるときに1本あるいは2本の硬膜枝Ramus meningicusという細い枝を硬膜に送りだし,この枝は中硬膜動脈の前枝の分布領域に広がり,三叉神経第3枝のだす硬膜枝と結合している.

 三叉神経第2枝(上顎神経)が頭蓋腔のそとにおいて出す枝äußere Ästeは次の3つ:すなわち頬骨神経N. zygomaticus,眼窩下神経N. infraorbitalis,翼口蓋神経Nn. pterygopalatiniである.

1. 頬骨神経N. zygomaticus(図514, 517)は翼口蓋窩のなかで幹から発し,下眼窩裂を通って眼窩に入る.そこで1枝(頬骨神経との交通枝)によって涙腺神経と結合する.それからこの神経は眼窩の外側壁で頬骨眼窩孔に入り,そこで次の2枝に分れる.:a)頬骨側頭神経N. zygomaticotemporalis,これは頬骨側頭孔からでて側頭窩に入り,側頭筋と側頭筋膜とを貫いて側頭の前方部の皮膚に分布する(図517),b)頗骨顔面神経N. zygomaticofacialisは1本あるいは2本の枝となり頬骨顔面孔を通って頬骨の外面に達し,眼輪筋を貫いて頬部の皮膚に分布する.そのさい顔面神経の末梢枝と結合する(図517).

2. 眼窩下神経N. infraorbitalis(図514, 515, 517, 521, 522).この神経は上顎神経の幹の続きをなし,下眼窩裂を通って眼窩の底に達し,眼窩下溝ならびに眼窩下管に入る.その先きは眼窩下孔を通って上顎骨の前面に達する.その枝は次のものである:

a)後上歯槽枝Rami alveolares maxillares posteriores(図514, 515).これは通常2本あって,眼窩下神経が眼窩に入る前にすでに幹から分かれて,同名動脈に伴って上顎結節のところを下行する.後方の1枝はその線維の一部が上顎骨の外面Außenzvandにとどまって,大臼歯の範囲の歯肉と頬粘膜のこれに隣接する部分とに分布する.そのほかの諸枝は歯槽孔を通って上顎洞の後外側壁に達する.ここでは骨壁にある不完全な管のなかを前方に走り,中上歯槽枝と神経叢の状態をなして結合し,その細い枝を上顎洞の粘膜にだし,また上歯枝Rami dentales maxillaresを3本の大臼歯に送っている.

b)中上歯槽枝Ramus alveolaris maxillaris medius(図515).この枝は眼窩下溝のなかで眼窩下神経から分れ,はじめは特別な1つの小管のなかを走り,次いで上顎洞の外側壁の1つの溝のなかを下行し,後方は後上歯槽枝と,前方は前上歯槽枝と結合する枝をだし,その先きは細い枝に分れて2本の小臼歯とそれに属する歯肉の部分とに終る.

c)前上歯槽枝Ramus alveolaris maxillaris anterior(図515).これは眼窩下孔の近くで眼窩下神経から分れ,上顎洞の前壁にある特別な1つの小管を通って歯槽縁にすすむ.ここで前上歯槽枝は1本の鼻枝Ramus nasalisを鼻腔へだしており,その残りが歯枝Rami dentalesであって,これは上顎の犬歯と切歯とにゆく.

 鼻枝Ramus nasalisは特別な1つの小管を通って鼻腔底の前方部の粘膜に達する.鼻枝は鼻口蓋神経N. nasopalatinusと吻合している(461頁).

 歯枝Rami dentalesはたがいに結合して上歯神経叢Plexus dentalis mqxillarisをなし,この神経叢は凸側を下方に向けている.上歯神経叢からは上顎の歯槽と歯への神経がでている.これが上歯枝Rami dentales maxillaresと上歯肉枝Rami gingivales maxillaresである(図515).

d)眼窩下管から出たのちに眼窩下神経はその終枝に分れ,これらの枝が顔面神経と結合する.その枝としては次のものがある:

S. 461

α)下眼瞼枝Rr. palpebrales inferioresは多くのばあい内側枝と外側枝とが1本ずつ存在する.これらの両枝は眼輪筋の下縁を廻って下眼瞼に分布している.

β)外鼻枝と内鼻枝Rr. nasales externi et interniは2~3本あって,鼻の側壁の皮膚,鼻翼および外鼻孔の皮膚に分布する.

γ)上唇枝Rr. labiales maxillaresは3~4本あり,まず骨と筋肉とのあいだを下方に走って,上唇の皮膚と粘膜に達し,口角にまで及んでいる(図514).

3. 翼口蓋神経Nn. pterygopalatini(図514, 515).これは翼口蓋窩に達する1本あるいは2本の短い神経で,上顎神経の下縁からでて直ちに平たい三角形の翼口蓋神経節Gangliρn pterygopalatinumに達する.

翼口蓋神経節Ganglion pterygopalatinum(図514516, 520)

 翼口蓋窩のなかにある(副交感神経性の)翼口蓋神経節はその大きさが毛様体神経節の2~3倍もあり,次の3と結合している.それは知覚根(翼口蓋神経),運動根(大浅錐体神経)および交感根(深錐体神経)の3つである.そのうち後2者はたがいに合して翼突管神経N. canalis pterygoideiとなってこの神経節に入る.翼口蓋神経節には多極神経細胞が集まっている.この神経節から次の枝がでる:1. 外側および中隔後鼻枝Rr. nasales posteriores laterales et septi, 2. 口蓋神経Nn. palatini, 3. 眼窩枝Rami orbitales.

a)翼口蓋神経節の根

α)知覚性の翼口蓋神経Nn. pterygopalatini.その線維の一部はこの神経節のすぐそばを通りすぎ,他の一部はこれを貫いて,その両者がこの神経節からおこる線維とともに,口蓋神経と後鼻枝のなかを走って軟口蓋と硬口蓋に達し,また鼻腔のかなり広い部分の粘膜に分布する.

β)大浅錐体神経N. petrosus superficialis major(図514516, 520)は顔面神経の膝神経節にはじまり,顔面神経管裂孔からでて,大浅錐体神経溝のなかを通って蝶骨錐体軟骨結合に達し,頚動脈管内口の外側でこの軟骨結合を貫き,深錐体神経と合して翼突管を通つで翼口蓋神経節に達する.この神経は顔面神経からの副交感線維を含んでおり,またおそらくは翼口蓋神経から来て顔面神経の末梢部に移行する知覚性の線維をも含むと思われる(顔面神経および伝導路の項参照).

γ)深錐体神経N. petrosus profundus(図514516).この神経は交感性の内頚動脈神経N. caroticus internusの外側枝からでて蝶骨錐体軟骨結合を貫通して翼突管に入り,ここで大浅錐体神経と合して翼突管神経N. canalis pterygoideiとなる.深錐体神経は上頚神経節と翼口蓋神経節とのあいだを結ぶ交感神経幹の一部であるといえる.

b)翼口蓋神経節の枝

α)外側後鼻枝Rr. nasales posteriores lateralesおよび中隔後鼻枝Rr. nasales posteriores septi.

 これらの枝は翼口蓋孔を通って鼻腔に入るもので,それに内側の枝外側の枝とが区別される.内側の中隔後鼻枝は細い2~3本の神経で,その一部は鼻中隔の上部に分布するが,これらの枝のうちの1本は鼻口蓋神経N. nasopalatinusとよばれて,かなり長い経過をとり,中隔の骨膜と粘膜とのあいだを中隔後鼻動脈とともに前下方に進んで,切歯管に達する.

 切歯管において両側の神経がたがいに合し,細い枝を口蓋粘膜の前方部にだす.この神経は知覚性の線維を中隔の下部の粘膜に送っている.かつ切歯管に入るまえに460頁で述べたように前上歯槽枝の鼻枝Ramus nasalisと結合する.これらの神経の口蓋に分布する枝は大口蓋神経N. palatinus majorと結合している.

S. 462

[図514]上顎神経の分枝 (HirschfeldおよびLeveilléによる).4/5

 左の眼窩の外側壁は取り去り,上顎骨を取りまく軟部組織は大部分取り除いてある.

[図515]上顎神経と翼口蓋神経節(HirschfeldおよびLeveilléによる).2/3

S. 463

 外側後鼻枝Rami nasales posteriores laterales(図516)は6~10本の繊細な枝で,一部は翼口蓋孔を通り,また翼口蓋管の前壁にある孔を通って鼻腔に入り,篩骨に属する両鼻甲介の後部と,上鼻道および後篩骨洞の粘膜に枝分れし,一部は後方に走って咽頭円蓋に達し,後鼻孔の上部や耳管咽頭口ならびに蝶形骨洞の粘膜に分布している.

β) 口蓋神経Nn. palatini(図516)は3本あって,それは翼口蓋管とそれからでる2つの側管を通る.大口蓋神経N. palatinus majorは3本の枝のうちで最も太くて,翼口蓋管と大口蓋孔とを通って硬口蓋Palatum durumに達し,3~4本の枝に分れて,口蓋溝のなかを前方に走り,硬口蓋の粘膜や口蓋腺および歯肉に分布する.この神経は切歯孔で鼻口蓋神経と吻合している.翼口蓋管のなかを通るあいだに()外側後鼻枝Rami nasales posteriores laterales(inferiores)を下鼻甲介ならびに中鼻道と下鼻道の粘膜に送る.小口蓋神経N. palatinus minorは後方の小口蓋管ならびに後方の小口蓋孔を通って軟口蓋Palatum molleに達する.この神経は軟口蓋の下面の粘膜に知覚性の枝をあたえている.

 中口蓋神経N. palatinus mediusは3つの口蓋神経のうちで最も細く,小口蓋孔のうち外側の孔を通って咽頭扁桃のあたりに達する.

γ)眼窩枝Rami orbitalesは2~3本の細い枝である.これらの枝は下眼窩裂を通って眼窩にいたり,ついで眼窩篩骨管に達し,蝶形骨篩骨縫合にある小さい孔を通って後篩骨洞と蝶形骨洞の粘膜に達する.また若干の小枝を視神経の鞘にもあたえている.

翼口蓋神経節の構造

 この神経節には多極神経細胞があり,その神経突起は Lenhossék (1895) によれば鼻粘膜と口蓋粘膜に入り,そこでは上皮内で枝分れして自由終末をなしている.翼口蓋神経の線維の一部は単にこの神経節を通過するだけである.他の一部はこの神経節の細胞のまわりで終末分枝をなし,また細胞の周囲に線維籠Faserkörbeを作っている.

III. 下顎神経N. mandibularis(図512, 516519)

 三叉神経の第3枝で,しかも3つのうちで最も太い枝であり,これには知覚性の線維のほかに小部Portio minorの全部,つまり三叉神経の運動性の根が含まれている.しかし脊髄神経におけるように知覚性と運動性の両線維とが密に混り合うのではなくて,運動性の線維の大部分は,三叉神経の幹が卵円孔を通過した後に知覚性の線維の一部とともに咀嚼筋と頬粘膜とに達する.その残りの方がいっそう太くて,主として知覚性の線維よりなっている.第3枝にも(副交感性の)神経節があって,それは耳神経節Ganglion oticumと顎下神経節Ganglion submandibulareとである.

 第3枝から最初にでる枝は硬膜枝R. meningicusである.これは中硬膜動脈とともに棘孔を通って頭蓋腔に戻って入り,この動脈の前枝と後枝に伴って進む.前方の枝は直ちに蝶形骨の大翼の内部に入り,後方の1枝は錐体鱗裂を通って乳突蜂巣の粘膜に達している.

1. 咀嚼筋に分布する枝は次のものである(図512.516, 517)

 a)咬筋神経N. massetericus.これは外側翼突筋の上を通り,下顎切痕をへて咬筋に達し,細い線維を顎関節にも送っている.b)後深側頭神経N. temporalis profundus posterior.これは外側翼突筋の上を越えて側頭筋の後部にいたり,前者と同じく細い線維を顎関節に送る.c)前深側頭神経N. temporalis profundus anterlor.

S. 464

[図516]翼口蓋神経節の根と枝 内側面からあらわす.鼻腔の外側壁の神経といくつかの下顎神経の枝を示してある.(9/10)

S. 465

これは外側翼突筋の上を越え,あるいはこれを貫いて側頭筋の前部に向かっている.d)外側翼突筋神経N. pterygoideus lateralis.これは多くのばあい頬神経の中を走って,外側翼突筋を貫くときにこの神経から分れる.e)頬神経N. buccalis(図517)は外側かつ前方に向い,外側翼突筋を貫き,あるいはこの筋の下から現われて頬筋の外面を口角にまで達し,そのあいだに終枝に分れる.その終枝のうち若干のものは頬筋を貫いて,頬部の粘膜にいたり,別の枝は頬部の皮膚に達して顔面神経の枝と結合する.f)内側翼突筋神経N. pterygoideus medialis(図516, 518).これは下顎神経の内側面から発して,耳神経節を貫き,あるいはこれに接してすすみ,次いで内側翼突筋に入る.耳神経節の近くでこの神経は口蓋帆張筋神経Nmusculi tensoris veli palatiniと鼓膜張筋神経N. musculi tensoris tympaniをだしている.

2. 耳介側頭神経N. auriculotemporalis.図517519, 521, 522

 これは下顎神経の幹の後縁から通常2根をもっておこり,この2根のあいだに中硬膜動脈をはさんでいる(図518).次いで下顎骨の関節突起のうしろで弓なりに曲がって外側上方に向い,耳下腺の下に進み浅側頭動脈のうしろに達し,その終枝は耳と側頭部の皮膚に放散する.この神経は経過の途中で2つの結合をなしている:すなわち a)耳神経節から枝(図518) (耳神経節交通枝Rami communicantes ganglii otici)を受ける.この枝によって舌咽神経から小浅錐体神経の仲だちによって耳下腺への分泌線維が耳介側頭神経に導かれる.b)耳介側頭神経は顔面神経N. facialisと結合する.これには多くのばあい顔面神経との交通枝Rami communicantes cum n. faciali(図517)とよばれる2枝があり,これらの枝は耳介側頭神経が上方に曲るところで顔面神経の上部の枝と合して,これに知覚性の線維をあたえる(図522).

 耳介側頭神経の枝としては次のものがある:1~2本の顎関節への小枝.耳下腺枝Rami parotidici,これはその数が個体によってちがい耳下腺の実質にゆくものである.外耳道神経Nn. meatus acustici externiはふつう2本あり,それは上下各1本であって外耳道の骨性部と軟骨性部との境から後者の壁に入っている.その下枝は外耳道の下壁に,上枝は上壁にいたり,いずれも外耳道の皮膚を支配するのにあずかっている.上枝から鼓膜枝R. membranae tympaniという細い枝がでて鼓膜に達する.つぎに前耳介神経Nn. auriculares temporales(図517).これは浅側頭動脈のうしろを通って耳介の凹面の皮膚に分布する.また浅側頭枝Rr. temporales superficiales(図517)は耳介側頭神経の終枝であって,頬骨弓の上を越えたのちに耳の前方と上方の側頭部の皮膚に広がっている.その枝分れの最終のところが前頭神経・顔面神経・後頭神経の諸枝と吻合している.

3. 下歯槽神経N. alveolaris mandibularis.(図517, 518, 522)

 この神経は下顎神経の数多くの枝のうちで最も太くて,外側翼突筋と内側翼突筋とのあいだを下方にすすみ,そのさい舌神経の後外側にあり,下顎と蝶骨下顎靱帯とのあいだをへて下顎孔に達する(図517).そして下歯槽動脈といっしょに下顎管のなかを走り,大臼歯と小臼歯とに分布し,その残りをなす下歯槽神経の線維の大きい方の集りはオトガイ神経N. mentalisとなってオトガイ孔を通って外にでる(図517, 522).残りの細い方の集りは下顎管の中をさらにすすんでそのがわの下顎の犬歯と切歯とに分布する.下顎孔に入る前にこの神経は顎舌骨筋神経Nmylohyoideus曾(図517, 518, 534)をだす.この枝はまず内側翼突筋に被われて顎舌骨神経溝のなかをすすみ,次いで顎舌骨筋の下面に接して前方に走り,顎舌骨筋と顎二腹筋の前腹とに分布する.この神経は多くのばあいオトガイ部のすぐうしろで若干の細い枝をオトガイ部とオトガイ下部の皮膚に送っている.

S. 466

 下歯槽神経は下顎管の内部で下歯神経叢Plexus dentalis mandibularisを作る.それらから出る枝は下歯枝Rami dentales mandibularesと下歯肉枝Rami gingivales mandibularesである.

 オトガイ神経N. mentalisはしばしばすでに下顎管のなかで分れていて,オトガイ孔から外に出るときにオトガイ三角筋に被われており,オトガイ枝Rami mentalesと下唇枝Rami labiales mandibularesとに分れる.前者は頭部の皮膚に分布し,後者は下唇の皮膚と粘膜とにいたる.

[図517]下顎神経の分枝 外方からあらわしてあり,さらに顔面に分布する眼神経と上顎神経の枝を示す.(4/5)

4. 舌神経N. lingualis(図61, 517, 518, 524, 525, 536)

 舌神経は外側翼突筋と内側翼突筋とのあいだで顎動脈の内側面を下行し,そのとき上に述べた下歯槽神経の前内側にある(図517, 518).内側翼突筋の前縁から前上方に凹をむけたゆるい弓形をなして曲り,まず顎下腺の上を通り,次いで顎舌骨筋の上を越えて舌の外側縁に到り,それも舌骨舌筋の外面に達するのである.つぎにその枝が舌骨舌筋とオトガイ舌筋とのあいだで舌の内部に放散する(図524).舌の外側縁では粘膜のすぐ下にあり,またこの神経の外側でその上方を通りすぎるところの顎下腺管Ductus submandibularisと交叉する.

S. 467

[図518]耳神経節とその結合 (内側面からみる) (Fr. Arnoldによる).3/4右側.蝶形骨は卵円孔のあたりで,側頭骨の錐体は中耳を通って鋸で切りとってある.顎関節は内側から剖出してあり,内側翼突筋の一部を取り除いてある.

 結合Verbindungen:a)下歯槽神経からでて斜めに下行し,舌神経に達する1枝が下歯槽神経との結合を示している.b)鼓索神経Chorda tympani(図518, 520)との結合.鼓索神経は錐体鼓室裂からでて,斜めに下前方にすすみ舌神経と鋭い角をなして合する.

 鼓索神経によって舌神経に導かれた線維は舌神経のなかをすすんで舌の前方部ならびに顎下神経節と顎下腺に達する.生理学的にみると,鼓索神経は一部は顔面神経の中間神経にいたる求心性の線維で,味覚をつかさどり,一部は顎下腺と舌下腺とへの遠心性の分泌線維からなっている(図499).

 c)舌神経が顎下腺の上方を通り過ぎるときに短い枝によって顎下神経節Ganglion submandibulareと結合する.

 d)舌骨舌筋の外面で舌神経は1本あるいは2本の小枝,すなわち舌下神経との交通枝Rami communicantes cum nervo hypoglossoによって舌下神経N. hypoglossusの終枝の1つと弓状をなして結合する.

 かくして舌下神経は舌のなかでその終末分布Endausbreitungのための知覚性の線維を受け,あるいはその知覚性の線維が舌下神経のなかをさらに中心の方にzentralwärtsすすみ,この神経が頭蓋腔から出るところですでに知覚性をもつことの原因をなす.

:1. 舌神経はなお内側翼突筋に被われているところで若干の細い枝を口腔底の粘膜の後部にだす.これが口蓋枝Rr. palatiniである.

2. 舌下腺の後縁で舌神経から舌下枝N. sublingualisがでる.これは舌下腺の外側面に接して前方にすすみ,一部は舌下腺に,一部は口腔底の粘膜に,また一部は歯肉の前方部に細い枝をもって分布する.

S. 468

 舌下腺に入る線維は顎下神経節ならびに次に述べる神経細胞の特別な群から発している.後者はこの神経の枝のなかに散在していて,時として1つの神経節,すなわち舌下神経節Ganglion sublingualeを作っていることがある.

3. 舌枝Rami linguales(図524).この枝は舌神経の終枝で,舌の前半にゆくものであり,その数が多い.舌枝は舌背,舌の外側縁および舌尖の粘膜に広がり,とくに茸状乳頭Papillae fungiformesと糸状乳頭Papillae filiformesとに終る.舌枝は一部は三叉神経からの単純な知覚性の線維を,一部は鼓索神経からの味覚線維を導いている.

三叉神経第3枝の神経節
A. 耳神経節Ganglion oticum(図518)

 耳神経節は最大の直径が3~4mmある平たい楕円形のもので,卵円孔のすぐ下で三叉神経第3枝の内側面,口蓋帆張筋の外側面に接している.その神経細胞は多極性である.耳神経節は,その根とよばれるいくつかの神経と結合している.また1連の枝を送りだしている.

耳神経節の根

1. 三叉神経第3枝すなわち下顎神経との結合枝,これは全部とはいえないが,なにしろその線維の大部分が内側翼突筋神経およびその諸枝に移って行く.これが運動根Radix motoriaである.

2. 中硬膜動脈のまわりにからまっている交感神経叢との結合枝,すなわち硬膜枝との交通枝Ramus communicans cum ramo meningico.これが交感根Radix sympathicaである.

3. 小浅錐体神経N. petrosus superficialis minor(図518).これは耳神経節と舌咽神経の外神経節とを結合するものであり,同時に顔面神経の膝神経節との結合をもなし,蝶骨錐体裂から出て耳神経節の後端に達している.その線維は大部分が舌咽神経の鼓室神経からきている.これが知覚根Radix sensitivaである.

4. 第4番目の中心がわへの結合として,耳神経節はNervulus sphenoidalis internus(内蝶骨小神経)によって翼口蓋神経節と連なっている.この小神経は耳神経節から出て翼突管神経に達しているのである.

5. 第5番目の結合枝はNervulus sphenoidalis externus(外蝶骨小神経)であって,これはC. Krauseによれば三叉神経の半月神経節に行くという.

 耳神経節から末梢経路に入る絞は次のものである:

1. 耳介側頭神経に達する色の淡い太い枝,すなわち耳介側頭神経との交通枝Ramus communlcans cum n. auriculotemporali, 2. 鼓索神経への枝,すなわち鼓索神経との交通枝Rami communicantes cum chorda tympani, 3. 鼓膜張筋神経N. tensoris tympaniへの1小枝,4. 内側翼突筋神経N. pterygoideus medialisへの1枝,5. 口蓋帆張筋神経N. tensoris veli palatiniへの1枝,6. 頬神経N. buccalisへの1枝,その他に不明な経過をとる,若干の枝.

B. 顎下神経節Ganglion submandibulare(図61, 536)

 顎下神経節はすこぶるまちまちな形をしており,最大の直径は3~3.5mmあり,顎下腺の上方にある.またそれぞれ1本の前方と後方の線維束によって舌神経と結合している.その神経細胞は多極性である.

 後方の束はこの神経節に舌神経と鼓索神経の線維を導き,前方の束はこの神峰節から出る線維を舌神経に導いている.後方の束は運動根Radix motoriaと知覚根Radix sentitivaとを含み,また顔面動脈のまわりの交感神経叢から出るいく本かの細い枝が交感根Radix sympathicaをなすと思われる.

 この神経節は5~6本の繊細な枝を顎下腺にあたえる.これが腺枝Rami glandularesであり,この神経節の下縁から出ている.腺枝はたいてい顎下腺管とともにその腺門に入り,その分泌をつかさどる神経をなしている.若千の細い小枝がその導管に沿って舌下唾液乳頭にまで達する.

 この神経節の前縁から細い枝がでて,舌神経に入り,これといっしょに舌にゆく.ときには若千の小枝がこの神経節から出て舌下神経N. hypoglossusに達し,これに伴って末梢に分布している.

S. 469

三叉神経とその諸神経節の支配区域(図519)

 最も上部にある1(眼神経)は知覚性の線維をもって眼球・諸眼筋・涙腺に分布し,また鼻粘膜の一部および眼瞼裂から頭頂までの頭皮に分布する.

 2(上顎神経)も同じく知覚性であり,主として眼瞼裂と口裂とのあいだの顔面・上顎の歯・口蓋・鼻腔および上顎洞に広がる.

 3(下顎神経)は下方に向かって知覚性の枝を舌および下顎の歯と皮膚とに送り,上方に向かっては側頭部の皮膚と外耳とに線維を送る.また運動性の線維を咀嚼筋,顎舌骨筋および顎二腹筋の前腹にあたえている.

 なお,これらの枝のそれぞれが1本の硬膜枝を分ち,頭蓋腔の壁で三叉神経に属する部分に分布する.

[図519]頭部と頚部における皮神経の分布領域(Corning, Topogr. Anat. より引用)

 黄色の部分は三叉神経(第1枝の範囲は点を打ってあり,第2枝のはそのまま,第3枝の範囲は斜線を引いてある).色をつけてない部分は頚神経.L. 涙腺神経;Z. f. 頬骨顔面神経;F. 顔面神経

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最終更新日 13/02/03

 

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